『森の魔女見習いは、光の少年に恋をした』 〜光と旅し、奪われた光を取り戻す物語〜

國村城太郎

森の魔女見習いは、光の少年に恋をした

序章 

序話 泉に揺れる、最初の風

 森が燃えるあの日のことを、ナナはまだ知らない。


 あの春の朝、泉でひとりの少年と出会わなければ——

 風も、運命も、世界も、変わらなかっただろう。


 それはすべての始まりだった。



 ——

 森はいつものように静かで、そして生命の息吹で、賑やかだった。


「魔女は自然と共にあれ。人と深く関わってはならない。人の欲は世界を壊す」

 ——ウリルの言葉は、ずっと幼い頃から、ナナの根っことして、常に共にあった。


 ナナはその言葉と共に森を今日も歩く。

 

 これまで、必要以上に森の外で人と会うこともなく、森の生き物と師だけを相手に殆どの時間を過ごしてきた。

 

 頬を撫でる風と木漏れ日の光を感じる。


 朝の森を、獲物を求めて歩く。命をいただく、それは森で生きるものとして、自分たちも自然の中にあることを考えれば当たり前のことだった。

 

 だが、今日は何故か兎も山鳥も見つからない。

 

 風の流れがどこかしらいつもと違う。

 

 そんな不思議な感覚があった。

 

「なにかしら、この風?」

 

 風が枝葉を揺らして、「知らないよ」とでもいってるようだ。

 

 森をまわって、泉の清水を汲むのはいつもの習慣みたいなものだった。

 

 風とともにいつもの生き物たちからの魔力を感じながら、ナナは、泉に向かって急ぎ足で駆けた。

 

 いつもは水が湧く静かな泉に、湧水だけではない水音がした。

 

 ナナはその音に惹かれてしまった。

 

 いつもとは違う何かが起きるような気がした。

 

 風が、森の外の匂いと、知らない運命の気配を運んできた。

 

 森の隙間から、すこしずつ泉のある開けた広場が見えてきた。

 

「……誰?」

 

 知らない気配を風が運んできた。

 

 不安になってもおかしくないのに、何故かその気配は、ナナを優しい気持ちにさせていた。


 明らかに誰かがいる。ナナは木々と草木をかき分けて、広場に出た。

 


 その中心に、陽の光に照らされて、銀の髪を煌めかす少年がいた。

 

 水に濡れた銀の髪は、銀糸のようで、その肌は、磨き上げられた黒檀のように深く美しく、翠の瞳がやさしく陽の光を反射している。

 

 見た瞬間、ナナは息をのみ、言葉を失う。

 

 胸のざわめきが、風とともに、あたりに響いているような気がした。

 

 ふと、少年がこちらをまっすぐ見た。

 

 ナナの紅玉の瞳と、トキの翠玉の瞳がはじめて交わる。

 

「金の髪に、紅い瞳、そして白い肌、物語のその姿のままだ。魔女……さんですか?」

 

 柔らかな風に乗って、その声が躍るようにナナの耳に届く。

 

 ナナの心に、師の言葉——『外の人と深く関わると、人の欲に飲み込まれるよ』が蘇る。


 その言葉を思い出した瞬間、ナナの胸に、理由のわからない不安が広がった。


 師は決して、詳しいことを語らない。

 けれど「外の人と深く関わるな」という言葉だけは、いつも、少しだけ声が低かった。

 

 返事をためらっているのを見て、少年は言葉を重ねた。

 

「禁断の森を承知で来ました。助けてほしいんです……。追われていて」

 

「追われている?」   


 その言葉がナナの心に『守りたい』という小さな芽を生んだ。

 

 風が二人を守るかのように、ゆるやかに吹いていた。

 

 ——この出逢いは、ナナが世界よりも、ひとりの少年を選んでしまう、そんな恋のはじまりだった。

 そして、ナナを逃避行の旅へと導き、真の魔女への覚醒に誘う。

 ついには、世界の覇者との闘いを決意させる、そんな出逢いだった。


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