パラレル・パラソル
明(めい)
僕の章その1
休日のうららかな昼下がりに、また異変が起きた。
ボランティアでもしようと出かける準備をしている間に体が透け始めたのだ。まずい。
「姉さん、姉さん」
僕は慌てて部屋を出ると隣のドアをノックする。ドアは勢いよく開いた。
「ああ、また・・・・・・」
ストレートの長い黒髪を揺らして姉さんは目の前に立つ。
大学生なのに化粧っ気は全くない。
僕は両手を挙げて訳のわからない動きをしている。一種のパニックに陥っているのだ。
「どうなるの」
「原因はまだ模索中なのよ。どうせしばらくしたら元に戻るんだし、体が透けたからってあんたもいちいち驚かないの。もう慣れているでしょ」
「慣れるもんか」
「私と順以外には透けていることがわからないんだから、散歩でも行っていらっしゃい」
「今行くところだったんだよ。散歩じゃないけど」
言って半透明のポリ袋とトングを見せた。
「じゃ、行っていらっしゃい」
姉さんはニヤリとした笑顔で手を振りドアを閉めた。
体が透けても物は持てる。深呼吸をして冷静さをなんとか取り戻すと、家から出た。
この現象は、小学校に上がった頃から度々起きるようになった。
規則性はなく、ランダムにある日突然全身が透けて、鏡を見ると僕の体を通して後ろの物が見えるのだ。
しかも、それがわかるのは僕と姉さんだけ。他の人にもそう見えるのではないかといつもひやひやとするけれど、今のところは大丈夫だ。
でも大丈夫じゃない。
なぜならば、透けるのはどうやら僕の未来に、二十五歳になった僕の未来に、誰かが僕を殺そうとして植物状態になるからなのだそうだ。
未来の僕はそれだけ不安定な状況に置かれているらしい。そして、殺されるまでもう八年だ。
人によっては八年もあるじゃないかというかもしれないけれど、僕にしてみれば八年しかない。
これには姉さんの命もかかっている。どうも、一蓮托生のようなのだ。
小さい頃、僕が熱を出すと姉さんも熱を出した。僕が怪我をすると、姉さんも場所は違えど同程度の怪我を負う。
だがその逆はない。だから僕になにかあった場合に限り、姉さんも害を被る。
つまり僕が植物状態になれば姉さんももしかしたら同じようなことになるのかもしれないし、死ねば姉さんも死ぬのかもしれない、と二人で予測を立てている。
姉さんには遠い将来まで幸せになって欲しいから、慎重に生きなければならない。
僕は今年の春から高校二年生で、四月生まれだから十七になった。
姉さんは大学三年生で二十一になる。
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