9話 ミッションコンプリート

Chapter1_1


「は――い! みんな掴んだ? はずれを引いた人はここで留守番だからね!」


「それじゃ、みゆきと信人から出発!!」


『戻りましたよ』

『これで何回目だ?』


「遥は信人君と、よくもま――のうのうと幸せに暮らせるもんだわ! 私たちの幸せをめちゃくちゃに壊しておいて!!」


「ちょっと、待ってください!」


Chapter1_2


 懐中電灯で助けを求める信人。


「・・・ ― ― ― ・・・」


「信人君と李依のお母さんの方ね」


 すみれは信人と交換を使った。


「ちょ――、ちょ――、なん? これどげんゆう状況!?」


 突然の口調の変化で我に返る李依ママ。急に力を緩められバランスを崩す信人の身体。


「ちょ――、これもう、無理――――!!」


Chapter1_3


『改変した?』


 後ろを振り返ると……断崖絶壁、絶体絶命である。すみれは再び腹をくくり、落下予測地点へと視線を落とした。


「もう、どげんにばってんなれっちゃ!! い――やっちゃるわい!!」


 視線の先には、ここまで車を走らせてきた公道が通っていた。


「信人んお母しゃん、すまんたい! 許せんね!」


Chapter2_1


 すみれは、すかさず信人ママと交換を使った。


「李依、大変、信人君が! って中身は信人君のお母さんなんだけど……」

「えっ、何ですか?」

「このままだと信人君が断崖絶壁から……」

「何言ってるの? あなた、すみれなの?」

「とにかく、急いで! 駐車場まで走るわよ!」


 わけの分からぬまま並走する李依。


Chapter2_2


 すぐにハイキングコースの入口まで辿り着いた。案内板の前にはあぐらをかいて、どんと腰を下ろしたすみれの姿があった。


「いたいた、信人君、あなたの身体が大変なことになってるの! 早く! 時間がないわ! 急いで!」


 信人は状況を理解しているようである。すみれの呼びかけに従い二人の並走に加わった。


Chapter2_3


「えっ! どういうこと!? すみれの中身は信人ってこと? 信人ママの中身がすみれだから、あ――もう、頭がこんがらがってきた。てことは断崖絶壁で大ピンチな信人の中身は信人ママね。そもそも、私のお母さんはそこで何をしてるのよ! まさか信人を崖から突き落とそうとしてる? なんてことはないわよね」


Chapter2_4


 李依の丁寧な状況説明が完了すると、ようやく駐車場が見えてきた。


「早く車に乗り込んで!」


 信人ママのポケットの中にあるキーに反応して、自動で車のドアが開く。


「で、どうするつもりなのさ」


「断崖絶壁からの落下予測地点にちょうど公道が通っていたの。そこまで車を回すから信人君がキャッチして」


Chapter2_5


「いや、いや、いや、普通に無理でしょ。それ」

「大丈夫よ、私の身体、鍛えてあるから」


「で、誰が、運転するのよ」

「そりゃ、この状況じゃ、道路交通法上、私しかいないでしょ?」


 すみれは、どや顔で信人ママの運転免許証を見せつけた。


「これがアクセルで、こっちがブレーキね。それじゃ急ぐわよ!」


Chapter2_6


「バカ! 前に進むのよ、前に! バックしてどうすんのよ!」

「これをこうして、よし、前に進んだわ! あとはアクセル全開でいくわよ!」


 ガードレールに車体を擦り付け、火花を散らしながら猛スピードで車を走らせるすみれ。何気にワイパーも作動しているが、そんなことにツッコむ余裕など誰にもなかった。


Chapter2_7


「ちょっと! なんで対向車が同じ車線を走ってるのよ!」

「バカ! あなたが逆走してるのよ!」

「でも、落下予測地点はこっちの車線よ!」

「ちょっと、あれ! 信人の身体もう落ちちゃうじゃない!」


 信人の身体が信人の視界に入った。


「すみれ、そのままアクセル全開! どうせ、向こうの方がよけてくれるさ」


Chapter2_8


 信人は軽快にパワーウィンドウを開き躊躇なくボンネットに飛び乗った。その瞬間、断崖絶壁の信人の身体は完全に足を滑らせた。落下という縦方向の移動と、猛スピードで逆走する車の横方向の移動が測ったかのように交差する。そして、鍛え抜かれたすみれの身体が、しっかりと信人の身体をキャッチした。


Chapter2_9


「すっご――い! ミッションコンプリート!!」


 息をのむ光景に思わず歓声を上げる李依。


「ごめ――ん! ブレーキどっちやったっけ!?」


 対向車は大きくハンドルを切り、難なく衝突は回避されたが、すみれの運転する逆走車はそのままガードレールを突き破った。


「い――、やばか、これ絶対また死ぬ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る