シナリオ

へのぽん

2週間だけのお姉さん

 葬式を終えた後、祖母の実家の濡れ縁で腰を掛けている。


 男

「隣、よろしいですか?」

 女

「え?あ、ど、どうぞ……」

 男

「遠くから来て、疲れたんじゃないですか」

 女

「う、うん。疲れました。てか、やけに他人行儀じゃないのよ」

 男

「俺のこと覚えてる?」

 女

「しゅんくんでしょ?忘れるわけないじゃないの。夏休み、ずっと一緒に遊んでたのに。あれはわたしには絶対必要な記憶なの」

 男

「二週間だけのお姉さん。小学生はじめの頃だ。毎年、レイちゃんと会えるの楽しみにしてたんだ」

 女

「わたしも」

 男

「あまりの田舎に驚いたんじゃない?」

 女

「夏休み、楽しみにしてた。ここに来るために学校に行ってたようなものよ。今も下に住んでるの?」

 男

「ううん。過疎化してる。ここに仕事なんてないからね。街に出てる」

 女

「じゃ、わざわざ祖母のお葬式に来てくれたのね……」

 男

「おばあちゃんには、凄くお世話になったから。それに……」

 女

「それに?」

 男

「姉さんとも会いたかったし」

 女

「上手だなあ。二人で毎年テントで泊まったの覚えてる?」

 男

「この庭だよね。もっとでっかい印象あるんだけど。ドキドキした」

 女

「歳上のお姉さんの魅力に?」

 男

「え……?そ、そうかな。大人の魅力なのかなあ。お化けだよ」

 女

「ふふふ」

 男

「いたんだ」

 女

「あれ、わたしよ」

 男

「大人になるまで信じてたな」

 女

「わたし叱られたもん。人様のお子さんになんてことするんだって」

 男

「アハハ。叱られたんだ。今でも思い返すことある。お化けね。缶詰落としたことまで覚えてる」

 女

「鯖缶よね。おばあちゃんに、夜ごはん、おむすびと鯖缶持ってきてもらって食べたよね」

 男

「星空見たの覚えてる?」

 女

「流星群!」

 男

「獅子座流星群だと思う」

 女

「凄かったよね」

 男

「キラッ」

 女

「キラッ」

 男

「スー」

 女

「スー」

 男

「二人で指差して騒いだ」

 女

「お願いどころじゃなかったね。わたしが中学生になって、部活で忙しくなったから終わった。あのときもっとお願いしとくべきだったな」

 男

「うん……そうだね。突然来なくなった。今ならわかるけどね」

 女

「何?まさか怒ってるの?」

 男

「幻かなと思ってた」

 女

「幻……か。お庭に冬越しのパンジー咲いてる。キレイだよね」

 男

「おばあちゃん、花を育てるのが好きだったんだ」

 女

あるじなしとて」

 男

「春な忘れそ」

 女

「ふふふ……」

 男

「……」

 女

「父たちは、もうこの家は売るみたいな話してた。古いし。畑も庭もなくなるのか。わたしも遠くへ来たなあなんて考えちゃう。そしたらここを思い出すのよね。で、残された花を見てたら泣けてきた」

 男

「もっと顔出してりゃよかったような気がする。勝手かな。案外、経験するまで気づかない。失うまで」

 女

「人ってさ、わかっているようでわかってないみたいな……ね」

 男

「だから今も昔も同じこと繰り返してるのかな」

 女

「結婚して、離婚して、ずっと一喜一憂の嵐にもまれてた。ずっと一人で生きてきた気でいた。今日しゅんくんに会うまで。おばあちゃんが教えてくれようとしたのかな……」

 男

「今は一人?」

 女

「うん。しゅんくんは?」

 男

「ずっと一人だよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る