冒険者インストラクターをしていたが突然クビを宣告された。SSSランク戦士として暗躍していたのだがいいのだろうか?~世界で自分だけが扱える能力【マッピング】は万能で最強です~

大田 明

第1話 地後蔵人

「なあ知ってるか。冒険者の中にSSSランクの冒険者がいるのを」

「SSSランクぅ? そんなやついないだろ。現在最強の冒険者って言われているのがSランクの神崎さんだ。それ以上のやつなんか存在しないって」


 俺の名前は地後蔵人じごくらんど


 普通のオフィスにしか見えない広い場所で、俺はとある噂話を耳にする。


 ここは冒険者ギルド―― 

 自分が住んでいる世界に突如誕生したダンジョン。

 ダンジョンにはモンスターが蔓延り、ある一定数を倒さなければダンジョンから噴出してしまう。

 そのため毎日モンスターを倒し続ける必要があり、その役目を担っているのが『冒険者』。

 そしてその冒険者のサポートをするのが『冒険者ギルド』だ。


 俺は冒険者ギルドで働く『冒険者インストラクター』。

 まぁ新人教育のために活動している、一冒険者である。


 俺はギルド内で待機していたのだが、噂話を聞き流すようにして深いため息をつく。


「どうするかな……今日会わないといけないんだよな」


 冒険者たちの噂話よりも深刻な問題が俺にはあった。

 それは女性問題。

 と言っても自分と付き合っている女性だとか、好意を抱いている相手ではない。


 知り合いの恋愛相談に乗り、彼らが上手くいくように立ち回ったつもりだったのだが、女性は何かを勘違いして俺が彼女のことを好きだと思い込んでしまったのだ。

 そして向こう側からアプローチをされたのだが、俺はそれを拒否すると態度を一変させてきた。


 彼女はこの冒険者ギルドで働く職員で、それから俺がいかに自分を好きかなどあることないこと言いふらされる日々。

 相談してくれた知り合いは状況を理解してくれているのだが、知らない者たちは噂をさらに誇張していく。

 

 おかげさまで俺は彼女のことが大大大大好きで、毎日花束を抱えて家まで付いて行くストーカーなんてことになっていた。

 好意はいつの間にか悪意になり、彼女は確実に俺を潰そうとしている模様。

 

 面倒くささこの上無し。 

 何だかすれ違い系漫画の主人公にでもなった気分だ。

 最悪なすれ違いが生じているだけだが。


 兎にも角にも、俺はその女性に呼び出され話し合いに向かわなければならない。

 ただでさえ最近は噂の所為で仕事をし辛くなってきているのに、さらに何か面倒事が舞い込む予感しかなかった。


「全部仕事が終わってからだ。まずは仕事に集中しよう」


 新人冒険者が受付で説明を受けている姿を確認する。

 あれが今日担当する人たちだな。

 彼らに冒険者としての手ほどきをするのが俺の役目。

 今日も頑張り過ぎず頑張っていこう。


 ◇◇◇◇◇◇◇


 仕事が終わり、夕陽で赤く染まるオフィス。

 俺は社員食堂に呼び出しを受けていた。


 社員食堂は長テーブルがいくつも備えられており、何も映さない大型テレビが一つある。

 テラス窓の向こうにはそれなりの大きさの庭。

 普段はそこで飲み物を飲んでくつろいでいる人がいるのだが、この時間帯には誰もいない。

 食堂で洗い物をしている音が響いており、俺がそこに到着するとある男女が待ち構えていた。

 

 男女?

 

