第2話 見た目枠とステータス

ユウトは街を歩いていた。

石畳の道。木造の家々。賑やかな商店街。

「仲間集めないとな」

独り言を呟く。

『聖女の祈り』では、パーティは最大4人まで組める。ユウトは今、一人だ。

「確か、酒場で仲間集められたはずだな」

ユウトは記憶を辿った。

ゲームでは、街の中心部にある酒場で冒険者を雇うことができた。

「赤竜亭……だっけ?」


赤竜亭は、すぐに見つかった。

街の中心部。大きな看板に赤い竜の絵。

「あ、ここか。ゲームと同じだな」

ユウトは店に入った。

店内は賑やかだった。

木製のテーブルが並び、冒険者たちが酒を飲んでいる。鎧を着た男、ローブを纏った女、弓を背負った若者。

「いらっしゃい」

カウンターの奥から、中年の男性が声をかけた。

赤竜亭のマスターだ。

「仲間探してるんだけど」

ユウトが言うと、マスターは頷いた。

「でしたら、こちらをどうぞ」

マスターが手を翳す。

その瞬間──

ユウトの目の前に、半透明のウィンドウが浮かんだ。

【冒険者リスト】

名前、職業、レベル、ステータス(攻撃力、防御力、魔力)が並んでいる。

「へー、便利じゃん」

ユウトは感心した。

マスターは内心で呟いた。

(この人、冒険者をまるでアイテムを選ぶように真剣だ……普通の旅人じゃないな)

しかし、マスターは表情を崩さなかった。

ユウトはリストをスクロールし始めた。

「レベル高いやつ……っと」


数分後。

「おっ、これいいな」

ユウトの指が止まった。

【名前:アリア / 職業:剣士 / Lv.15 / 攻撃力82 / 防御力60】

「レベル15で攻撃力82?強いじゃん」

ユウトは満足そうに頷いた。

リストには小さな顔写真も表示されている。

赤髪のポニーテール。凛とした表情の少女。

「見た目枠としても丁度いいな」

ユウトは呟いた。

「荷物たくさん持てそうだし」

マスターが耳を疑った。

(見た目枠……?荷物……?)

しかし、ユウトは気にせず店内を見回した。

「アリアってどこ?」

「あちらです」

マスターが指差す。

店の奥、窓際の席に一人で座っている少女がいた。

赤髪のポニーテール。剣を膝に置き、静かに剣の手入れをしている。

「あ、いた」

ユウトは近づいた。


「お前、アリアだろ?」

ユウトは冒険者リストを指さしながら声をかけた。

アリアは顔を上げた。

「……誰?」

警戒した目。

ユウトは無神経に続けた。

「俺のパーティに入れ」

「は?」

アリアの眉が上がった。

「ステータス高いし、見た目枠としても丁度いいな。荷物たくさん持てそうだし」

「……見た目枠?荷物?」

アリアの表情が凍りついた。

ユウトは頷いた。

「いや、ゲームじゃパーティに女キャラ入れるだろ?華があるし。あと、戦士だから力強いだろ?荷物持ちには最適」

「ふざけるな!」

アリアが立ち上がった。

剣を握り締める。

周囲の冒険者たちが、ざわついた。

(あの新人、アリアに喧嘩売ってる……)

(無謀すぎる)

アリアは怒りを押し殺しながら言った。

「私は一人で冒険してる。仲間なんていらない」

「え、でもゲームだと酒場のNPCは拒否できないはずだけど」

「NPC?何を言って──」


ユウトは無視して続けた。

「まあいいや。入れ」

その瞬間──

アリアの目の前に、半透明のウィンドウが浮かんだ。

【パーティに加入しますか?】

【はい】【はい】

「……え?」

アリアの目が見開かれた。

選択肢が2つとも「はい」だった。

「『いいえ』がない!?」

アリアは必死にウィンドウを操作しようとした。

しかし、選択肢は変わらなかった。

ユウトは無関心に言った。

「あ、そうなんだ。ゲームと同じだな」

「ちょ、ちょっと待って!」

アリアの声が震えた。

しかし──

システムが勝手にカウントダウンを始めた。

【5秒後に自動加入します】

【5…4…3…】

「やめろ!ふざけるなぁぁぁ!!」

アリアが叫んだ。

しかし──

【ピロリン♪】

【システムメッセージ:アリアがパーティに加入しました】

「……嘘でしょ」

アリアは呆然と立ち尽くした。

周囲の冒険者たち、マスター、全員がドン引きしていた。

マスター(この世界のシステム、おかしい……)

ユウトは満足そうに頷いた。

「よし、じゃ行くか」

「待て!私は認めてない!」

アリアが叫ぶ。

「え、もう加入したじゃん」

ユウトはシステムを確認した。

【パーティメンバー:ユウト、アリア】

「ほら、名前出てるし」

「勝手に!」

アリアの声が裏返った。

しかし、ユウトはもう店を出ていた。

アリアは、歯を食いしばって追いかけた。


街の外。

草原が広がっている。

ユウトはアリアを半ば引きずるように歩いていた。

「離せ!私は帰る!」

「システム上、もう無理だって」

「知らないわよ!」

草原に到着した。

青いスライムが数匹、ぴょんぴょん跳ねている。

「よし、経験値稼ぎするか」

ユウトは剣を抜いた。

「経験値……?」

アリアが首を傾げる。

ユウトはスライムに突撃した。

一撃。

スライムが消滅した。

【経験値+3を獲得しました】

「よし、次」

ユウトは次のスライムへ向かった。

「ちょっと!何してるの!?」

アリアが叫ぶ。

しかし、ユウトは止まらなかった。

スライムを次々と倒していく。

「雑魚狩り。レベル上げないとな」

「もう十分強いでしょ!?」

「いや、全部倒さないと気持ち悪い」

「……は?」

アリアの思考が停止した。


三十分後。

草原のスライムが全滅していた。

「よし、全部倒した」

ユウトは満足そうに頷いた。

アリアは呆然と立ち尽くしていた。

(この人、本気で全部倒した……)

しかし、ユウトは止まらなかった。

「あ、ドロップアイテム確認しないと」

ユウトは倒したスライムの残骸を一つずつ確認し始めた。

「何も出ない……あれ?」

「もういいでしょ!」

アリアが叫ぶ。

「いや、ドロップ率確認しないと」

ユウトはさらに別のスライムを探して倒した。

「……この人、おかしい」

アリアは涙目になっていた。

数分後。

「あ、スライムゼリー出た」

【スライムゼリー×1を獲得】

「よし、ドロップ率は10%ぐらいか」

「知らないわよ!!」

アリアの叫びが、草原に響いた。


街へ戻る道。

ユウトは軽い足取りで歩いていた。

「よし、次は魔法枠だな」

「……魔法枠?」

アリアが疲弊した声で聞いた。

「パーティバランス的に魔法使いいた方がいいし」

「私の意見は?」

「え、NPCに意見とかあるの?」

ユウトは純粋に疑問に思っている顔をしていた。

「……」

アリアは何も言えなかった。

(この人、本気で私を人だと思ってない……)

ユウトは続けた。

「じゃ、また赤竜亭行くか」

アリアは、疲弊しながらついていった。

(なんで、こんな目に……)

彼女の心の叫びは、誰にも届かなかった。


(第2話 終)

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