🌙第5話「騒がしい日常と、忍び寄る影」



 実戦試験から数日後。

 僕たちは無事に《Cクラス正式生徒》として認められた。

 学院での生活も、少しずつだけど慣れてきた気がする。


「おはよう、エル!」

 寮の廊下を歩いていると、元気な声が飛んできた。

 振り返ると、セラが大きく手を振っている。

 朝から全力すぎて、まぶしいくらいだ。


「おはよう、セラ。今日も元気だね」

「当然でしょ! 学院生活、楽しんだもん勝ちだよ!」

「……あなたは能天気すぎるのよ」

 後ろから静かに歩いてくるセリーヌが、ため息をついた。


「昨日も寝る前まで魔術練習してたんでしょ。少しは休みなさい」

「だって強くなりたいんだもん!」

「……まったく、あなたってほんと……」


 そんなやり取りを見ながら、僕は小さく笑った。

 なんだかんだで、この三人でいる時間が一番落ち着く。


 * * *


 授業は相変わらずハードだ。

 魔術理論、剣技、戦略学――どれも初めて学ぶことばかり。

 特に“魔力の基礎制御”の授業では、僕はいつも苦戦していた。


「エルくん、また魔導水晶が光らないねぇ」

 講師が苦笑いを浮かべる。

「え、えへへ……努力はしてるんですけど……」


「……やっぱりおかしい」

 隣でセリーヌが腕を組む。

「あなた、魔力がゼロなはずなのに、試験では“光”を使った。

 あの時の現象、どう考えても魔術じゃなかった」


「えっと……星力っていうのかもしれない、って先生が……」


「星力……? 聞いたことないわね」


 その会話を聞いていたセラが、ふと思い出したように言った。

「でもね、昔、アークライト家の書庫で読んだことあるんだ。

 “空の彼方にある星の力。選ばれし者のみが触れられる光”って」


「へぇ……そんな伝承、ほんとにあるんだ」


「でも、その力は“星神に選ばれた者”しか扱えないって書かれてたよ」

「星神……?」


 その言葉を聞いた瞬間、なぜか胸がざわめいた。

 どこかで聞いたような――懐かしい響き。

 でも、思い出せない。


「……あっ!」

 突然セラが声を上げた。

「エル、今日の放課後! 一緒に街に行こうよ!」

「え、街?」

「うん! 王都の商人ギルドで、美味しいスイーツ出してるらしいんだ!」

「……あなた、ほんとマイペースね」

「セリーヌも行こ? 甘いもの食べたら幸せになれるよ!」

「……まぁ、たまには悪くないかも」


 こうして放課後、三人で王都へ出かけることになった。


 * * *


 王都・アルカ・ルミナ。

 学院の外は、昼でも活気に満ちている。

 露店の香ばしい匂い、賑やかな笑い声、そしてキラキラした魔導灯の光。


「すごーい! 村とは全然違う!」

「エル、食べすぎないでね」

「う、うん……!」


 そんな平和な時間。

 だけどその裏で――誰も気づかない“異変”が起きていた。


 路地裏の暗がり。

 黒いローブの影が一人、静かに呟く。


「……星の力、確認。やはり“選定の刻”が近いか」

 その瞳は、深紅に光っていた。


 そして――

 夜空の彼方で、一瞬だけ“星”が揺らいだ。

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