 何故女性だけではなく男もいるのだろうか。

 俺は怪訝に思いながらも席に座る彼女らに近づいていく。


「来たわね、地獄ランド」

「イントネーションに悪意が感じるんだよ! じご・くらんど。な」


 染めた茶髪にウェーブをかけた美女。

 化粧が上手く、赤い口紅を引いた口元を楽しそうに歪めるその女性は、大西理沙おおにしりさ

 冒険者たちに対応する受付を担当している人だ。


 彼女のその容姿に恋をする冒険者、そして職員は多くおり、それを分かっている大西はいつも自信に満ち溢れている表情をしている。

 今も『あんた私に惚れてるんでしょ?』みたいな顔で、こちらを見下すような視線を向けられていた。


「それで話って?」

「島村くん。お願いできるかしら」

「ああ、任せておいてくれ」


 島村と呼ばれた男――


 彼のことは知っている。

 人事部で働くイケメン男子、島村司しまむらつかさだ。

 背も高く、ギルド職員の中では女性に人気がある男の一人である。


 そんな彼はこちらのつま先から頭の天辺まで見た後、ニヤリと笑う。

 何か腹が立つな……自分より格下認定でもしたんだろうな。


「地後くんだっけ? 年齢は23。大卒?」

「いや、高卒だけど」

「ふふふ、そうなんだ。じゃあ余計にギルドには必要無い人間だよね」

「余計な人間を雇う無能な組織じゃないでしょ、ギルドも」


 俺の言葉に含み笑いをする島村。

 こんなのが人気って本気かよ。

 俺は呆れながら苦笑いを浮かべ、彼の話の続きを聞くことにした。


「君、クビね」

「え?」

「聞こえなかった。クビだって言ったんだよ。僕の彼女をストーカーしてるんだ。職員に迷惑をかけるやつなんて、クビにするのに理由は十分だろ。そりゃ可愛いし気になるのは分かるけど、相手にされないならさっさと身を引かないとね」


 別に好きでもなんでもないんだけど。

 こちらをニヤニヤ笑い、性格の悪さがにじみ出ている大西のことなんて好きになるわけ無いだろ。

 こちらも人気者ではあるが、皆外見に騙され過ぎだ。


「聞いたらしがないインストラクターみたいだし? 役に立ってるかどうか分かんない男なんでしょ、あんた」

「現在ギルドには22人のインストラクターがいる。その中の一人をクビにしても何の問題も影響も無い。新しく採用をすればいいだけの話だしね。要するに君はいてもいなくてもいい存在。そして明日からは無職でさらに価値が無くなるってわけだ」


 島村は人事部の権利を使い、俺をクビにしようとしているみたいだが……

 まさに職権乱用。

 自分の女の為にこんなことをするとは、本当にくだらない人間のようだ。


「いや、そもそもこの人に好意なんて持ってないけど、俺」

「今更言い訳とかいいんだけど。マジで噂になってるからね、あんたのこと」

「噂にしたのはあんただろ」

「とにかくだ、君はクビ決定。これは決まったことだから覆ることは絶対にない」

「……はぁ」


 もうどうでもいいか。

 話し合いが通じる相手でもなさそうだし、噂ばかりで働きにくくなっていたのも事実。

 この辺りで状況をリセットするのも悪くないかもな。


「じゃあクビでいいよ」

「クビでいいんじゃない。クビは確定だって言ってるだろ」

「残念でした。あーあ、インストラクターの仕事も失って底辺で大変だろうけど、頑張ってねぇ」

「心配してくれてありがとう」

「心配してねえし!」


 俺は冗談を彼女に返すが、気に食わなかったのか目を吊り上げて怒り出す。

 いや本当、この子は碌でも無い女の人だぞ~、皆騙されるなよ~。

 でも島村は大西にお似合いだ。

 くだらない考えを持ち、他人を見下しバカにする。

 似た者同士でくっついておけばいいじゃないか。


「退職の手続きはこちらで済ませておくから、君は何の心配もせずに明日から来なくていいから」

「それは助かる。じゃあ俺は帰るよ」


 鼻で笑う大西と島村。

 俺もフッと笑い、踵を返す。


 すると背後からヒールが近づいて来る音が聞こえる。


「私の好意を無下にした罰よ。これから一生、後悔して生きてきなさい。地獄ランドはここから始まりね」


 俺の耳元でそう囁く大西。

 彼女の声にゾワッとしつつ、俺は涼しい顔で冷静に返す。


「地獄が待ってるのはどっちだろうな。ま、精々頑張ってくれ」

「はぁ?」


 俺が冷静なのが不満なのか、ヒールで地面を蹴る大西。

 彼女の怒りを背中に感じつつ、それを気にせずに俺はそのまま帰宅することにした。


 しかし明日から休みか……

 始めての長期休暇を満喫でもするとしよう。


 彼女たちの欲望と策略とは裏腹に、俺は楽しい気分でギルドを後にするのであった。

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