第5話 襲撃
路地の細い道を駆けていく。目の前がすぐに開けて海が見えた。ヴォーっとお腹に響く、低い音が響いている。大きな船が遠くに何艘もある。
「ハァ……ハァ……!」
滅多に使わない体力を使ったせいで、足がガクガクする。それでも、もうすぐ帰れるかもしれない、そんな期待に胸がいっぱいになった。
王城に向かう前、その帰り道は何回も確認した。
予定はしてなかったけど、船での帰り方もちゃんと覚えておいた。そのおかげで迷わずに乗れそうだ。
船着き場に一番近い乗り口のある船。それに乗れば、家がある深い森のそばの小さな町へ着ける。
私はキョロキョロと周囲を見渡した。
すると視界の端に大きな船が、今まさに出発準備をするように、煙突から煙を吐き出していた。
「あれ、かな?」
もし合っていれば近くに船着き場があるはず。船着き場で乗船券さえ買ってしまえばこっちのもの。とにかく早く帰りたい、その思いから先走りそうになるのを一呼吸置いて整える。
とりあえず、あの船かどうかの確認だけでもしないと、と歩き出した──のも、つかの間。突然の警鐘が全てをかき消した。
カンッカンッカンッ!! カンッカンッカンッ!!
「──!! えっ、な、なに??」
思わず耳を塞ぐ。頭にまで響くような甲高い音。耳を塞いでも聞こえてくる音が町中に鳴り響いてた。
鐘は一つじゃないらしい。始めの鐘に誘起された別の鐘が、次々と耳障りな音を立てていく。
今となっては、どこが最初だったのか分からないくらいだ。
道行く人々も不安げに様子を窺っている。
皆、何が起こったのか理解出来ていないようだった。もちろん、私もだけど。
そのとき、誰かが海の方に向かって声を上げた。
「リヴァイアサンだ!!」
その声に海を見ようとしたけど、背後からの足音で振り返る。今しがた出てきたばかりの細道が騒がしくなる。たくさんの人が市場から流れてきた。
様子を見にきた店員さんや、騒ぎを聞き付けた漁師風の人たち、それから野次馬たち。バタバタと一気に集まってくる。そこに聞きたくない声も交じっていた。
「リアナ! ここにいたのか。ずいぶん先回りしたな。状況はどうなっている?」
「え? いや、え!?」
真っ直ぐ私の方に走ってくる男性がいたから、おかしいな、とは思ったんだよ。
やっぱりルナさんだった。まるで私がこの騒ぎを見に来たかの言い種。実際は逃げ出した先で、騒ぎが起こっただけなのに。
彼は息切れ一つせずに海面を見る。また誰かが「あそこにいるぞ」と言った。
つい海に目を向ける。船の無い沖の方。中心に波打つ海面がある。それはさざめき、盛り上がったかと思うと、すぐに色鮮やかな青い尻尾が現れた。
「っ!」
トゲトゲの尾びれがついたそれは、思い切り海面を叩き水しぶきを上げる。そして、顔を出す。
青い硬い鱗に包まれて、長いひげを揺らしながら、細い瞳で鋭く睨み付ける。うねった体も合わせると、大きな船一艘分のサイズがあった。
ルナさんが「行こう」と言う。
「警護兵が来るまで時間がかかる。それまで時間を稼がなければ」
「む、無理ですよ!」
「どうした。魔王討伐に志願したんだろう? これくらいで根を上げてどうする」
「それは……」
けど私が答えるより早く、何かを納得したように続けた。
「ああ、なるほど。確か時間がかかるんだったな。大丈夫だ、魔法が発動するまでは任せてくれていい」
「いやいや、そういうんじゃなくて……!」
最後まで言い終わらないうちに、リヴァイアサンが息を吸い込むような動きをした。
直後、そのリヴァイアサンが水の球を吐き出し、キンッと高い音が耳をつんざく。ほぼ同時に強い風が吹く。
「──!!」
思わず耳を押さえて、顔を背けた。すぐに後ろの方で爆発音が響く。ドゴォンッ!!と聞こえてすぐ、砂煙が周囲を包んだ。
それが風にさらわれると、倒壊した家屋が現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます