第3話
先輩はこそに存在するだけで人の視線を集める。なので、横を歩く僕も自然といろんな人の視線を浴びることになる。早く校舎から出たいがなかなかに廊下が長く感じる。
彼女はことは入学式で見かけた。生徒会長挨拶で壇上に上がり、端麗な顔立ちと美しい佇まい、気品のある挨拶で新入生だけでなく在学生の心も搔っ攫っていった。才色兼備とは彼女の為にある言葉だろう。
「急にごめんね」
「いえ……」
「挨拶まだだったね。私、森田美桜っていいます」
「水瀬透です」
「知ってる。封筒届けてくれた人でしょ」
僕もあなたを知ってます。とは言えなかった。昇降口を出て体育館近くにある自動販売機に着く。彼女は鞄から財布を出すと僕に尋ねる。
「どれがいい?」
「えっ、いいですよ。気を遣わなくて」
「いいから、どれがいい?」
先輩の気持ちを無下にするわけにはいかない。しかし、ここで素直にコーラや高めのジュースを選ぶのは子供だと思われる可能性がある。何かを守るために一番安いお茶を選んだ。
「ありがとうございます。いただきます」
先輩がくれたお茶はより一層おいしい。
「お礼を言うのは私の方だよ。実は出そうか迷ってたの」
自分が何気なく行った行動が正解なのどうかわからない。僕は彼女の選択権を奪ってしまったような気がして俯いた。
「すいません……。落とし物を拾ったつもりで先生に渡してしまい……」
「ううん。そのおかげで行こうって覚悟を決められたから」
先輩の顔を真正面から見ることが出来ず、横目で確認する。黒くて艶のある長い髪が風でサラサラと靡いている。横顔から見ると二重でぱっちりしているだけでなくまつ毛が長いことが分かる。頬がほんのり桃色にふんわりとしている。唇は小さく控えめで赤い。
自分の近くにいることが不思議で仕方がない。こんなことはもうあり得ない出来事だ。自分の将来に期待出来ないことが虚しくなる。僕はお茶をいっきに飲み干した。
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