17. 婚約者?
「アーデルハイド。いくら世間知らずでも、せっかく魔界からお前を追いかけてきてくれたフィアンセにその言い方はない。ねえ、リア嬢?」
ニコニコ顔のフリードリヒに頭を撫でられながら、ルーカスは困惑していた。
リアが自分の婚約者で、魔界から追いかけてきた?
確かにアーデルハイドは後継者として期待されていたが、婚約者なんていなかったはずだ。
………………多分、きっと、おそらく。
「どうせ私のこと覚えていらっしゃらないのでしょう?」
少し拗ねたような顔をしてそう言うリア。
これは本格的にルーカスが悪い状況になってしまった。
助けを求めてフリードリヒをこっそり窺うと、
「お前が五歳の時、城で何度か遊んでたよ」
「……………………あ」
ようやく思い出した。
でも逆に覚えていたルーカスを褒めてほしいレベルだ。
当時アーデルハイドは彼女の姿をしっかり見たことがなかったのだから。
「いつも大きな柱の後ろに隠れてた子だよね?僕を怖がって城に来なくなった」
「怖がってなんかいませんわ!城に行かなくなったのは、……アーデルハイド様のせいです」
「僕のせい?」
小さく首を傾げると、リアの顔が赤く染まった。
先程までのつんつんした態度はどこへやら、新鮮な反応である。
「私すごく太っていたから、姿を見られるのが恥ずかしかったのです。……アーデルハイド様はとても可愛らしかったから」
「…………そうなんだ」
女子にまで可愛いと言われてしまった。
もう自分はあざとい系男子の路線でいくしかないと悟り、遠い目をしてしまう。
「婚約者として隣に立てるように頑張って痩せて、美容の勉強もしていたのですが」
リアの言葉の続きを察したルーカスは自虐的な笑みを浮かべる。
「残念ながら、僕は魔界を追放されたんだ」
「でも、陛下がアーデルハイド様を正式な後継者に任命されたでしょう?」
「魔王がなんと言おうと魔界に戻るつもりはないよ」
「え……?」
驚いて切れ長の瞳を丸くするリア。
彼女には申し訳ないが、ルカの意志は変わらない。
「『魔王を倒して、腐りきった魔界をぶっ潰す』ことが今の目標だからね」
「……何故です?」
「黒髪だから偉いとか、黒い瞳を持ってるから魔王にふさわしいとか。そういう価値観を全部なくして、誰もが等しく幸せになれるようにしたいんだ」
優しく微笑むと、リアは何かを考え込んでいるようだった。
彼女もアーデルハイドとの婚約の無意味さに思い至ったのだろうか。
「自分勝手な理由で申し訳ないけど、そういうことだから僕との婚約は破棄した方がいいと思う」
「……嫌よ」
「…………僕との婚約は破棄した方が」
「お断りしますわ」
状況を呑み込めず怪訝な顔をするルーカスに、リアが小さく笑った。
「いいじゃない、私も魔界をぶっ潰したいと思っていたの。微力ながら、協力させていただきますわ」
「いや、危ないし」
「アーデルハイド様が守ってくださるでしょう?」
こてんと首を傾げ、上目遣いになるリア。
魅了魔法を使っていないはずなのに、何故かとても可愛く見える。
思わず頷いてしまったルーカスは、やはり女耐性をつけるべきかもしれない。
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