鞍馬街道
天気も良いから可愛すぎるバイク女子の定番のソフトクリームを食べながら雑談の続き。アラサー女のどこが可愛いかって、そんなもの自分が内心でそう思うのは思想信条の自由だ。たとえ周囲から崖っぷち女と見られようがだ。
そうだ、そうだ。美山には周山街道から入って来たけど、この道ってここで行き止まりなの。なんかこの先も続いてる気がするけど、どこかにつながってるとか。
「京都の鞍馬です」
鞍馬って義経がいて、そこから三条大橋に出かけて行って弁慶と大立ち回りをやったり、江戸時代には鞍馬天狗が住んでたと言うあの鞍馬なの。
「ですから鞍馬街道と呼ばれています」
鞍馬街道が出来たのは古いなんてものじゃないみたいで、平安京が出来た時に鞍馬寺なり、貴船神社に行く道が始まりじゃないかって。そこからさらに北に向かう道が伸びて行ったのかもしれないかもって。
もっとも半端な道じゃないみたいで、京都府唯一のスキー場があるところを通ったり、近畿でも屈指の酷道として有名な国道四七七号を経由したり、
「百井の別れも有名ですが、そこを曲がらずに直進したら鞍馬になります」
どこだかわからないけどトンデモそうな道であることだけはわかる。とはいえ誰も走らないかと言えばそうでもないみたいで、サイクリストの人も多いらしいし、バイクだって京都市内からの日帰りツーリングに走る人もいるんだって。
「クルマが少ないからだと思います」
自転車はもちろんだけどバイクもそういう道は走れるものね。その鞍馬街道ってどこに向かう道かと言えば出雲だって聞いてピンと来なかった。だって出雲って島根県だよ。こんなところからどうやっての話になるじゃない。
それでも鞍馬街道のスタート地点は出雲口って呼ばれるんだって。でもさぁ、出雲に行くなら国道九号じゃないの。もしくは篠山街道で遠坂峠越えかな。出雲に行くには但馬を経由しないと行けるはずがないもの。
「よくご存じですね」
千草先輩とツーリングして教えてもらったからだけどね。その辺は哲也さんも詳しくは知らないとしてたけど、江戸時代にも栄えていたらしいとしてた。鞍馬も行ったことがないのだけど、今でも鞍馬寺の前ぐらいには昔の宿場町の風情が残ってるんだって。
そうだったらここも単なるド田舎じゃないはず。だってずっと京都は文化の先進地だったし中心地だったじゃない。京都からの街道が通るのだったら、京都の文化だって持ち込まれてたはずじゃない。
「そのはずですよね。だからどこか雅な気がします」
ウソ吐け、そうだと知ってるからそう見えるだけだろ。鞍馬街道も江戸時代の鯖街道の一つになるらしいけど、そんなに険しい鞍馬街道をわざわざ通らなくても、周山街道を通れば済む話じゃないの。
「その辺も良くわからないのですが、鞍馬街道の方がより京都の中心街に出やすいからじゃないですか」
そこから先の話は哲也さんの教養の深さに驚かされた。今の京都はかつての平安京におよそで重なるそうだけど、歴史的にはそれこその変遷があったそう。平安京の真ん中を南北に貫いているのが朱雀大路だけど、あれって東寺の西側ぐらいになるのか。
朱雀大路で西の右京、東の左京に分かれるけど、右京はあんまり発展しなかったそう。理由は左京より少し低くて雨が降れば流れ込む地形だったからだとか。雨が降ればジメジメするところは嫌われて東側の左京が栄えたそう。
それと都の中は区画整理されて管理されてるから、貴族たちは都の北側に別荘とか、寺院を建てたとか。当時は都の外側の空き地だったんだろうけど、北山文化の由来になったとか、なんとか。
今の京都御所の位置だってかつての平安京なら東北の隅っこぐらいらしい。だけど御所がそっちにシフトすれば都の中心もずれるわけで、
「都の東側にも別荘とか寺院が建てられたはずです」
東山文化だ。塩鯖を売る商人も客が多いところを目指すだろうから周山街道じゃなく、鞍馬街道を通るのが多かったのかもだって。京都の地理もエエ加減も良いところだけど、なんとなくぐらいはイメージ出来たかな。
「こんなもの推測ですけど・・・」
鞍馬街道の方が成立も古いから、小浜に行く国道一六二号もかつては鞍馬街道と呼んでたかもか。でもどう聞いても険しそうな道だから、バイパスみたいな感じで周山街道が出来たのじゃないかって。
小浜と京都だって塩鯖しか運んでないはずもなく、より多くの荷物を運ぶのなら周山街道の方が便利となって、鞍馬街道は周山街道と合流するところまでに今はなってるかもか。この辺の街道ロマンは、
「誰かが言ってましたが、美山かやぶき由良里街道から国道二十七号に出れるじゃないですか」
国道二十七号に出れば綾部に行けるし、綾部から西舞鶴にも出られるはず。西舞鶴まで出れば宮津だって行けるよね。ちょっと待ってよ、
「加悦谷に入れば出石の方にも行くことが出来ます。それこそ大昔の鞍馬街道はそうやって出雲を目指していたのじゃないかと」
う~ん、これこそ古代の街道ロマンだ。それも今だってツーリングして楽しそうなコースじゃないの。ツーリングを始めて知ったようなものだけど、丹波の道ってツーリングのためにあるような道の気がするんだよ。
福知山とかはさすがに市街地だけど、市街地を離れたら、どこまでも続くようなカントリーロードだし、クルマも少なくて信号も少ない。ツーリングの走行距離って下道なら一時間に三十キロぐらいが目安だって千草先輩に聞いたけど、小浜に行った時なんて四十五キロぐらいまで伸びてた。
言っとくけどブンブン飛ばしたんじゃないよ。ごく自然にそれぐらい走れちゃうのよ。信号で停まっても、ちょっと一休みって気分になれるぐらい。市街地のまた停められたとは大違いだもの。
「バイクが増えても渋滞は起こりませんしね」
そこまで台数がいないのはそもそもだけど。クルマと違うものね。クルマがノロノロ走られると何が困るって、追い抜きたくたって、なかなか追い抜けないのよ。ペースメーカーみたいになって後続がずらって状態になってしまう。
それとノロノロ走っている自覚が無いクルマもいそうだし、道交法遵守の固い信念みたいなものを持ってそうな人だっている。我こそは模範速度で運転してるって感じかな。その辺を言い出すとSNSぐらいならプチ炎上しちゃうけど、とりあえずバイクならとっとと追い抜いてしまう。
「滅多にないですけど」
それを言うな。小型が中型、ましてや大型を追い越せるはずがないだろうが。つうか、そんなノロノロ走ってる大型なんて見た事ない。
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