西へのツーリング
「おはようございます」
哲也さんだ。今日は西に走るって聞いたけど。
「ツーリングの行き先として・・・」
道さえあればどこでも走れるのがバイクだけど、下道オンリーが宿命の小型バイクだから、どうしても走れる範囲が限られる部分があるのよね。神戸からなら行きやすいのが丹波だ。篠山から北に向かえば快適なツーリングロードが広がってるもの。
でもどうしたって行くところが限られてくる。小浜で海鮮丼ぐらいが一つの限界って感じ。出石で皿そばもそうかな。だから他にも目を向けたいじゃない。だから西だけど明石は論外だ。
「休日でも昼間は混みますからね」
あれは一人で玉子焼きを食べに行ったんだよ。なんか発作的に食べたくなったぐらい。バイクの駐輪場の場所も調べてたし、そこまでだってまずまずぐらいに行けた。お目当てのたこ磯の行列は待たされたけど美味しかったし、満足もした。魚の棚で穴子も買って帰ろうとしたのだけど、とにかく混んでた。
あんまり混んでたから適当に脇道に入ったのだけど、そこもクルマがこれでもかと並んでいて、それを交わそうとしてまた脇道に入ったら、
「ドツボに嵌ればそうなります」
思い切りなった。どこを走ってもウンザリするぐらいクルマがいたもの。抜け道とか裏道だってあるはずだけど明石も土地勘無いものね。今日は奥播磨を目指すらしいけど、そのためには、
「まず桃坂を目指します」
どこだそれって思ったけど新神戸トンネルから呑吐ダムの湖畔を走り、ネスタリゾートの前を通り、豊地の交差点ってとこに出てきた。ここを右に曲がってしばらく走ると教会が見えて来たけど、
「あの信号を左に入ります」
桃坂って書いてあるぞ。なんか道路改良工事が行われているみたいだけど、なるほどそうしたくなるような道だ。この登りが桃坂のはずだけど、登りきったところで左に入るみたい。そこからもまた登りだったのだけど、上がってみると平地が広がってるじゃない。
高原って程は高くなさそうだから台地ぐらいかな。見晴らしは良いけど、この香し過ぎる匂いは、
「牧場もあるみたいです」
こんなところにって思ったけど、この香りはそうだよね。道はセンターラインこそないけど空いてるし、それなりに広さもあるから快適だ。集落みたいなところも抜けて行って、今度は下ってる。台地から下りてるぐらいのはずだ。
下っても田園地帯だけど、おっ、あそこの交差点から先はセンターラインが出て来てるじゃない。街に近づいてるかと思ったら、
「右に曲がります」
ここを曲がるのか。ここも丘越えみたいな道だけど、走って行くと、これって国道一七五号バイパスのはず。こう繋がってるのか。
「桃坂のところを直進すればひまわりの丘公園の北側に出られますよ」
なるほどって言いたいいけど、ひまわりの丘公園ってどこなんだ。国道一七五号バイパスには入らずに直進したのだけど、市役所があって、イオンがあって、ホテルもあるから小野の中心街みたいなとこかな。そこを抜けると加古川を渡って田園地帯を抜けて行くのだけど、前に見てる山は?
「青野ヶ原の演習場があるところです」
こんなところに自衛隊の基地みたいなものがあるんだ。山と言うより丘を登って行くと基地がどこかはわからなかったけどブドウ畑があるじゃない。ブドウ狩りも出来るみたい。丘を下って右に曲がったけどこの道はなんか見覚えがあるぞ。えっと、えっと、そうだ、そうだ、加西のうどん屋さんから稲美町に向かった道の気がする。
「へぇ、がいな製麺所に行かれた事があるのですか」
美味しかったよ。哲也さんも行ったことがあるみたいだから、ライダー飯のこの辺の定番なのかも。千草先輩は桾原から上がって行ったけど、バイク乗りは国道一七五号バイパスを避けるのかな。
「そっちでも悪くないのですが、小型バイクには少々流れが速いのと信号が割と多いのですよ」
うん、こっちの道の方が快適な気がする。いかにもカントリーロードを駆け抜けてるって気がして気持ちも良いよ。この辺は平地が広がっていて、あれこれ道があるから、あれこれルートを選べるみたいだ。
この交差点を左か、あっ、うどん屋さんに行く時に目印にした醤油さんもあったぞ。うどん屋はまだ開いてないから直進だ。ここも郊外って感じの道だな。知ってる道を走るのも悪くないけど、初めの道を走るのは別格だ。
やっぱりワクワクするじゃないの。何が見えるのだろうとか、どこに続いてるんだろうとか、この先に何があるのだろうとかさ。気分はプチでも冒険者だ。これこそがツーリングの醍醐味じゃないかな。
「一つ間違えたら放浪者ですけどね」
そ、それはある。つうか何回かやらかした。神戸の近郊ならどうしたって帰れると思うじゃない。だから混雑を避けようとして適当に走っていたら、ここはどこ、私は誰状態になったんだよね。ナビがあるから完全な迷子じゃないけど、
「ニュータウンの道とか、工業団地の道って入り込んだら迷う時はありますよ」
