末路
稚内って日本の極北みたいなところにあるけど、ここも極北じゃなかった時代もあったんだって。戦前は南樺太も日本の領土だったから、そこへの連絡拠点だったそう。戦後も北洋漁業が華やかな頃は漁業基地として栄え、
「北洋漁業が衰えてからも、ロシア漁船の寄港も多かったらしい」
漁業だけじゃなくロシアとの交易事業もそれなりに栄えていたらしくて、今でも稚内市内にはロシア語の看板とか、地名表示がたくさんあるんだとか。シンプルにはロシアとの関係が深いところぐらいかな。
地理的にもそうなるのはわかる気がするけど、そのロシアとの関係にも大きな変化が起こってしまう。何があったって、戦争だよ戦争。ロシアが隣国にイチャモンつけて突然攻め込んだんだよね。
世界でも有数の軍事大国だし、奇襲みたいなものだからロシアの大軍は首都まで攻め寄せてた。鈴音もそれで終わると思ってた。だけど、そこからロシアは反撃を喰らうのよ。ロシアの予定では一週間ぐらいで戦争は終わるはずとしていたみたいだけど、
「もう四年ぐらいになってるはず」
まさに泥沼の消耗戦みたいになってるのよね。西側諸国はロシアに経済制裁を行ったから、稚内とロシアの交易事業も萎んでしまったで良いはずなんだ。どちらの国も大損害を出してるのだけど、戦争だから失った兵器の補充をロシアも必死にやってるぐらい。
そのロシアの兵器なんだけど、軍事大国だから優秀だそうだけど、今どきの最新兵器ってハイテク機器の塊みたいなところがあるぐらいは知ってる。その電子部品とかだけどロシアじゃ調達できないものが多いんだって。
それを調達していた西側諸国が輸出を禁止しているから困ってるらしい。とは言え戦火は広がる一方で、戦火が広がると戦いは起こるし、戦えば兵器はドンドン消耗してしまう。事は戦争だから、もうありませんで済む問題じゃないもの。
「戦争なんて不毛も良いところ。ここまでになったら、ロシアが最後は勝ったとしても、なんにも手に出来るものはないはずよ」
領土は手に入るかもしれないけど、それこそ戦争で荒廃しきったところだものね。でも始めてしまったから、大国ロシアが尻尾を巻いて逃げるわけには行かなくなってるぐらいに見える。
「そこに目を付けたんのだと思うのだけど」
良くわからないけど、今でも稚内ならロシアと連絡を取れるルートがあるのだろ。それでさ、日本にはロシアが欲しがるものはいくらでもあるとは思うけど、
「あれは会社での失地回復を狙ったものじゃないと思う。自分でブローカーみたいな事業をやって、それこそ一攫千金を目指したものだよ」
そうなるよね。良いように言えば左遷された稚内の地の利を活かしたとは言えるけど、日本の警察だって甘くない。密輸を嗅ぎつけられて御用になってる。
「ああいう世界も良く知らないけど、あの世界なりのノウハウとか、繋がりがいるのじゃないかな」
ありそうだ。成功すればリターンは大きいだろうけど、取引相手だってまともなやつとは思えない。同業者だってそうで、それこそ暴力団の舎弟企業とか、国際マフィアがいたって不思議じゃない。
そういうところにちゃんと挨拶とか、仁義を切っておかないと後ろから本当に撃たれるのだって、本当にピストルとか、ライフルでだってあり得そうだ。
「密輸を防ぐ側だってCIAみたいな諜報機関だって動いてるはず」
なんかリアル007の話みたいだけど、とにかく戦争だから、そうであっても信じちゃうよ。どこまで何があったのかなんて知りようもないけど、結果は失敗してる。
「なんかトドメがありそうな気がする」
口封じのために拘置所なり刑務所で殺してしまう話は置いとくとして、ブローカー事業をやるにも資金が必要のはずなんだ。怪しい事やってるから、取引だって現ナマ決済のはずだもの。だけど資金調達だって、銀行がホイホイ貸してくれるはずもないから、
「まともなルートの資金調達をしていないはずだから、地獄の底まで追い立てられるはず」
おいおいそれって、マグロ漁船とか、
「土地柄からするとベーリング海のカニじゃない」
そんな世界が本当にあるのかよ。そんな事を言い出せば臓器売買だってあるじゃないの。
「お兄さんは企画力も、実行力もある人みたいだけど、どこかで雑な気がする。というかさ・・・」
この話の発端は、哲也が仕掛けた多すぎる住宅ローンなんだよ。あれだって千草先輩の言う通り気づいた時点で損切りするのはあったはず。浅くはない向こう傷ぐらい受けたかもしれないけど、それは癒せる傷だったはず。
なのに手にした家に執着してしまってる、その理由を見下したている弟にバカにされないためだけで説明できるのかなぁ。
「本当はどう考えてたかなんて、本人に聞かないとわからないけど、そんな理由が根底にあったと考えると説明出来てしまうぐらい」
異常なプライドだけど、
「妙ちくりんな家系伝説の家の長男教の息子の末路ぐらいになるかな」
家系伝説って・・・あんなもの与太話だって哲也も調べてたのに。
「信じるかもよ。人ってさ、そういう話があれば頼りたがるところがあるじゃない。それだってね、自分のモチベーションとか、密かな誇りにするぐらいには問題ないなのよ。害が出るのはそれに縛られてしまったとき」
なんの由緒もない家の娘の鈴音にはわからない世界だよ。とにかく、トンデモナイ結末になってビックリしてる。
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