第12話「おばさん、村の人気者に」

朝。

おばさんが畑の草むしりをしていると、背後から視線を感じた。

振り返ると——見知らぬ人々が並んでいた。


「……なに、なにごと?」

「加賀美ゆきえ様のファンです!!!」


「ファン!? 誰の!?」

「あなたのです!!」

「え、私!? 芸能活動してないけど!?」


ライエルが小声で説明する。

「おばさん、昨日の神格化の件が……国じゅうに広まって……」

「広まって……?」

「“生活の女神、加賀美ゆきえ”として巡礼地になりました!」

「いやちょっと待って!? 私ただのパートよ!?」


村の入口には新しい看板。

《ようこそ! 生活の聖地ミルサ村へ!》

《本日も安全・清潔・節約で営業中!》


「勝手に営業しないで!!」


村には観光客が殺到。

「この洗濯ロープが女神様の使ったものだ!」

「おお、ありがたや! 柔軟剤の香りが!」

「匂い嗅がないで! それ普通に洗濯物よ!」


出店まで立っている。

「“おばさん饅頭”いかがですかー!」

「“説教味噌まん”と“麦茶まん”ありますー!」

「名前センスよ!!」


子供たちが遊ぶ広場には、巨大な石像が建っていた。

――“ほうきを掲げたおばさん像”。

「えっ、いつの間に!?」

「夜中に奉納されました!」

「夜勤勢、元気すぎるでしょ!!」


ライエルが恐る恐る尋ねる。

「……怒ってます?」

「怒るっていうか、なんか恥ずかしいわよ。

 主婦が宗教になるとか聞いたことないでしょ。」


「でも、おばさんがこの村を変えたのは事実です。」

「変えた覚えないのよ。掃除して、飯作って、文句言ってただけ。」

「それが奇跡だったんですよ。」

「え、主婦業ってそんなに神秘的だった?」


その日の夕方。

おばさんは麦茶のカップを掲げて言った。

「よし、これ以上の神格化は禁止! 崇拝より掃除! 感謝より片付け!」

村人たちは一斉に拍手。

「はぁい! 女神さま!!」

「言ってるそばから崇拝やめて!!」


ぴゅる太がちょこんと跳ねる。

「ぷるっ(人気者だね)」

「やめてよぴゅる太。おばさん、顔から火が出るわ。」


異世界十二日目。

おばさん、知らぬ間に宗教法人化。

本人、断固ノーコメント。

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