デスゲームプレイヤー俺。彼女なし。

憂生

1L0R

第0話

 俺の胸を抉る、いつかの記憶――。

 決して頭から消えてくれない鮮烈なイメージ。それは最後の別れの場面シーンだ。登場するのは二人の人物。

 俺が気を許していた友人(男性)と。

 今じゃあ、ただの友達とは言い切れない女性(俺とは恋人未満)。

 その二人が今、互いに目に涙を溜めている。

 

「――ちゃん、嫌だ! あ゙あ゙、そんなあ!!!」

 

「いいの。生きて――くん。私、――くんの為なら」

 

 ここは二人が中心の世界。二人の中には俺は居ない。一応、どちら共、俺の親しい人ではある。それどころか、二人は親しい程度じゃあ言い表せないような気がする。きっと俺らは友達なんて生温い関係じゃなく、一緒に苦難に挑んだ戦友のような感じがする。

 ただし、この場面では俺は蚊帳の外にいる。

 鉄の匂いを覚えている。

 空間を一杯に占有する、黒金の連鎖する大きな機械仕掛けはゴウンゴウンと唸っている。それは何かを駆動させるための道具ではない。立派な目的なんてなく、床のベルトコンベアと合わせ、あの機械の機能は殺戮をより凄惨に演出することだけだ。

 

「駄目だ駄目だ駄目だ!!!」

 

 そして。男の身代わりになった女の子が、回転する歯車にメキメキと絡み取られていく。巨大な鉄の塊が骨を押しつぶし、もはや人間の出す音とは信じられない粉砕音が鳴る度、床が弾んだ。

 女の子の顔は苦悶で歪んでいる。それでも絶叫を押し殺し、赤々と紅潮している。目には未だ希望の光が宿り、その視線は彼だけに注がれていた。

 

「絶対、生き残って」

 

 消え入るような声で、彼女は言い残した。

 整ったその顔が、頭が潰されるよりも前に彼女は息絶えた。あとは静かに処理されていく。

 力なく垂れ下がる手を拾い上げた友人を、俺は引き剥がした。後は同じ。例え勝者となっても、俺らは悪い現実を受け入れる他にはなかった。

 

 ……そう、これはデスゲームだ。生き残りを賭けた残酷な戦いの記憶であり、俺の後悔だ。

 あの二人はいつの間にか付き合っていた。俺の知らないところで。絶望的な運命の中で二人だけのものを掴み取った。

 他方、俺はどうか。

 現実に自分を待つ恋人も居ない。そもそも出来たことがない。そんな俺が、どうして誰よりも必死に生き残ろうとするのか、なんて答えの出ない虚無感に苛まれながら。――今、心の深くに重く沈み込む、それを掬い上げた。

 彼女が欲しい。

 とうに希望は冷たくなっている。

 彼女も出来ないまま。経験もないままに死んでしまう。その惨たらしさに対する恐怖によって、形が変わってしまっている。



◇ ◇ ◇

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