第3話 カメのたくらみ
「ウサギさんそれなら僕とあの山のてっぺんまで競争しませんか」
カメは甲羅から突き出した頭で、山のてっぺんを指し示した。
前に書いたようにウサギの視力は、あまり良くない。
山々がぼんやり見えるだけだ。ウサギにはカメの頭がどの山のてっぺんを指し示しているのかわからない。山がたくさんあった場合、ウサギがカメに負けたのは眠っていたばかりではなく、目指す山のてっぺんを間違えた説が出てきた。こんな簡単な説明でよいのだろうか。
ウサギは、山の地形を思い浮かべた。
いつも野山を駆け巡っているのだ。
五つぐらいの山のてっぺんを駆け巡っても十分間もかからないのだ。
「よし、いいだろう、競争しよう」と、ウサギは喜んで言った。
「では、明日以降、朝から晴れていたら、日の出とともにスタートしよう。雨天順延、曇りの日も駄目だよ。僕は変温動物だから気温が低いと十分な力を出せないからね」
ウサギはもちろん同意した。
雨が降っていては雨音で自慢の耳が十分に発揮されないからだ。
「君の足では時間がかかりそうだからスタートラインとゴールラインの観客と立会人は、僕の方から手配しておくよ」と、ウサギは言った。
「じゃ、任せたよ」とカメは言った。
「じゃ、また明日」と、ウサギはその場所を歩み去っていった。
ウサギは、マウントを取ることでカメの反感を買い、徒競走することになったことに満足したが、一方では、冷静に思考していた。
カメと言えども、アホウドリ程間抜けではない。
何か考えがある筈だ。誰がどう考えたって、カメがウサギに勝てるはずがない。
ウサギが後ろ向きに歩いたってカメに勝てるのだ。
ウサギは、ゆっくりその場を離れながら頭を左右に振ってカメの様子を観察した。
ウサギの視界はほぼ360度だ。
真後ろ以外すべて視界に入る。
頭を左右に振るだけで後ろはすべて丸見えなのだった。
カメが視界から消えるすれすれで足を戻して追跡を始めた。
と言ってもカメのスピードでは、ほとんどウサギは佇んでいたと言っても良かった。カメが視界から消えそうになるとまた一歩と静止画のような尾行が始まった。
持て余した時間でウサギは考える。
カメには尻尾があるから正しく尾行である。
尻尾がなくても人間の場合尾行というのは、正しいのかと。
色々な愚考で時間を潰しながら、ウサギはカメを尾行した。
カメは、ヒツジが経営する八百屋に入っていった。
ニンジンを買っている。
数本のニンジンを甲羅に乗せて移動始めた。
次に、立ち寄ったところは、ヤギの経営するドラッグストアーであった。
最近眠りが浅いので睡眠薬を処方してくれとヤギに頼んでいた。
ウサギは理解した。
ニンジンに睡眠薬を仕込んで、眠らせる作戦だ。
カメと違ってウサギには大脳皮質があるのだ。爬虫類脳のカメとはくらべものがないくらい知恵は回る。
ここまでわかっていながら、なぜウサギは眠ってしまったのか。
謎である。
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