最終話 全部テスト!? リアルガチでヤバいよ!


​「共闘しないか? あの姫を、どうにかするために」


目の前のイケメン魔王から、この世界で最も聞きたかった言葉が飛び出した。

俺、出井テルオは、この世界に来て初めて、心の底からの同志を見つけた。


「魔王さん……!」


俺は、感涙しながらその手を握りしめた。


「あんた、いい人だ! リアルガチでいい人だ!」


​ヒソヒソ声で、「で、どうします? あのゴリ…いや、姫」


ヒソヒソ声で、「そうだな。城に送り返すのが筋だが、彼女自身の意思が強すぎる。いっそ、私の『忘却の魔法』で……」


ヒソヒソ声で、「え、記憶消せんの!? ヤバ! それ最高じゃないですか!」


俺と魔王が、この世で最も下劣な、しかし切実な作戦会議をヒソヒソと始めた、その時だった。


​ピタッ


それまで玉座の間で「エクササイズよ!」と叫びながら調度品を粉砕していた、イライザ姫ゴリラの動きが、不意に止まった。


静寂……俺と魔王は、ビクッと肩を震わせる。

​ゆっくりと、姫が振り返る。

その顔は、いつもの「テルオ様LOVE」なデレデレ顔ではなかった。


真顔だ……


筋肉隆々の巨体が、腕を組み、心底呆れたという顔で俺たちを見ている。


「……もう」


ドスの効いた声が響く。


「しょうがないわね、テルオ様は。そこまで言うなら」


​「えっ?」


俺が聞き返す間もなかった。

姫は、天に向かって、その丸太のような腕をかざした。


「(えっ? なに? 必殺技? パワーアップ形態!? ヤバいよヤバいよ! 魔王さん、共闘! )」


俺が魔王の後ろに隠れようとした瞬間、姫の体がまばゆい光に包まれた。


​「うわっ! 眩しっ!」


光が強すぎて、俺は思わず腕で目を覆う。


光の中で、あの巨大なシルエットが、みるみる形を変えていく。


岩のような筋肉が……萎んでいく。


2メートルはあった身長が……縮んでいく。


ゴツゴツした輪郭が、滑らかになっていく。


​やがて光が収まる。


俺は、恐る恐る目を開けた。


​「…………………はっ?」


​そこに立っていたのは、さっきまでのゴリラではなかった。

金色の髪。透き通るような青い瞳。華奢な肩。

王様に見せられた肖像画。いや、あの絵なんかよりも、リアルガチで100倍は美しい、絶世の美女が、困ったように微笑んで立っていた。


​「ごめんなさいね、テルオ様。試すようなことをして」


​「……………」


俺の隣で、イケメン魔王が初めて目を見開いている。


「(ボソッ)…ほう。解呪の魔法か。いや、これは『変身』…? かなり高度な術式だ。あの筋肉量を完全に隠蔽していたとは…」


​魔王の解説など、俺の耳には入らない。


俺の脳は、完全にショートしていた。

そして、次の瞬間。


​「えええええええええええ!?!?」


​俺の、芸人人生すべてを懸けた、いや、この異世界に来て最大の「リアル」な絶叫が、魔王城に響き渡った。


​「何これ!? 何これ!? 美人!? 超美人!? さっきのゴリラは!? どこ行った!? CG!? 特殊メイク!? えっ、ドッキリ!? これドッキリだったの!? ヤバいよヤバいよ! リアルガチでヤバいよ!! 」


​俺が白目をむいて混乱していると、目の前の絶世の美女……イライザ姫(真)は、俺のそのパニックぶりを見て、満足そうに、そして愛おしそうに微笑んだ。


​「まあ! その『リアル』な反応! それが見たかったのですわ!」


​「……………はっ?」


​「わたくし、この美貌ゆえに、求婚者が後を絶たず、うんざりしていましたの」


姫(真)は、うっとりと語り始めた。


「そこで、あえて魔王様に『囚われた』ことにして、この恐ろしい姿(ゴリラ)に変身し、本当にわたくしの内面(?)を見てくれる、心の清い勇者を待っていたのです」


「(内面!? あのゴリラ、内面だったの!? 100%外面だったけど!? )」


​「ああ、そういえば」


いつの間にか紅茶を淹れていた魔王が、ポンと手を打った。


「国王から『娘の婿探しを手伝え。ただし、今回は無力そうな奴(テルオ)を召喚し、その『リアル』な人間性を見る』と手紙が来ていたな。すっかり忘れていた、本を読むのに忙しくて 」


​「俺が『無力そう』!? 失礼な! ……いや、否定できないけど!」


俺は叫んだ。


「てことは何!? 最初から全部仕組んでたのかよ! ドッキリじゃねーか!」


​「ええ、ドッキリですわ」


姫(真)は、ニッコリと笑った。

そして、そのか細い体で、俺の腕にそっと寄り添ってきた。

柔らかい。いい匂いがする。

しかし!


「テルオ様!」


姫(真)は、俺の目を見つめて、最高の笑顔で言った。


「あなたは、あの恐ろしい姿のわたくしを見捨てず……」


「(捨てようとしてたけど! 魔王と共闘しようとしてたけど! )」


「…最後まで魔王城まで連れてきてくれました! わたくし、あなたのその『リアル』な反応(絶叫)を見て、感動いたしましたわ!」


​「えっ? えっ? えっ?」


「(ヤバい。なんか、ものすごくマズい流れになってないか、これ )」


​「さあ、お城に帰りましょう! そして、結婚いたしましょうね、テルオ様!」


​「えええええええ!?!?」


俺の、本日二度目の絶叫が響く。


「いや、だから! あのリアクションが良かったの!? 嫌がってただけなんだけど! リアルガチで恐怖してただけなんだけど!?」


​俺の悲痛な叫びに、姫(真)は「まあ、照れちゃって!」と頬を染めている。


話が通じない! 美人になっても、中身はあのゴリラ姫のままだった!


​チラリと魔王を見ると、彼は「ご愁傷様」とでも言うように、優雅に紅茶をすすっていた。


(助けてくれよ! 共闘は!?)


魔王は、静かに目をそらした。


​「(いやいやいや…結婚はリアルにヤバいって! 美人だけど! 美人だけど中身あのゴリラだぞ!? あのラリアットと結婚とか無理だろ! )」


「(これ、どういうオチだよ! 異世界ハーレムは!? 俺の安息は!? )」


「(誰か助けて! マジで!

ヤバいよヤバいよヤバいよぉぉぉぉぉ!! )」


​勇者テルオの新たなる、そして最大級の受難は、今、始まったばかりだった。



​ ──── 完 ────


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