第12話
習級剣術を修めた俺は、第6層の探索をさらに進めた。
習級剣術のおかげで、あれほど苦戦したオークコマンダーを一撃とはいかないまでも、その攻撃をいなし、危なげなく倒せるようになった。
ある程度上質なオーク肉も集まった。
Lv. 11になり、能力も向上した今、俺は次の階層、第7層へ行くことを決断した。
だが、その前に買取箱へ魔核を入れに一度戻ることにした。
上質なオーク肉集めと、武者スケルトンとの修行でかなりの数の魔核が貯まった。
DPは5,000DPを越えていた。
(結構貯まったな!早く魔法使いてぇな)
そして6層の探索へ戻り、7層への階段を発見する。
階段をくだるにつれ、湿った空気が肌をなでる。
周囲の空気が一気に冷たくなり、水の音が近づいてきた。
7層は、地底湖エリアだった。
開けた空間に複数の地底湖と水の流れがあり、冷たく淀んだ水面が松明の光を不気味に反射する。
それぞれの地底湖のほとりには、足元がぬかるんでいる湿った土の空間がわずかに広がっている。
足を踏み出すたびに、泥が足元に絡みつく。
警戒しつつ、水際の空間を進んでいく。
その時、凪いでいた地底湖の水面が不自然に盛り上がった。
バシャッ!
水音と共に、水滴を滴らせた、背の高い全身鱗に覆われた人型モンスターが2体、
岸へと飛び出してきた。
速い。
思考する間もなかった。
戦闘開始の合図もなく、モンスターは目の前に迫っていた。オークの鈍重さとは比較にならない。
俺は初動で回避に遅れた。
先頭のモンスターが、蛇のように体をくねらせながら距離を詰めてくる。
その腕が鞭のようにしなり、鋭利な爪が俺の喉元へと迫った。
死の気配が肌を刺す。
俺は咄嗟に刀をかざすが、重い衝撃と共に後方へ弾き飛ばされる。
すぐに『検索』を発動する。
視界の端に走る情報を、戦闘しながら必死に読み取る。
【解析情報 解析結果:リザードマン。速度が速く、泳ぎが上手い。水中から獲物が近くを通るの待ち伏せている。鋭い爪で攻撃してくる。弱点:炎。】
(弱点は炎か!)
二匹のリザードマンは鋭い爪を使い、素早く攻撃してくる。
その体術は、オークのように直線的な攻撃ではなく、ヒット&アウェイの動作で俺を翻弄し、戦いにくい。
シィッ!
一体が正面から爪を突き出し、もう一体が俺の死角へ回り込む。連携が取れている。
かなりの強敵だ。
その鋭い爪の攻撃を、致命的なものだけは必ず避けながら、習級剣術の洗練された剣捌きで対応する。
しかし全ては避けきれず、体に細かな傷を負う。
リザードマンの爪が俺の腕を掠め、鮮血が飛ぶ。
「独り言!」
思考を加速させる。痛みは『根性論』で無視する。
正面の敵の爪を、刀の腹で滑らせるように受け流した。金属と硬い爪が擦れ合い、火花が散る。
相手の体勢が崩れた一瞬の隙。踏み込み、刀を逆袈裟に斬り上げた。
ザシュッ!
硬質な鱗に守られた腹部を、刀の鋭さが切り裂く。
リザードマンは苦悶の声を上げ、バックステップで距離を取ろうとした。
だが、逃がさない。
さらに踏み込み、追撃の横薙ぎを放つ。刀身が鱗の隙間に深く食い込み、鮮血が噴き出した。
その背後から、もう一体が襲いかかってくる気配を感じる。
振り返りざま、刀を突き出すのではなく、柄頭でリザードマンの顎を打ち抜いた。
ゴッ!
