Log3「クロックワーク・タクティクス」

「今回の仕事は……」


 大型ヘリコプターで機体を運ばれながら、フェスが口を開く。


「決闘ですね」


「あー、たまにあるんだよな」


 サイオンはコックピット内で足を組み、シートに背を預けてリラックスしている。


「企業付きの傭兵だろ?楽ですぐ終わる仕事の量を増やして、評価を下げないための点数稼ぎだよ」


「ええ。対象はシーマとエーコ。アストラム社専属の傭兵で、共に女性です」


「何回か戦ったことはあるな。前から二人一組で戦う傭兵だったはずだ。まだ生きてるってことは、中々強いらしい」


「総合的な作戦成功率は76%……確かに、上澄みと言える戦闘力ですね」


「どういうタイプの機体だ?」


「シーマは中装二脚、エーコは軽装四脚。武装は調整されている可能性がありますが、エーコが後方支援に寄った構成のようですね」



 都市郊外 砂漠

「作戦展開地域に到着しました。着陸準備を」


「あいよ」


 ヘリコプターから機体が切り離され、ビルや高速道路、街灯の残骸が突き刺さる砂漠に降り立つ。


 二人の正面には、紫紺と黒で纏められた二脚と、酸化した血のようなカラーリングの四脚が立っていた。


「お、相手が来たよ〜」


「シーマさん、今日もよろしくお願いしますね。なるべく、コックピットだけを破壊してください。鹵獲した機体が使い物にならなくなるので」


「それはねえさまがしっかり私を援護してくれたら、考えますよ?」


「真面目にやってくださいね……?」


 二機から聞こえてくる談笑は、内容はともかく肩の力が正しく抜けていることを感じ取らせる。


「(確かに死線を潜り抜けた凄みがあるな……)」


「作戦開始します」


「了解した」


 フェスが飛び出し、両腕の大型ガトリングから弾丸をばら撒きながらシーマへ直線的に突っ込む。


「じゃあ、ねえさまよろしく〜」


「あっ、はい!」


 シーマは両肩に搭載された同型の大型スナイパーキャノンを展開しながら飛び上がり、左腕の連装マシンガンでフルオート射撃を行う。小口径の弾丸が酷いバラ付きを伴って撒き散らされる。


「命中より相殺を狙うための銃器……」


 シーマはそのままフェスの射角の限界より上を取り、右手のリニアライフルを、セミオートながら素早い操作でフルオートのように撃ち込んでくる。


 フェスは甘んじてそれを受けつつ、サイオンが後方から右肩の二連ニードルミサイルでシーマを狙い、弾頭をエーコが左腕のレールガンから投射した電撃で撃ち抜く。


「もらった!」


 前隙を担保されたシーマが空中で静止し、スナイパーキャノンでフェスを狙う。


「回避だ!」


「もちろん……!」


 フェスは小さく飛びながら脚部を横に向けてドリフトを決め、大口径弾丸を躱しながら反転して進み、上半身を翻してエーコへガトリングでの引き撃ちを行う。


 四脚を広げて狙撃形態になっていたエーコは即座に機構を戻し、左方向への瞬間的ブーストで回避、ホバー移動しながら腰だめで右腕の大型スナイパーライフルでフェスへ偏差撃ちにて詰めていく。


「……ッ」


 硬直中のシーマが咄嗟に反応し、右肩のスナイパーキャノンをブレードで切り裂かれながら向き直り、離れながらバーストハンドガンを過たずに当ててくるサイオンへ注意を向ける。


「なるほど、あなたがあの子の首輪を握ってるんだ」

 

 反射的に返された連装マシンガンを、急降下して装甲の厚い部分に当てることで弾きながら、左肩のプラズマミサイルを斉射する。


 シーマは即座に同じように高度を下げながらリニアライフルをチャージし、サイオンの足元へ潜り込むように動いてコックピットを直接狙う。


「ちっ……!」


「さよなら」


 サイオンの対応が遅れる瞬間、遠回りに詰めてきていたフェスが全推力を使って高度を上げながら加速し、質量を使った強烈な体当たりでシーマを突き飛ばす。


 頭部を下に向けるような姿勢になっていたシーマが地面スレスレで機体制御して順向きに戻して着地し、踵でブレーキをかけて減速する。フェスがそこにガトリングを叩き込もうと前進を続け、だがエーコのフルチャージしたレールガンによる電撃が側面から直撃する。


「機体制御障害……!?サイオンさん!」


「わかってるさ……!」


 プラズマミサイルを撒きつつ急降下で着地しながらフェスとシーマの間に割って入り、プラズマの小爆発で一瞬視界を潰され動きが鈍ったシーマへ一気に接近してブレードを振る。


「シーマさん!」


 エーコが援護のために接近を開始し、シーマはブレードが届く瞬間に連装マシンガンを投げ、サイオンの左前腕部に当てて振りをほんの僅かに遅らせて逃げる時間を稼ぎ、切っ先が薄くコックピット開閉部を削ぎ取る。


「仕方ないかな……!」


 シーマが苛つきを隠さずに呟き、空になった左腕が割れ、肘から接続されていた鉄杭が勢いよく射出される。


「隠しパイルだと!?」


 咄嗟にサイオンが直上に飛び上がって躱し、機体制御を取り戻したフェスが右へ飛び出して鉄杭を避ける。サイオンはそのままバーストハンドガンをシーマの左肘に当てて衝撃を蓄積し、急接近から逆関節の瞬発力を使った強烈なドロップキックで突き飛ばす。


 そしてフェスは援護のために接近してきていたエーコへガトリング、そして右肩の拡散バズーカで圧をかけ、あちらは仕方ないと右肩の装置からエネルギーシールド展開して衝撃を抑えつつ、レールガンの最小エネルギーでの連射で応戦する。


「ここまで動きのいいパイロットに当たるなんて、今日は運が悪いかも。ねえさま!」


「うん……撤退しましょう、シーマさん!」


 シーマの機体が全身の装甲を展開し、ジェネレーターと直結した強力な衝撃波が内部から解放される。


「フェス!アーマーバーストだ!」


「了解!」


 二人はシーマから可能な限り距離を離し、間もなく猛烈な大爆発が起こって周囲の瓦礫と砂を巻き上げる。


「敵性機体、領域を離脱していきます……」


 砂煙が徐々に晴れていき、フェスが告げる。


「大丈夫か、嬢ちゃん」


「もちろんです。ただ、レールガンの直撃を受けたので内装のメンテナンスは必要ですが」


「生きてるなら十分さ。帰ろうぜ」


――……――……――


「にしても、アーマーバーストねえ」


 帰還中のコックピット内で、サイオンが呟く。


「バッテリーとジェネレーター、駆動系各部を直結し、装甲を展開することで自身を中心とした強力な大爆発を起こす。

 絶大な攻撃力の代償として、しばらくの運動・防御性能の低下がありますが……」


「まあ、巻き込まれりゃ俺たちもタダじゃ済まねえ。あれを逃げに使うってのは確かに上手い」


「ふむ……実戦においてどの手札を何時切るか……これは戦場に出なければ決して培われない感覚です。シーマの隠しパイル、あなたのキックもそうですが……隙に捩じ込める攻め手を複数用意するというのは、高いアドバンテージを有していそうです」


「だからって次の仕事で急に隠し玉なんて用意しないでくれよ?サポートするのはおじさんなんだから」


「ええ。まずは……あなたに頼り切らずに戦えるようにならなければ」

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