Log10「スローター・ダガー」
アウリオン社 ローディングドック
「はぁーあ、結局こいつに戻るとはねえ」
サイオンはコックピット内でぼやく。
機体はオデュッセウス戦で使った中装二脚ではなく、いつもの逆関節に戻っていた。
「彼は私たちを守って大破しましたからね。ほぼ全パーツが壊れて使い物にならなくなっていましたし、特にコックピット内部の操作系統が全滅していましたので、使い回すということも出来ませんよ」
久しぶりにタンクに乗ったフェスが返し、サイオンが鼻で笑う。
「ハッ、まあそりゃそうだけどさあ」
「ところで、サイオンさん」
フェスが音声のみの通信から、モニターに映したビデオ通信に切り替える。
「外見を整えていらっしゃるようですが、何か心境の変化でも?」
サイオンは「よくぞ聞いてくれました」とばかりに得意げな表情を見せる。
「まあな。これから死ぬ可能性あるんだし、あのクソ野郎みたくボサボサの髪とか伸び放題の髭晒して死にたくないんでね」
言葉の通り、無精髭はきちんと剃って整えられ、髪も切り揃えられている。後ろ髪が短く一つに纏められており、今までよりも大きく露出した肌や生え際は、年齢ほど老いているようには見えない。
「どうだい?ハンサムだろ?」
「プフッ……まあ、そうですね」
「なんで笑うかね」
「いえ……実際、思ったよりもオシャレだったので。そういうところでマウントを取ろうとするところ、面白くていいですね」
「ま、今度からこれで行くから頼むわ、嬢ちゃん」
「了解です。
今回は、独立傭兵たちが集まって作り上げた宗教団体“ホーネルダンス”のTA部隊を強襲します」
「宗教ねえ。ま、このご時世そういうのに縋りたくなる気持ちはわかるが」
「かなり大きな組織であり、パイロットも機体もそれなりに優秀であると聞いています。油断しないでくださいね」
「了解」
――……――……――
雪原
吹雪を抜け、ヘリコプターから切り離されて二人は着地する。
敷かれた雪と灰を強く踏みしめたそこは、広大な雪原だった。
「依頼主のことなんざ気にしたこともなかったが、よくよく考えるとこいつらはなんでここに居るのかねえ」
「砂漠の大半は企業のものですからね。企業に頼らず何かしらの団体を作ろうとすれば、こういった居住性の悪いところに拠点を作らざるを得ないでしょう。
企業も金さえ払えば食料なりなんなりくれますから」
「まあいい。いつも通り行こうぜ」
「了解。敵部隊は密集しているようです」
フェスが前進を始め、サイオンがそれについていく。着地点から少々進むと、山岳地帯と麓の拠点が見える。
「行きます!」
全速力で突進しつつ、フェスは右肩の大型四連装ミサイルを斉射して油断していたTAを何機か破壊する。
同時に拠点のアラートが鳴り響き、撃ち返してくるのを殆ど意にも介さずフェスは突撃しつつ両腕の大型ガトリングでデタラメに破壊していく。
「いいねえ、それくらいの方が俺も合わせやすい!」
サイオンもまたブースターを吹かして飛翔し、敵機たちの頭上を取りながら高火力の機体から集中砲火で破壊する。
「壊し尽くされた世界を前に、なお戦う者共よ」
練度も機体性能も追いついていないTA部隊を壊滅させたタイミングで何者かの通信音声が入り、サイオンがフェスの横に着地してリロードする。
「先ずは貴様らから消し去り、邪悪なる企業共への裁きの第一手としよう!」
拠点内部から地鳴りが起こり、間もなくシャッターで塞がれていたガレージからTAとは違う、無限軌道を貼り付けた巨大な四脚式の戦車が現れる。
「これは!?アウリオン社の小型TF“カドモス”です!」
「なるほど、企業ってのは碌なもんじゃないのは俺も同意だわ」
カドモスは両肩部の重機関銃を乱射し、続けて後脚の付け根にマウントされた大型レーザー砲で斉射して重ねる。
「こりゃ骨が折れそうだ」
サイオンを狙っていたその攻撃を、軽く跳躍して躱しながら背後を取り、頭上から右腕のバーストハンドガン、左腕のバーストアサルトライフルの銃弾を浴びせながら通り越して着地、反転して正面に捉える。
確認すると、分厚い装甲に銃弾の全てが弾かれており、カドモスはフェスを轢くようにしながら躱されて通り過ぎ、雪を巻き上げながらドリフトを決める。
フェスが豪快に反転しながら全速力で突撃し、強烈に激突してカドモスの左前脚を跳ね上げ、ガトリングを叩き込んで無限軌道を断裂させる。
「くっ!邪悪なる企業の作った兵器など!」
カドモスは強引に脱してレーザー砲だけ反転してフェスを狙い、前方に飛び出してレーザーを掠めるだけに留めつつ、ガトリングを撃ち返していると、その脇でサイオンが全速力で中空を駆け抜ける。
「カドモスと言えば有名な弱点があったよな」
「ええ。使い捨てを前提としたカドモスは……」
フェスも同じように前進して突っ込みつつ、なおもガトリングから凄まじい弾幕を押し付ける。
「神より賜りしこの戦車に、そんな豆鉄砲が通用すると思っているのか!」
カドモスから勇ましい声が響き、雪原に埋まった左前脚を軸に左回りで無理矢理に反転する。
その瞬間、ちょうど正面についたサイオンの振るった左ブレードの一閃により、器用に右前脚の付け根を切り裂かれ、そのまま喪う。
「おのれ……!」
「退いてください!サイオンさん!」
フェスの言葉に従ってサイオンは飛び上がり、展開された左スナイパーキャノンがカドモスのコックピットブロックへ突きつけられる。
間もなく大口径の弾丸が吐き出され貫き、カドモスは稼働停止する。
「敵の反応は無いようですね」
サイオンが着地し、フェスがカドモスから離れる。
「使い捨てを前提としたカドモスは、連結部がTAと同じものを使われており、常時高い負荷が掛かっています」
「安物に大層な呼び名を付けたがるのも、宗教家のあるあるかねえ」
「帰投しましょう、サイオンさん」
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