Dum Spiro Spero〜この教室33人は息をしている限り希望を捨てない〜

AmorNoctis

第1話【常識を覆す新入生たち】

2022年4月8日。北海道のとある場所に位置する小さな町、露星町(ろほしちょう)は、春の冷たい空気に包まれていた。都会の喧騒から遠く離れ、人口もわずか数千人というこの町は、どこか時間がゆっくりと流れているような静けさがある。しかし、この日ばかりは、町に一つしかない中学校、露星町立露星中央中学校の周囲だけが、わずかながらも活気づいていた。


校門をくぐると、ごく一般的な公立中学校のたたずまいだ。古びた校舎は、この町の歴史を見守ってきた証のように、どっしりと構えている。だが、生徒玄関前は一変して、華やかな雰囲気に包まれていた。色とりどりの風船と、手書きの温かい歓迎メッセージが書かれた大きなポスターが所狭しと貼られ、新入生を迎える喜びを表現している。地域の人々や在校生が、この小さな町の未来を担う子どもたちを心から祝福しているのが伝わってくるようだった。


今年も例年通り、体育館で厳粛に入学式が執り行われた。真新しい制服に身を包んだ新入生たちが、緊張した面持ちでパイプ椅子に座っている。校長先生の式辞、在校生代表の歓迎の言葉が続く中、いよいよ新入生の名前が一人ひとり呼ばれる「呼名」の時間がやってきた。


しかし、そこに集まった新入生たちは、どうにも普通ではなかった。


彼らは合計32人。露星町という小さなコミュニティで生まれ育った彼らは、まるで選ばれたエリート集団のようだった。皆、小学生の頃から頭脳明晰で、地域の模試では常に高得点を叩き出し、運動会では驚異的な身体能力を見せつけてきた。そして何より、彼らの平均身長は、どう考えても常識を逸脱して高かった。中学一年生としてはあまりにも大人びたその姿に、列席した保護者や先生たちの間では、「本当に彼らは12歳なのか?」と、毎年ひそかに疑惑が囁かれるほどだった。彼らは、この小さな町において、あまりにも秀逸な存在感を放つ、特別な集団だったのである。


彼ら32人は、そのまま1年A組に配属されることになった。

担任の先生は、出席簿を手に取り、少し震える声で、しかしはっきりとした口調で、出席番号順に名前を読み上げ始めた。


「では、出席番号順に、名前を呼んでいきます。五十音順で、1番から…」


1. 🟦青坂 健介(あおさか けんすけ)

2. 🟦秋原 真(あきはら しん)

3. 🟥阿良之 詩音(あらの しおん)

4. 🟦楓翼 涼夜(かえでよく すずや)

5. 🟦陰平 亜月(かげひら あつき)

6. 🟥カタリナ・榛奈・エストレージャ・ラミレス(かたりな・はるな・えすとれーじゃ・らみれす)

7. 🟥如月 心雪(きさらぎ こゆき)

8. 🟥九条 三晴(くじょう みはる)

9. 🟥木枯 咲菜(こがらし さきな)

10. 🟥牙 燐乃(さいとり りんの)

11. 🟦沙原 叶哉(さはら かなや)

12. 🟦鈴森 慧(すずもり えとな)

13. 🟦東雲 星也(しののめ せいや)

14. 🟥月 唯恵(つき ゆえ)

15. 🟥椿 賀奈芽(つばき かなめ)

16. 🟥誰時 司(たれどき つかさ)

17. 🟦富喜 優河(とみき ゆうが)

18. 🟥中野 穂乃華(なかの ほのか)

19. 🟥菜羽田 えみ(なはた えみ)

20. 🟦凪乃 朱木(なきの あかぎ)

21. 🟥姫宮 紡(ひめみや つむぎ)

22. 🟦扶情 隼(ふじょう しゅん)

23. 🟦本空 楠(ほんぞら くすのき)

24. 🟦松城 瑰疾(まつしろ かいと)

25. 🟥魅羽月 瑠樹(みはづき るい)

26. 🟥京凛 雫(みやり しずく)

27. 🟦村崎 那緒(むらさき なお)

28. 🟦諸星 大歩(もろぼし だいと)

29. 🟥八尋 のの(やひろ のの)

30. 🟦山灘 翼(やまなだ つばさ)

31. 🟥宵闇 七華(よいやみ なのか)

32. 🟦夜縹 八蓮(よはなだ やれん)


個性豊かな32人の名前が呼ばれるたび、教室には小さな返事が響く。彼らは、この露星町という小さな世界で、幼稚園、小学校と、ずっと一緒に育ってきた仲間だ。32人全員が、お互いのことを知り尽くし、まるで一つの大きな家族のように仲が良い。その絆の強さは、都会の学校では決して見られない、この町特有の財産だった。


無事に入学式が終わり、新入生たちは1年A組の教室へと集まった。ここからは、担任の先生による初めてのホームルーム、そしてこの中学校での生活についての説明が始まる。生徒たちは、期待とわずかな不安を胸に、先生の言葉を待った。


担任の先生は、教卓の前に立ち、深呼吸を一つ。その表情は、先ほどの呼名の時よりも、少しだけ和らいでいた。


「新入生の皆さん、ご入学誠におめでとうございます! そして、保護者の皆様、本日はお子様のご入学、重ねてお慶び申し上げます。お忙しい中、また緊張感の中、入学式にご参加いただき、誠にありがとうございました。」


先生の言葉は、体育館での形式的な挨拶とは違い、どこか親しみやすさを感じさせた。


「改めて、ご挨拶とこの1年の説明をさせていただきます。わたくし、この1年A組の担任を務めます、【花道 一星(はなみち いっせい)】と申します!」


花道先生は、少し照れたように笑い、黒板に自分の名前を書き記した。その文字は、力強く、それでいてどこか温かみがあった。


「趣味は、生徒たちと触れ合うこと。カラオケ。音楽鑑賞などなどです!特に、生徒の皆さんが楽しそうにしているのを見るのが、何よりのエネルギー源です!」


そう言って、先生は生徒たち一人ひとりの顔を、ゆっくりと見渡した。その眼差しは、まるで宝石を鑑定するかのように真剣で、それでいて優しい。


「初めて皆さんの顔を拝見し、一人ひとりの瞳の輝きから、大きな可能性とエネルギーを感じました。正直に言って、皆さんは本当に素晴らしい。A組には、この露星中央中学校の中心となって活躍してくれる、特別なメンバーが揃っていると確信しております。」


先生の言葉には、お世辞ではない、心からの期待が込められていた。生徒たちは、その熱意に少し気恥ずかしさを感じながらも、背筋を伸ばした。


「この1年、生徒の皆さんが充実した中学校生活を送り、大きく成長できるよう、わたくし花道一星、全力でサポートしていく所存です。皆さんが困った時、悩んだ時、あるいはただ話を聞いてほしい時、いつでも遠慮なく声をかけてください。先生は、皆さんの味方です。」


先生は、教卓から一歩踏み出し、生徒たちとの距離を縮めた。その行動一つ一つに、生徒への真摯な思いが滲み出ている。


「また、保護者の皆様におかれましても、ご心配な点やご不明な点がございましたら、いつでも遠慮なくご相談ください。学校とご家庭とが密に連携を取りながら、大切なお子様の成長を、共に支えてまいりたいと思います!特に、このA組の生徒たちは、その才能ゆえに、時に周囲との摩擦や、自分自身との葛藤を抱えるかもしれません。そんな時こそ、私たち大人が手を携え、彼らがまっすぐに伸びていけるよう、道を示してあげたいのです。」


花道先生は、再び深呼吸をし、少しだけ声を落とした。


「至らない点もあるかと思いますが、生徒の皆さん、保護者の皆様、どうぞよろしくお願いいたします! 皆さんと一緒に、この露星中央中学校の歴史に、最高の1年A組という名を刻みつけていきましょう!」


先生は、最後の言葉を言い終えると、満面の笑みを浮かべた。その笑顔は、生徒たちの緊張を一気に解きほぐす力を持っていた。先生側も少し緊張していたのは確かだが、その緊張を乗り越えて発せられた言葉は、生徒たちにも、そして教室の後ろで静かに見守っていた保護者たちにも、「ああ、この先生なら大丈夫だ」という安心感を与えた。。。

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