鈍い音が響き、リザードマンが仰け反る。
その隙を見逃さず、刀を回転させ、喉元目掛けて振り抜いた。
どうにかリザードマンを苦戦を強いられながらも1匹ずつ切り捨てていく。
刀を切り返し、体を回転させ、リザードマンの鱗の隙間を的確に狙い続けた。
【経験値:1,000を獲得しました】
【経験値:1,000を獲得しました】
討伐を終え、ドロップアイテムを回収する。
リザードマンの鱗と魔核、そして「解毒ポーション弱」を獲得した。
リザードマンが奇襲を仕掛けてくること、そして集団に襲われたら負ける可能性があるくらい強いことを知った俺は、一旦、第6層へ戻りレベリングをすることにした。
今のままではリザードマン相手にジリ貧だ。レベルと弱点である「炎」も必要だ。
俺は買取小屋を拠点に、第6層のオークとオークコマンダーを徹底的に狩り続けた。
目標は15,000 DP。気合のいる数字だが、やるしかない。
洞窟の暗がりから現れるオークの群れを、刀でなぎ倒す。
単調だが、気の抜けない作業だ。
斬り、突き、払い、納刀する。
刀の切れ味が鈍れば、即座に「リペア」で修復する。疲労すれば肉を食い、眠り、また狩る。
休憩のたびに買取小屋へ戻り、魔核を買取箱へ放り込む。
カラン、カランという乾いた音が、少しずつ、だが確実に希望を積み上げていく。
(なんか、ずっと周回してんな俺....)
かなりのオークを屠り、DPの表示がようやく約8,000を超えた。
(あと少しだ……)
黙々と狩りを続け、念願の序級火魔法の書の交換と、Lv. 12を目指す。
第6層を歩き回り、オークコマンダーとオークを狩っていると、見覚えのある部屋を発見した。
他の通路とは異なり、入り口のアーチが奇妙に歪み、内部から濃密な魔力の気配が漏れ出している。
その部屋に『検索』をかけた。
【解析情報 解析結果:オーク・ハイヴ(巣)。異常に高密度の魔物反応あり。
警告:殲滅するまで脱出不可。】
(モンスターハウス……!危険だが、ここをクリアすれば大量の魔核が手に入る)
俺はレベルと火魔法への渇望を胸に、モンスターハウスに入ることを決断する。
足を踏み入れた瞬間、背後の入り口が淡い光の魔法障壁によって完全に閉ざされた。
「ブォン!!!!!!!」
空間が震え、広大な部屋の至る所から黒い靄が噴き出す。
「グルァアアアア!」
耳をつんざくような咆哮と共に、オーク数十匹と、一際巨大な体躯を誇るオークコマンダーが3体、同時にスポーンした。
部屋を埋め尽くさんばかりの緑色の巨体。熱気と獣臭が津波のように押し寄せてくる。
「独り言!根性論!」
即座にスキルを発動し、刀を構えた。
オークの群れが、雪崩のように俺に向かって殺到する。
だが、今の俺はLv. 6の時とは違う。リザードマンの神速を体感した後では、オークの動きが止まって見えた。
先頭のオークが石斧を振り下ろす。その軌道を完全に見切り、最小限の動きで半身になって躱した。
すれ違いざま、刀を一閃させる。
ザンッ!
首を飛ばされたオークが崩れ落ちるのと同時に、次の標的へ踏み込んだ。
習級剣術を修めた俺にとって、ただのオークはもはや敵ではない。
次々と襲いかかる石斧やこん棒を、まるで舞うように避け、受け流し、その隙に的確に急所を貫いていく。
右から迫る二体の攻撃を刀の腹で弾き、回転斬りでまとめて薙ぎ払う。
左から飛びかかってきた個体には、カウンターの突きを心臓に叩き込む。
血飛沫が舞い、断末魔が響き渡るが、足は止まらない。
数十匹いたオークの群れは、俺が通り過ぎるたびに数を減らし、やがて動くものは誰もいなくなった。
残るは、広間の中央で待ち構えていたオークコマンダー3体。
「グルルァアア!」
三方向から同時に、巨大なメイスと斧が迫る。
一体ごとの攻撃力は凄まじいが、俺の目はその動きを捉えていた。
正面のコマンダーのメイスを、ギリギリでバックステップして回避する。
メイスが地面を砕き、石飛沫が散る。その硬直を狙い、踏み込んで刀を突き出した。
ザシュッ!
喉元を貫かれたコマンダーがよろめく。
その背後から、別のコマンダーが斧を横薙ぎにしてきた。
回避は間に合わない。
俺は「根性論」の加護を信じ、あえて一歩前へ踏み込み、ダメージ覚悟で懐に飛び込んだ。
ドガッ!