それはあると思う。見知らぬ道ってのが最大の理由だけど、道が妙に整備されてるのもあると思うんだ。だってさ、田舎道ならマシそうな道を選べば大抵は正解だもの。
「それとああいうところって袋小路になってるところも多いです」
それわかる。中は綺麗に整備されてるのだけど、そこに行く道って限られてる感じ。出口になる道に行きそこなうと、なんかグルグル回らされちゃうもの。
「何回も曲がってると東西南北もわからなくなる時があります」
ある種のラビリンス状態かな。さてこの道だけど、気が付くと南北に山が迫って来てる気がする。さらに言えば進行方向にも山がある。今日はどう考えてもあの山の向こうに行くはずなんだよね。
そしたら来た。これは丘越えレベルじゃない峠道だ。登りはキツイし、これはヘアピンだぞ。もっとも路面は悪くないし、カーブのキツイところでは道幅も広くなってる気がする。えっちら、えっちら、登って行くと、
「釜坂峠です」
市川町ってなってるぞ。そこに何やら記念碑みたいなものがあったから、バイクを停めて見てみると釜坂峠改修記念碑って書いてある。気になったのは施工したのが愛知県豊川市駐屯陸上自衛隊第一〇一建設大隊ってなってること。
哲也さんによると他の国なら工兵部隊になるそうで、陣地を作ったり、渡河作戦のために橋梁を懸けたり、軍用道路を作ったりが仕事らしくて、
「サマウに派遣された部隊がそうです」
そういう性質の部隊だから重機とかもたくさん持っていて、こんなところの工事にも駆り出されたって話だけど、そんな話は日本では聞いたことが無いぞ。
「建設大隊はもう無くなっています」
戦後に自衛隊が出来た時に戦後の復興のために、こういう道路工事にも対応できる部隊が作られたんだって。それは時代からわからないでもないけど、着工が昭和四十一年で竣工が昭和四十二年だぞ。その頃は社会の授業で習った高度成長期のはず。
「前の東京オリンピックが昭和三十九年で、前の大阪万博が昭和四十五年です」
なのにまだ自衛隊に道路工事を依頼していたのにビックリした。それはわかったけど、どうしてこの峠の改修工事なんてしたのだろ。だってさ、今日も登って来たけどクルマなんて殆ど走ってないじゃないの。
「そこまではさすがに・・・」
これだけの工事を行ったのは、なんらかの理由でこの峠をより通りやすくする必然性があったはずだったんだろうけど、その後の交通の移り変わりであまり使われなくなったぐらいしか言いようがないのか。世の中にはそう言う事はあるよね。
峠を下って里に入り、走って行くと川に出た。市川だけど、これを南下するのか。そう思ってたら、
「あそこに見える橋を渡りますから、右折です」
あそこみたいだけど、広くもない橋でトラックが来て欲しくないと思った。橋を渡るとすぐに左に曲がって、その後も古い住宅街をうねうねと抜け、
「突き当りを右です」
やっと二車線の広い道に出たぞ、てか、ここはどこなんだ。哲也さんによると奥播磨にツーリングに行く時に案外ネックなのが加西と福崎なんだって。要は市街地走行になり混むってこと。それを迂回するためのルートだそうで、
「ここは福崎の西側になります」
哲也さんに言わせると奥播磨に向かうには加西を通り抜ける必要があるのだけど、加西の道はややこしくて、混んでて、信号も多いんだって。地方都市に良くあるパターンだけど、旧市街に隣接するように新市街が広がっていて、とくに旧市街に入り込むとラビリンスになるとか、ならないとか。
それ以前に国道一七五号バイパスから加西市街へのアクセスも良くないとか。良くないは言い方が悪いけど、加西も市だからどこかで曲がったら一本道で行けそうなイメージがあるじゃない。ついでに言えばそのまま市街も抜けられるみたいな。
だけどそうじゃなくて加西に行くのも、市街地を抜けるのも何度か曲がり必要があり、ちゃんと道を知っていないとわかりにくくて、トドメに混んでるんだって。
「福崎は東西の道自体は一本なのですが・・・」
釜坂峠から市川に出て、南に下りかけたのが生野街道だそうだけど、この道って姫路まで続く道だけじゃなく、播磨と但馬を結ぶ唯一のルートになるんだって。唯一と言いながら播但道が出来てマシにはなってるそうだけど、東西南北の道がクロスするところだから混むんだってさ。
それだけじゃなく、福崎市街もそうだけど、福崎から姫路に続く道もロードサイド店が並んでいて、休日ともなればクルマが集まって来るとか。
「店に入るための右折渋滞もよく起こります」
対面二車線だからそのクルマが右折するまでクルマの流れが停まってしまうぐらい。その店に行きたいのはわかるけど、他のクルマにしたら迷惑よね。ましてや福崎を通り抜けたいだけの人にとってはウンザリよね。
それを全部回避したルートがあの道って言うけど、そんなものよく見つけ出したものだ。もちろん距離としては遠回りにはなるけど、混雑と信号があれで回避できるのなら嬉しいもの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます