県外への挑戦

 待ち合わせ場所に行ったら、いたいた、


「今日はよろしくお願いします」


 礼儀正しいのよね。それだけでもポイントだぞ。親しさが増すと慣れ親しんで、だんだんタメ口になるのは当たり前だ。けどさぁ、親しくなるのと、見下すのを混同している勘違い男はこの世に多いと思ってる。


 彼女にでもなろうものなら、所有物にしたぐらいの気になるぐらいみたいだ。そんな訳ないだろうが、彼女になったと言ってもより関係が近くなったぐらいの意味しかあるものか。


「結婚してから豹変するタイプもいますからね」


 それも聞いてる。男が一家の大黒柱だとか、家事とか育児は女の仕事だとかのさばり出すタイプだろ。令和の世の中で亭主関白をやりたいなんて、頭にカビが生えてるとしか思えないもの。


「それだって、せめてそう言えるぐらいの甲斐性があっての話です」


 今の世の中、旦那の稼ぎで余裕の専業主婦でございを出来る家庭の方が少数派だと思うよ。二馬力で家庭を支えるのが常識のはず。二人の稼ぎでなんとか成立してるはずなのに、亭主関白がしたいなんてアホだ。



 どこにツーリングに行きたいかの希望も伝えたのだけど、それはずばり県外だ。県外なんて大阪府に行けばそうなるのだけど、神戸から大阪へは走りたくない。だってだよ、国道四十三号にしろ、国道二号にしろ、山手幹線にしろ、ガチの市街地突破になるじゃない。


 だけど他になると遠いのよ。西隣は岡山県になるけど、あんなところにどうやってたどり着くかになるじゃない。そんな話を哲也さんにしたら、


「京都府はどうですか?」


 京都って思ったけど、京都市じゃなく京都府のことか。京都って京都市が南の端っこぐらいにあって、そこから日本海まで広がっているのか。


「篠山の西隣は京都府です」


 なるほどって言いたいけど京都府との位置関係がイマイチわかんないな。


「どうせならもう少し足を伸ばして」


 どう伸ばすんだって聞いたら綾部に行くって言うけど、綾部って姫路の方だぞ。


「それは綾部山梅林で・・・」


 梅林じゃない綾部市ってのがこの世にあるんだって。マップを見たらたしかにあるぞ。福知山の東隣ぐらいみたいだけど、


「ですからデカンショ街道を走って行って・・・」


 デカンショ街道ってどこなんだよ。篠山の南側を走る道みたいだけど、そっちの方からどこかで北に向かって走るつもりのようだ。その辺になるとわかんないから哲也さんに任せよう。でもさぁ、篠山には何度か走ったことはあるけど、その手前の三田市を抜けるのが楽しくないのよね。


 鈴音もマップで調べてから行ったんだよ。丹波の方に行くには六甲北有料道路が千草先輩の言う通り良さそうでさ、六甲北有料道路が終わったところから、そのままフラワータウンに入れるのよね。


 その道を道なりに走って行くと国道一七六号に出られるし、走ってみてもそうだったのだけど、あそこってとにかく信号にウンザリさせられる、どれだけ停まらされるんだと思うのよ。あれだけ停まらされると、


「阪神電鉄みたいとか」


 上手いこと言うな。阪神電鉄ってとにかく駅数が多くて、普通なんかに乗れば、すぐに次の駅に着いちゃうのよ。三田のフラワータウンの信号もそうで、やっと青になってスタートしたら、見えてる間に次の信号が赤になる感じなんだもの。


「なにがあっても各駅停止させるんだの強い意志を感じたりします」


 なんらかの意図はあるのだろうけど、走らされる方はウンザリさせられるのは間違いない。そんな話で盛り上げっていたのだけど、はて、六甲山トンネルじゃなくて新神戸トンネルなのか。そこから岩谷峠を越えて淡河だけど、へぇ、ここを直進するのか。初めてだな。緩やかな丘越えの道だけど、丘から下る途中で、


「この信号を右です」


 曲がってみるとこれも気持ちが良い道だぞ。やがて突き当たったけど左か。どこに向かってるだろう。三叉路の信号に出たけど、


「市野瀬です。ここは右と言うか、直進します」


 市野瀬ってどこなんだ。千草先輩に地図を頭に入れとけって言われたけど、知らない道を何度も曲がるとお手上げだ。ここも田舎道だけど、あれっ、見えてきた交差点のあたりは妙に立派なビルが建ってるじゃないか。その信号を左折してしばらく走ると、この交差点って、


「六甲北有料道路の入り口です」


 へぇ、こうなってるのか。でも信号を左折するのじゃなくて直進するみたいだ。すぐに立体交差みたいなとことクロスして入ったのだけど、これって片側二車線じゃないの。それと真ん中を走ってるのは神鉄の公園都市線のはず。


 これは信号もないから快適だ。あのフラワータウンの信号の罠に較べたら段違いだよ。どこまで続くのかと思ってたけど、どうもニュータウンが終われば二車線の田舎道になるみたいだ。


 ここも哲也さんに言わせると不思議な道で、あれだけ整備されてるからどこかにつながってると思うじゃない。だけど南側の終点は三田駅前みたいで、そこから国道一七六号にダイレクトに続くわけじゃないんだって。


