第51話 とある姉弟の文化祭:ひみつのはなし
その時だった。
校内放送が流れた。
「まもなく中央広場で『ひみつのはなし』があります」
三人は、顔を見合わせた。
「『ひみつのはなし』?」
まりあが首を傾げる。
「これって……美咲ちゃんが言ってた話かな……」
のえるが呟く。
「行こう!」
ミクが言う。
三人は、中央広場へ急いだ。
◆
中央広場。
すでに大勢の人が集まっている。
広場正面には特設ステージ。
@oto_fesの大画面モニター。
『100日間、ありがとうございました』
「100日……完結するんだ……」
まりあが呟く。
三人は、人混みの中で待った。
まりあは、ドキドキしていた。
(ドキドキする……これから、真実が公表される……のえるとあたしは知ってるけど……他の人たちは……?)
ステージに、生徒が整列し始めた。
女子制服姿。
「全員、集まってる……」
まりあが呟く。
「すごい人数……」
ミクも驚いている。
◆
委員長と月美が、ステージ中央へ歩いてきた。
二人、お揃いの衣装だ。
白いブラウスに、黒いベスト。
同じデザインのスカート。
完璧な双子コーデ。
「あれ……双子みたい……」
ミクが呟く。
「意図的だね……」
のえるが言う。
二人、マイクを持っている。
観客、静まり返る。
委員長が、マイクを持って話し始めた。
「音光学園生徒会長です。本日はご多忙な中ご来場いただき、ありがとうございました」
観客、拍手。
「音光学園は男子校です。そんな音光学園の文化祭を今日皆さんは楽しんでいただいていますが、皆さんはなにか不思議な感じがしなかったでしょうか?」
遠くから「女の子がかわいすぎて不思議だったー!」「男子校なのに、みんな超可愛かった!」などの声が上がる。
「どうやら一部お気づきの方もいるようですね」
「改めてご挨拶させてください。僕は、音光学園生徒会長、橘秀一です」
委員長は月美に、マイクを渡す。
「私は、SNSでは、吉野月美、として活動していますが、本名は音光学園2年A組の桜井美月です」
観客、ざわつく。
月美が、息を吸う。
「そう、私たちは……音光学園の男子生徒です」
観客から、驚きの声。
「え!?」
「本当にそうだったの!?」
「ネットでは話題になってたけど、やっぱりそうなの?え?全員女装してたってこと!?」
ざわざわとした雰囲気。
カメラのシャッター音。
委員長が、マイクを持つ。
「ここから、すべてお話しします」
観客、静まり返る。
「今年の春……理事長から告げられました。音光学園は……廃校になると」
観客、ざわめく。
「生徒数の減少、財政難……このままでは……」
委員長の声が、震える。
月美が、続ける。
「私たちは、考えました。何か……できることはないか。そして、思いついたんです。全校生徒で女装して、文化祭を開こうという前代未聞の無謀な作戦を」
委員長が、話を引き継ぐ。
「最初は、学校の先生がた、そして僕と美月の二人だけでした。このアイデアを……MHKに持ち込みました。一蹴されるかと思っていたのですが、本当に奇跡的に……快諾していただけました」
月美が、頷く。
「私は、まず……一ヶ月間、潜入トライアルをしました。女装して、学校生活を送る……」
「何処かで聞いたことある話だとおもいませんか?」
委員長が問いかける。
「そう。『ほしみのひみつ』です。本作は本学の生徒春野咲希先生が、私達の無謀な作戦を漫画化した作品なのです」
観客、息を呑む。
月美が、続ける。
「そこから……この無謀な作戦はどんどん進化していきました。
出版社さんとMHKさんと音光学園のコラボが実現」
委員長が、加える。
「次に、クラス全員で女装しました。そして……学校全体へ。全校生徒が……協力してくれました。SNSで情報を展開し……商店街の皆さんも……協力してくださいました」
ごくり、とみんな見守る。
「こうして、無謀な作戦が完成を迎えたのです。一歩間違えれば大惨事になってたかもしれません。でもこれだけ多くの方々にご足労いただけて、僕は感無量です」
委員長が、深呼吸する。
「……皆さんを騙したと言われても、仕方ありません。事実としてそうですから」
観客、静まる。
「でも……この状況で……背に腹は代えられませんでした」
委員長が、静かに語る。
「僕は……覚えています。去年の文化祭は……保護者しか来ない、閑散としたものでした。それが……今日の文化祭は……」
委員長の声が、震える。
「全く違うものになりました」
月美が、頭を下げる。
「これは……みんなのおかげです」
委員長も、深く一礼する。
「騙して……ごめんなさい。それでも……ここまで来られたことに……」
委員長が、顔を上げる。
「僕は……嬉しいんです」
「本当に……ありがとうございました」
二人、深く一礼する。
数秒の静寂。
観客、固まっている。
そして。
一人が、拍手し始めた。
徐々に広がる。
やがて、拍手喝采。
観客、スタンディングオベーション。
「すごい!」
「よくやった!」
「感動した!」
まりあは、涙ぐんだ。
ミクが呟く。
「本当に……男の子だった……」
「……やっぱり、すごいな」
のえるも言う。
まりあは、拍手しながら涙を拭った。
@oto_fesの大画面モニター。
カウントダウンの映像が流れ始めた。
100日前から今日まで。
様々な写真、動画。
商店街での活動。
訓練の様子。
準備の過程。
そして最後に。
「100日間、ありがとうございました」
カウントダウン『0日』
花火の映像。
観客、拍手。
ステージ上で、二人と、生徒一同は、一礼。
拍手はなかなか鳴り止まなかった。
まりあの涙もまた、なかなか止まらなかった。
◆
夕方。
三人は、校門を出た。
夕日が沈みかけている。
まりあが、涙を拭いながら振り返る。
「……最高の1日だった」
「うん!」
ミクが答える。
のえるも、小さく頷いた。
夕日。
まりあは、その景色を見つめた。
(『ほしみのひみつ』が現実になった。これだけ多くの人が想像できないくらい努力して実現したんだ。あたしも、頑張ろう)
夕日が、ゆっくりと沈んでいった。
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