第9話「おばさん、魔物の子を拾う」
朝のミルサ村。
おばさんが畑で大根を抜いていたときのこと。
「ふんっ……ふんっ……よしっと。」
スポン!
――と、大根の代わりに、ヌルッとした何かが飛び出した。
「うわっ、ぬるっ!? ……って、スライム!? 何この粘度!」
目の前でぷるぷる震える青いスライム。
目がうるうるしている。
「ぴゅ〜」
「え、泣いた? スライム泣いた!? いや可愛いなオイ。」
ライエルが慌てて走ってくる。
「おばさん、それ危険な魔物だ!」
「危険? この子のどこが? むしろ保湿成分すごいわよ。」
指先でぷにっと触る。ぷるん。
「うわ、これハンドクリームよりしっとりしてる!」
「触らないでくださいって!!」
「保湿は人生の基本でしょ!!」
その後。
おばさんは当然のようにスライムを連れ帰った。
桶に入れて、水を換えながら語りかける。
「はい、お風呂の時間ね。汚れはこすらず落とすのよ。」
「ぷるっ」
「いい返事〜。名前はそうね……“ぴゅる太”。」
「ぷる太じゃなくて?」
「ぴゅる太のほうが語感かわいいの。」
村人が騒然とする。
「おばさん! 魔物を飼うなんて!」
「飼う? 違うわ、育てるの。」
「育てる!?」
「この子ね、将来きっといい洗剤になる。」
「職業選択が斬新すぎる!!」
数日後。
ぴゅる太は村の人気者になっていた。
子供たちと遊び、ゴミを食べ、道をきれいにする。
「おばさん、ぴゅる太すごい! 床ピカピカ!」
「でしょ? 生きるルンバよ。」
「ルンバ!?」
「掃除して動いて愛されてる、もうルンバ以外の何者でもないわ。」
ある夜。
村を狙う小型魔物の群れが現れた。
おばさんが叫ぶ。
「ぴゅる太、やっちゃいなさい!」
「ぷる〜!」
ぴゅる太、飛び散って敵を包み、吸収。
一瞬で全滅。
「うそだろ……スライムが……村を救った……!」
「うちの子、やればできる子なの。」
翌朝。
村の広場で表彰式が開かれた。
「勇者ぴゅる太に感謝を!」
「ぷるっ!」
おばさんは誇らしげに拍手を送る。
「掃除も戦闘も、基本は一緒なのよ。汚れをためない、それが平和の秘訣。」
ライエルがため息。
「……この村、だんだん“家庭科の授業”みたいになってきたな。」
「いいじゃない、文明の始まりってたいてい家事からよ。」
異世界九日目。
おばさん、魔物を家族にする。
そして村は今日もピカピカである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます