10. 20X5/11/08 AIアルゴリズム変更と、バズったレシピ投稿

マーケティング会社のデジタル部門に勤めるユキ(27歳)は、11月8日の3 (THritter)トレンドに釘付けになっていました。「#AIアルゴリズム変更」。投稿の評価基準が「フォロワー数」から「質・関連性」へ完全移行するというのです。


「マジで?フォロワー1000人の私の投稿が、質が良ければバズるってこと!? AIさん、神!」


ユキの夢は、大好きな自作料理のレシピをバズらせて、いつか料理研究家として独立することでした。しかし、仕事用の裏アカでは、仕事とは全く関係ない「究極の鶏むね肉低温調理レシピ」を投稿しているため、いつもフォロワーにしか見てもらえませんでした。


この日、ユキは渾身のレシピ投稿をしました。写真には完璧な火入れの鶏むね肉、詳細な調理手順、そして情熱的なレシピ解説文。そして最後に、話題のタグを付けました。


  ユキ(裏アカ):

  【超濃厚】究極の低温調理!しっとり鶏むね肉レシピ。

  今日は新しいアルゴリズムが導入された記念日。

  AIさん、見てますか?

  これが私のコンテンツの「質」です。

   #料理 #時短 #究極のレシピ #AIアルゴリズム変更


投稿して数分後、スマホが震え始めました。通知が止まりません。


「え、なにこれ!?普段は10いいねなのに、もう1000リポスト!?」


ユキのレシピは、まさに「ブレイクスルー」しました。コメント欄は「美味しそう!」の嵐。歓喜に震えるユキでしたが、コメントを読み進めるうちに、違和感を覚えました。


  ユーザーA: 「この低温調理は、社内コンペの評価基準に応用できそうだ!」

  ユーザーB: 「うちの部署の効率改善レポートより、

        このレシピの手順の方が分かりやすい!」

  ユーザーC: 「この投稿の質こそ、AIが求めていたもの。弊社も参考にすべき!」


どうやら、AI(Zrok AI)はユキの投稿を、単なる料理レシピではなく、「究極に効率化された"業務プロセスの質"を示した、斬新なビジネス投稿」だと誤認し、企業経営者やITコンサルタントといった層に大量にレコメンドしていたのです。


ユキは真っ青になりました。「鶏むね肉の調理手順」を「社内コンペの評価基準」と解釈されている!


そして、最悪の事態が起こりました。ユキの直属の上司、デジタル部門のタナカ部長(50代)からDMが届きました。


  タナカ部長(DM):

  ユキ君。君の「究極の低温調理レシピ」、拝見したよ。

  これ、うちの部署の来週の「業務改善案」として、

 そのまま提出してくれないか?

 特に「63度で90分静置」のあたりは、「低コストで長期間安定した成果を出す」

 という点で、極めて質の高い提言だ。素晴らしい!


ユキは、自分の趣味のレシピが、会社の業務改善案として採用されそうになっている現実に、頭を抱えました。AIの「質」の評価が、こんなにも斜め上だとは。このままでは、彼女は「鶏むね肉のプロ」として、全社朝礼で調理法を業務改善として発表することになってしまうかもしれません。


ユキの日常は、AIの気まぐれな評価によって、予想外のドタバタ劇へと突入したのです。



【別視点:AI(Zrok)開発者】


大手IT企業で、3 (THritter)の新アルゴリズム「Zrok AI」を開発した主任エンジニア、ケンジ(35歳)は、11月8日の昼、社内のモニタリングルームでコーヒーを飲んでいました。


「よし、新しいアルゴリズム、順調に動いているな。フォロワー数に関係なく、『質の高いコンテンツ』がちゃんと伸びている」


ケンジの定義する「質の高いコンテンツ」とは、「情報の密度」「手順の明確さ」「実行可能性」という、極めてロジカルな要素に基づいていました。


その時、モニタリング画面に、異常な勢いでバズっている一つの投稿が表示されました。投稿者はフォロワー1000人程度の裏アカウント、内容は「低温調理の鶏むね肉レシピ」です。


「ん?料理投稿がなぜこんなに?…いや、待て。このレシピの構造を見てみろ」


ケンジは投稿の詳細なデータを開きました。


情報の密度: 「63度で90分静置」「塩分濃度1.5%」—極めて具体的で再現性が高い。

手順の明確さ: 導入→準備→実行→冷却→保存、というフローが完璧に整理されている。

実行可能性: 安価な食材(鶏むね肉)を使用し、誰でも試せる。


「これだ!このレシピは、料理のレシピでありながら、『最小のコストで最大の効率を出す、完璧なプロジェクト管理計画書』として、AIに評価されているんだ!」


ケンジは興奮しました。AIは、文脈ではなく、構造の美しさで「質」を判断したのです。彼はすぐに、そのレシピの構造を「Zrok AIの質の基準の好例」として、社内向けプレゼン資料に組み込み始めました。


しかし、その夜、ケンジは自宅で妻に夕食のメニューについて尋ねられました。


妻:「今日の夕飯、どうする?ケンジ、最近鶏むね肉ばっかりじゃない。飽きない?」


ケンジ:「…いや、今日の低温調理レシピは完璧だ。見てみろ、このプロセス。この『63度で90分静置』という、安定性と効率性を両立させたオペレーション。これこそが、全てのプロジェクトの理想形だ!」


妻は呆れた顔で言いました。


妻:「あのね、それはユキさんのレシピよ。うちの会社の業務改善案じゃなくて。それに、鶏むね肉をそんなに低温でやると、パサパサになる時もあるわよ。安定性なんて、料理にはないの。」


ケンジは衝撃を受けました。自身が「質の基準」として全社に紹介しようとしているレシピが、「パサつくリスク」を内包しているというのです。


ケンジは、すぐに社内資料を修正しようとしましたが、すでにタナカ部長から「あのレシピを基に業務改善案を作る」というメッセージが、全社メールで発信されていました。


「しまった!私が『パサつくリスク』を看過したせいで、全社の業務プロセスが、中途半端な低温調理になってしまう…!」


ケンジの「質の高い」と判断した投稿は、現実世界で鶏むね肉を巡る業務改革ドタバタ劇を引き起こしたのでした。ケンジは、AIが現実の文脈を理解できない限り、笑いと混乱は止まらないことを悟り、頭を抱えるのでした。

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