男子校女装化計画!?〜廃校危機を救う奇跡の文化祭大作戦〜

@hoshimi_etoile

第0話:転校生

「皆さん、おはよう」


春の朝の陽射しが差し込む2年A組。担任の桐原先生が教室に入ってくると、いつものように生徒たちはざわざわと席に着いた。でも今日の桐原先生、やけに眼鏡の位置を直している。汗ばんだ手で書類を握りしめて...何かある?


「さて。今日から転校生が加わることになった」


教室内のざわめきが一瞬止まる。転校生?この時期に?


「入ってきなさい」


ドアがゆっくりと開き、可愛らしい女子生徒が入ってきた。春風に揺れるような栗色の髪、陽射しを受けて輝く深い茶色の瞳。薄いピンクの唇が緊張したような微笑みを浮かべている。透明感のある白い肌と、どこか上品な雰囲気を纏った美しい少女だ。

紺のブレザーに赤いチェックのスカート、白いブラウス。膝下まである白いハイソックスに黒いローファー。どれも新品のように手入れが行き届いている。髪には小さなリボンが結ばれ、バッグも制服に合わせた上品なデザインだった。


「皆さん、おはようございます。吉野月美です。よろしくお願いします」


彼女の声は見た目からすると少し低めだが、どこか上品な響きがあった。桐原先生が振り返り、白いチョークで黒板に「吉野月美」と書く。カツカツという音が教室に響く中、生徒たちは静まり返って、歴史が変わる瞬間を見つめていた。


彼女は丁寧にお辞儀をした。その仕草が自然で、どこか品があった。


教室が一瞬静まり返った。


「え...女子?」


最初にささやいたのは前列の田島だった。いつもは授業中に漫画を読んでいる彼が、今日は教科書を落としそうになっている。


「ここ男子校だよな...?」


山田の声が裏返った。普段から声変わりが遅くてからかわれているのに、今度は動揺で更に高くなっている。周りの生徒たちも似たような顔をしていた。


この学校に女子なんて、創立以来一度もいなかった。田島の祖父の代から続く男子校で、女子生徒なんて都市伝説レベルの存在だったのに。


「可愛い子だな...」


「マジで女子?」


「どういうこと?」


ざわめきが教室に広がっていく。生徒たちは転校生を見つめ、お互いの顔を見合わせ、そして再び月美を見つめた。確かに女子だ。間違いない。でも、ここは男子校のはずなのに。


桐原先生が手を上げて静かにするよう促してから、説明を始めた。


「実は来年度から共学化に向けて、試験的に女子生徒を受け入れることになった。吉野さんはその第一号だ」


桐原先生の説明に、教室内がざわめいた。


「共学化?初耳だぞ」


後ろから佐藤の声。


「マジかよ、何も聞いてないぞ」


「いつの間に...」


「あ、でも最近妙だったよな。急に始まったトイレ工事とか」


「食堂にサラダバー追加されたのも...」


「そういえば理事長、最近よく校門に立ってるし」


点と点が線で繋がっていく。そうか、全部これの準備だったのか。


教室がざわざわと騒がしくなる。音光学園が共学化?生徒たちにとっては寝耳に水の話だった。一方で、なんとなく納得する部分もあった。最近、学校側が何かと「改革」について話していたからだ。校舎の一部が新しくなっていたのも、今思えば女子生徒受け入れの準備だったのかもしれない。


桐原先生が促すと、月美は再び立ち上がった。


「転校の理由は...父の仕事の関係で。趣味は、読書と...」


少し間を置いて、


「音楽鑑賞です」


控えめに答える月美。その初々しい様子に、教室からは「おー」という感嘆の声。深々とお辞儀をすると、自然と拍手が起こる。月美は嬉しそうに微笑んで、もう一度お辞儀をした。


「ところで、今日桜井は?」


誰かが疑問を口にした。


「桜井は体調不良でしばらく休みだそうだ」


桐原先生が答える。


「なんで、しばらく桜井の席を使ってくれ」


と桐原先生。


月美は小さく「はい」と返事をして、軽やかな足取りで空席となっている『桜井美月』の席へ向かった。スカートが揺れ、髪がふわりと舞う。そして椅子の前で振り返って、もう一度クラス全体に微笑みかけてから、ちょこんと椅子に座った。その一連の動作が自然で愛らしく、男子生徒たちは見とれていた。



月美の教科書を取り出す手が、微かに震えている。


表面は完璧な転校生。でも内心は——


(誰が月美だ!俺は美月だ...!)


そう。月美は美月だったのだ。


(なんで俺は女装してるんだ!)


スカートの感触、リボンの重み、すべてが現実。


クラスメートたちの何気ない視線が痛い。知らないのは彼らじゃない。知らない振りをしているのは、美月の方だ。


罪悪感と達成感が胸の中でぐるぐると渦巻く。


(どうしてこうなったぁああああああああ!!!)


「桜井美月」は心の中でそう叫んだ。


でも表情は、完璧に「吉野月美」のままだった。

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