お掃除侍女ですが婚約破棄されたので辺境で「浄化」スキルを極めたら、騎士様が「綺麗すぎて目が離せない」と溺愛してきます
咲月ねむと
第1話 アレルギーの王子に婚約破棄されました
「アリシア!貴様との婚約を破棄する!」
目の前でビシッと指を突きつけてくるのは、私の婚約者である第二王子のエドワード様。
陽の光を反射して輝く金髪に、空の色を閉じ込めたような青い瞳。誰もがうっとりと見惚れる完璧な美貌を持つ、この国のアイドルだ。
そんな完璧な王子様が、今は眉間にくっきりと皺を寄せ、心底うんざりしたという顔で私を見下ろしている。彼の隣には、これ見よがしに腕を絡ませる男爵令嬢のリリア様が勝ち誇ったような笑みを浮かべていた。
あぁ、これが噂に聞く婚約破棄イベント。
乙女ゲームや小説で何度も見た、定番のシーンだわ。
前世、日本のしがない清掃員だった私は、ある日、掃除中の事故であっけなく人生の幕を閉じ、この世界の伯爵令嬢アリシアとして生を受けた。
いわゆる転生者というやつだ。
「なぜですの、エドワード様!」
お決まりのセリフを口にしながらも、私の内心は、安堵でいっぱいだった。
だって、この王子様、とんでもない潔癖症なのだ。いや、潔癖症を通り越して、もはや「埃アレルギー」とでも言うべきレベルで。
「理由だと?決まっているだろう!貴様の周りだけ、異常に空気が澄んでいるからだ!」
「は、はぁ…?」
「チリ一つ、埃一つない空間は息が詰まる!俺の完璧な美貌を引き立てる、キラキラと舞う自然な埃までも、貴様は根こそぎ消し去ってしまう!不自然で不気味な女だ!」
出た、王子様の謎理論。
私がお掃除好きなあまり、無意識に「浄化」スキルに目覚めてしまったことは、この際置いておこう。私自身、気づいたのはつい最近だし。
要するに、完璧すぎる王子様は、自分の美しさを際立たせるための「演出」として、光に照らされて輝く埃まで計算に入れていたらしい。私の浄化スキルは、その完璧な演出を台無しにしてしまう邪魔者、というわけだ。
知らなかった…。そんな高等テクニックがあったなんて。
「それに引き換え、リリアは素晴らしい!彼女の周りには、常に絶妙な量の埃が舞っている!これぞ自然の美だ!」
「まぁ、エドワード様ったら!」
うっとりと王子様を見上げるリリア様の肩に、確かに小さな綿埃が乗っている。
あれは昨日の舞踏会で流行っていた、ドレスの羽飾りのかけらだろうか。お掃除したくてウズウズする。
「よって、アリシア!貴様を追放する!行き先は、瘴気が立ち込める北の辺境だ!存分に汚い空気を吸ってくるがいい!」
「まぁ、辺境ですって…!?」
周囲の貴族たちがざわめく。北の辺境といえば、瘴気の影響で作物もろくに育たず、魔物も出ると言われる不毛の地。
追放先としては、これ以上ないほど過酷な場所だ。
でも、私の心は違った。
(瘴気が立ち込める土地…ですって?)
それはつまり、浄化のしがいがある、お掃除天国ということじゃないの。
前世、特殊清掃のドキュメンタリー番組を見ては「やりがいがありそうだわ…」と目を輝かせていた私にとって、それは罰ではなく、むしろご褒美だった。
「…謹んで、お受けいたします」
私はスカートの裾を優雅につまみ、完璧なカーテシーをしてみせた。予想外の反応だったのか、王子様とリリア様がぽかんとしている。
こうして、私は埃アレルギーの王子様から婚約破棄され、お掃除天国と名高い?辺境の地へと旅立つことになったのだった。
さようなら、窮屈な王宮!
こんにちは、私の新しいお掃除ライフ!
胸に愛用のハタキを抱きしめ、私の心は希望で満ち溢れていた。
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