23.渾身の力を振り絞って
どうしようもない状況に、降参しようと口を開いた時、
「ルーカス様、諦めてはいけませんわ!」
懸命に叫ぶリアの声に顔を上げると、こちらを見下ろすクリスと目が合った。
「魔王をはっ倒して魔界をぶっ潰す夢を語る貴方に惚れた私を、失望させないでくださいませ!」
その言葉を聞いた途端、一気に視界が開けた。
ルーカスの最終目標は魔王をはっ倒して魔界をぶっ潰すことだ。
リアの言う通り、聖魔法ごときに簡単に屈する訳にはいかない。
「聖魔法、撃たないんですか?」
挑発的に笑うと、クリスが同情的な目を向ける。
「ガールフレンドの前で格好つけたい気持ちは分かるけど、弱い者いじめは俺のポリシーに反するんだ。頼むから、降参してくれ」
「誰が弱い者だ!」
全身に走る激痛に構わず下から飛びかかると、クリスが仕方なさそうにしつつも強烈な聖魔法を放った。
言ってることとやってることが違うじゃないか。
限界を訴える両腕でそれを無効化し、聖魔法のエネルギーを放出する。
無効化でさえ十分に機能しなかったのだ。
聖魔法に対して無理やりカウンターを使ったらどうなるかなんて分からない。
無謀なことをしている自覚はあったが、とにかく必死だった。
内側から引き裂かれるような痛みを誤魔化すように、思いっきり叫ぶ。
「クリス様の素晴らしい魔法攻撃、二倍の威力でお返しします!」
ゴオオオオオオオッ
焼け爛れた両腕から特大の火球が放たれた。
それがクリスに命中した感触があったのを最後に、ルーカスは意識を失った。
それから三ヶ月ほどが経ったある日の早朝。
「ルカ様、おはようございます」
静寂に包まれたカディオ邸にて。
アイザックがカーテンを開き、部屋に日の光を入れた。
「本日は珍しく来客のご予定がないので、久々にゆっくりしましょう。昨日はワーグナー様とフリードリヒ様がいらっしゃって騒がしかったですしね。皆様、ルカ様のことをとても心配しておられるのです。ですから、……そろそろ、お目覚めになりませんか?」
そう言う彼の視線の先には、ベッドで眠るルーカスの姿があった。
あれ以来、翌日には外傷が治ったにも関わらず、彼は意識を失ったままだ。
初めて魔法を無効化した時も同じような症状だったが、三日ほどで目覚めていた。
治癒魔法を施しても何の効果も得られず、フェリクスたちは途方に暮れた。
封魔の書に尋ねても、何の反応もない。
主であるルーカスにしかその権限はないのだろう。
「そんなに眠り続けていたら、いつまで経っても魔王を倒せませんよー」
主人の傍で美味しい朝食を摂っていたアイザックがぽつりと呟いた時、ルーカスの瞼がゆっくりと持ち上がった。
パンを片手に固まったアイザックを見て、彼が顔を顰める。
文句を言おうとするが、声が出ないようだった。
「っ、ルカ様、……おはよう、ございます」
「…………なんで、ないてるの」
涙ぐんだアイザックに力強く抱き締められ、ルーカスは困惑しながらも落ち着かせようと彼の背中に両腕をまわした。
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