 北側もそうで、以前はだんだん細くなって無くなりそうな道だったとか。それが曲がりなりにも整備されて、


「信号を直進して踏切を渡ります」


 相野駅の近くってなってるけど、相野駅ってどこなんだ。


「新三田駅の二つ先です」


 それってかなり北側になるはず。走って行くと国道一七六号に入れたけど、これ良いぞ。三田の嬉しくない部分を見事に回避してるじゃないか。


「とくに帰り道の時が有用です」


 昼間のフラワータウンはゾッとさせるものね。あの道ってニュータウンのショッピングタウンみたいなところを通るのだけど、昼間ともなれば買い物客のクルマがとにかく湧いてくる。集まって来るのは仕方ないだろうけど、通り抜けたいだけの人にはウンザリだけさせられる。


 それが、ここまで来ればフラワータウンだけじゃなく、国道一七六号の渋滞をパス出来るじゃないの。だってさ、フラワータウンの渋滞に向かうクルマが国道一七六号の信号から始まってるんだもの。


 あそこを回避出来たら篠山まで快走だ。それぐらいは知ってるんだよ。古市ってところを過ぎた先の信号を右に曲がったけど、


「これがデカンショ街道です」


 そうなのか。これも広々して気持ちやが良さそうな道じゃないか。鈴音は篠山口の駅のところから篠山市内に向かってたけど、こっちからも行けるのなら今度からそうしよう。デカンショ街道を西に快走してたのだけど、


「この信号を左に入ります」


 らじゃって言って曲がったけど、これは狭いと言うか、田んぼの中の農道みたいだよ。そこを抜けると橋を渡って今度は右か。こっちはちゃんと二車線あるのが嬉しいな。この辺ってどこなのかな。


「曲がらずに直進すれば福住に出て国道一七三号に入れますが、少しだけショートカットです」


 裏道、抜け道ってやつだろうけど、良く知ってるものだ。そして国道一七三号に入ったけど、これもまた良い道そうだ。これはそうだレベルじゃなく、実際にもそうみたいで、バイク乗りが集まって来る道だとか。道の駅瑞穂の里で休憩したけど、ぎょぇぇぇ、あんだけバイクが集まってるじゃないか。


 生理現象も解消させて出発だ。そう言えば京丹波町ってなってたけど、ここは京都府だよね。やったぁ、鈴音のモンキーもついに京都府に轍を刻んだぞ。見えてるのは山ばっかりだけど、それでも京都府に変わりはあるものか。


 ただ道は登りだ。はっきり言わなくても峠道だ。ワインディングはそれほどじゃないけど、登りはキツイな。モンキーの心臓が唸ってるもの。ところでさ、モンキーは五速で、ハンターカブは四速だけど違いはあるの?


「あくまでも一般論ですけど・・・」


 シフトの刻みが大きいほど、シフトごとのカバー範囲が広くなるはずだって。そりゃそうなるよな。その分だけシフトチェンジの回数も減るのも理屈だよね。


「とは言うものの、四速で走っているともう一速欲しくなる時があります」


 それはモンキーだってそうだ。ハンターカブの最高速は九十キロぐらいみたいだからなおさらかもね。新神戸トンネルもシンドかったとか。


「モンキーはもっと出るらしいですね。知らぬが仏にしときます」


 あれぐらいの速度で十分だよ。出せるのと実際に走るのは違うもの。鈴音がしたいのはトコトコ派のツーリングだ。


「気が合いますね」


 つうよりカブエンジンでぶっ飛ばすツーリングなんて出来るものか。どうしてもやりたいのなら二五〇CCに買い替えやがれだ。とは言え、登りでぶち抜かれた。大型スポーツは速いよ。こっちは四速と三速を駆使してヒーヒーだもの。


 それでもマスツーは良いな。ソロツーだって面白いし、一人だから気楽に走れるけど、仲間がいるって安心感があるもの。それも相手は哲也さんだ。背中を見てるだけで頼もしいって感じがするもの。


 やっと峠を越えて下って行くのだけど、ここはどこだ。京都府なのは間違いないけど、橋を渡って突き当りに信号だ。左に曲がったけど、国道二七号ってどこに行く道だ。


「さっき渡ったのが由良川で、この道は西舞鶴に行きます。そうそう、ここは綾部です」


 ここが綾部か。市街地になってるものね。綾部市と言われてもピンと来ないのだけど、


「ボクもそうですが、絹織物で有名だったそうで、そうですねグンゼの発祥の地です」


 グンゼってBVDと並ぶ男のパンツの二大メーカーだぞ。そんな超有名企業が綾部なんかにあるのか。


「あくまでも綾部が発祥と言うだけですけど・・・」


 それでも登記上は今でも本社は綾部市にあるとか、ないとか。今でもグンゼの古い建物が残っていて映画のロケとかにも使われことがあるらしい。そんなものを見に行く余裕もないから北上だ。


 ここもまた山越えになってるけど、下ったところにあるのが西舞鶴のはず。ほら、そう出てるじゃない。これぐらいは予習して来てるからね。ところでさ、ここから目指す舞鶴って西と東があるけど、


「西は昔からの城下町で、東は明治になって軍港として栄えたところぐらいのはずです」


 西舞鶴にも港があるみたいだけど、こっちは海上保安庁が使ってるとか。自衛隊も海上保安庁も一緒の組織と思ってたのだけど、別の組織だって初めて知ったよ。西舞鶴市内の大きな交差点を右に曲がったけど、ここも国道二十七号の続きみたい。


 さすがにクルマも多くなってるけど、片側二車線だから流れは悪くない。なんかバイパスみたいな感じにも思えるけど、どうなんだろうな。登りになってお約束のトンネルがあったから頂上を越えたはずだけど、


「ここを右に入ります」


 こんなとこに入るの。いや、素直に従おう。とにかく初めて走る道だから、逆らっても無意味だ・・・というけど、これってガチのワインディングの登りじゃないの。道幅も狭いし、路面だって・・・事故ったらどうしてくれるんだ。

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