斧の柄が背中を強打する。肺の空気が強制的に吐き出されるほどの衝撃。
だが、刃の直撃は避けた。
【物理攻撃を『根性』で無効化しました!】
金色の光が体を包み、衝撃を霧散させる。
(運がいい!)
その幸運を攻撃に転化する。
懐に入ったコマンダーの腹部へ、下から刀を斬り上げた。
分厚い脂肪と筋肉を切り裂き、内臓に達する深手を与える。
悲鳴を上げるコマンダーを蹴り飛ばし、距離を取る。
最後の一体、メイスを持ったコマンダーが突進してくる。
呼吸を整え、真正面から迎え撃った。
大振りのメイスが振り下ろされる瞬間、地面を蹴って左斜め前へ疾走した。
風を切る音と共にメイスが空振る。
コマンダーの側面に回り込み、無防備になった首筋へ、渾身の力で刀を振り下ろした。
ザシュッ!
硬い骨を断ち切る感触と共に、巨大な首が宙を舞った。
残る二体も、深手を負い、動きが鈍っている。容赦なく追撃し、確実にトドメを刺していった。
最後のコマンダーが光の粒子となって消えると、部屋を覆っていた重苦しい空気が霧散した。
【レベルが上がりました!】
俺はLv. 12に到達した。
すぐにステータスを確認する。
モンスターハウスの中央に、ゴブリンの時と同様にウィンドウが浮かんでいた。
そしてその横に、豪奢な装飾の宝箱が出現していた。
【モンスターハウスをクリアしました!】
【特別報酬:能力値+10を獲得しました。】
【能力を割り振りますか? YES / NO】
リザードマンの素早い動きに苦戦した経験から、迷いなく敏捷(AGI)に能力値+10を割り振る。
【Lv. 12 ステータス】
レベル:12
HP:155/155 MP:78/78
力(STR):42
耐久(VIT):27
器用(DEX):29
魔力(INT):27
敏捷(AGI):37
運(LUC):1
ステータスの割り振りと確認を終え、俺は宝箱を開けた。
中に入っていたのは、握り拳ほどの大きさがある、七色に輝く美しい宝石だった。
すぐに『検索』を発動する。
【解析情報 解析結果:虹の輝石。ダンジョンが生み出す高純度の魔力結晶。
換金専用アイテム。 想定換金値:4,000 DP。】
「はっ……、マジかよ」
俺は思わず乾いた笑い声を漏らした。
LUC 1の反転効果だ。俺が今一番欲していたものが、そこにあった。
(これで、届く!)
俺は急いで買取小屋へ戻り、モンスターハウスで手に入れた魔核と、この輝石を買取箱へ放り込んだ。
【ダンジョンポイント(DP):16,000】
ついに、DPが15,000を超えた。
震える指でDPの欄をタップし、DPショップを開いた。
「序級火魔法の書」を迷わず選択する。
【DPを15,000消費しますか? YES / NO】
迷わずYESを選択する。
【序級火魔法の書を獲得しました】
現れた書を開き、新たなスキルを脳に刻み込んだ。
熱い。
脳裏に炎のイメージが焼き付き、指先に熱が集まる感覚が生まれる。
右手を掲げ、イメージを具現化させた。
ボッ。
指先に小さな、しかし確かな熱量を持った赤い炎が灯る。
揺らめくその光は、リザードマンへの勝利への道標に見えた。
(これが、魔法か)
序級火魔法は、炎の扱いの基礎を理解させる。
Lv. 12に到達し、念願の火魔法を手に入れた俺は、地底湖のリザードマンに雪辱を果たすべく、7層へと向かった。
いつもお読みいただきありがとうございます!
やっと火魔法買えましたね……!
15,000DP、長かった。
これでようやくあの素早すぎるトカゲ野郎たちに一泡吹かせられます。
ここからも気合を入れて書いていきますので、
「面白かったよ」という方は、ぜひ【♡】と【☆☆☆評価】で応援してくれると嬉しいです!
コメントもいただけると泣いて喜びます!
次回もお楽しみに!
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