俺のフラグが世界を救うわけがない! ~引きこもり中学生、イベント発生で世界最強~

猫撫子

第1話 「覚醒フラグは突然に」

朝。

俺――**天城ユウ(14)**は、今日も聖戦の準備をしていた。


……聖戦といっても現実の話じゃない。

俺の戦場は、三台のモニターに囲まれたPCデスク。

そして武器はマウスとキーボード、相手は二次元の恋愛フラグ。


「ふふっ……今日こそリリアの真ルート、クリアしてやる……!」


俺の魂を燃やすのは、愛だ。愛とルート分岐だ。

現実? 知らん。

外? 紫外線が強敵だ。

学校? もはやラスボスだ。


俺の部屋は薄暗い。カーテンは閉じっぱなし。

机の上には積み上がる限定版パッケージ。

床にはコンビニ弁当の墓場。

だがいいんだ。俺の世界は完璧だ。


マウスをクリックする指が、運命の分岐点を押したその瞬間。


──ピカッ。


「……え?」


スマホが光った。

いや、光るなんてもんじゃない。

まるで“神”が降臨したかのように、部屋全体がピンク色に染まった。


そして、スマホの画面に文字が浮かぶ。


【覚醒通知:スキル《フラグ操作》を獲得しました】 


「……は?」


画面の中では、ヒロインのリリアが“告白フラグ発生”と言っている。

スマホの中では“スキル獲得”と出ている。

二重演出? バグ? イベント暴走?


混乱している俺の視界の端で、抱き枕(リリアVer.)がほんのり光った。


「おめでとうございます、マスター」


「……喋った!?」


「あなたは現実世界においてスキル《フラグ操作》を獲得しました」


「いやいや、ちょ、待って!? 俺まだ寝てる!? 夢? 幻聴!?」


「現実です。確認方法:ほっぺをつねってください」


言われるがままに頬をつねる。

痛い。


「……痛っ! 本当に!?」


「はい、おめでとうございます。人生初のスキル習得です」


「いや、人生初って軽っ!?」


俺はスマホを掴み、画面を凝視した。

そこには説明が書かれていた。


《フラグ操作》:現実世界における因果の“フラグ”を認識・干渉する能力。

使用例:

・恋愛フラグを立てる/折る

・死亡フラグを無効化する

・イベント発生条件を改変する


……いや、どう見ても美少女ゲームのシステムです。

この世界、ついにジャンル:恋愛シミュレーションになったの?


「つまり俺、現実で“イベント”管理できるってことか?」


『はい、マスター。なお乱用は現実バランスを崩します。』


「知るか! そんなの気にしたら人生負けだろ!」


俺は試しに言ってみた。


「“登校フラグ:成立”!」


ピロン、とスマホが鳴る。


【登校イベントが発生しました】


「……え、マジで?」


次の瞬間、ドアが**ドカン!**と開いた。


「ユウ! あんた、また学校サボってるでしょ!?」


幼なじみの**神代ミサキ(14)**が立っていた。

ポニーテールを揺らしながら、怒りゲージMAXの顔で。


「な、なんでお前ここに!?」


「お母さんが頼んだのよ! “ユウを学校に引きずって行って”って!」


「母さんッ!? 裏切ったな!?」


「裏切りじゃない、現実だ!」


ミサキは俺の腕をつかむ。強い。引きこもりの筋力じゃ抵抗できない。

くっ……これは完全に“強制イベント”だ。


「やめろミサキ! 俺はもう現実なんてプレイしたくないんだ!」


「セーブデータが現実だから諦めなさい!」


うまいこと言うなこいつ。


俺は渋々立ち上がる。

制服は昨日のまま。髪は寝癖でバサバサ。

人としての尊厳が初期値。


だが、気になる。

さっきの“フラグ操作”、本当に使えるのか?


「……“幼なじみの怒りフラグ:解除”」


ピロン。


【幼なじみの怒りフラグを折りました】


ミサキが一瞬、ぽかんとした。

顔がほんのり赤くなる。


「……ま、まぁ、たまには来てもいいわよ。学校」


「え、何この即効性!?」


やばい、これチートだ。

恋愛シミュレーションで言えば、チュートリアルでヒロイン攻略完了レベルの速さ。


「……ミサキ、俺と一緒にダンジョン行こうぜ」

「は? なんで急に!?」


「フラグ立てたい」


「何その理由!?」


「いいから! “ダンジョン同行フラグ:成立”!」


ピロン。


【共同探索イベントが発生しました】


「え、ちょっと待って待って待って!?」


しかし、待ってくれないのがこの世界のイベントだ。

次の瞬間、俺たちの足元に光の魔法陣が浮かび上がった。


「うわぁぁ!? これ現実!? 演出!?」


「きゃあああ!?」


目の前が真っ白になり、次に気づいたとき――

俺たちは見知らぬ地下空間に立っていた。


石の壁、ぼんやり光る魔法灯、遠くで何かが唸る音。


「……ダンジョン……だと……?」


「どういうこと!? ここどこ!?」


「さあ……でも、“ダンジョン同行フラグ”が成立した結果……だな」


俺のスマホには、また新たなウィンドウが開いていた。


【チュートリアルダンジョン:クリアでスキル拡張!】


「うわぁ、チュートリアルイベントか……!」


「何落ち着いてんのよ!」


ミサキの叫びが響く。だが俺の心は静かだった。

ここから始まる。俺の人生――いや、俺の新しいゲーム。


現実の世界はクソゲーだと思ってた。

でも、フラグを操作できるなら……話は別だ。


「よし、ミサキ。まずはモンスターを倒そう!」


「私、武器持ってないけど!?」


「大丈夫。“即席武器入手フラグ:成立”!」


ピロン。


ミサキの足元に、なぜか立派な木刀が現れた。


「なにこれ!?」


「イベントアイテムだな」


「……あんた、やっぱりおかしいわよ!?」


俺は笑う。

久々に、心からワクワクしていた。


引きこもりで、二次元に逃げていた俺。

だけど今、現実が“ゲーム”になった。

なら――攻略してやるさ。


「行こうぜ、ミサキ。現実(このゲーム)のエンディング、見せてやる」


ミサキは呆れながらも、笑ってうなずいた。


「ほんっと、あんたって……バカね」


ダンジョンの闇の奥から、ゴブリンの唸り声が響く。

そして俺は、スマホを構えた。


「“初戦闘イベント:開始”!」


ピロン。

光のエフェクトが走り、BGMのように鼓動が高鳴る。


俺の新しい日常が、今、始まった。

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