ザ・ノマド。
天津蒼生 / サン少佐
Prologue ― 魔王の死。
……アクェラシュ家初代当主、アクェル――私の祖父は、饗宴の席で魔王を討ったとされる。
醜悪なる魔族共が入り乱れる北部高原にて覇を唱えた魔王は、邪教の魔を操って人心を掌握し、その妖術で以て如何なる戦にも勝利し続けた…。
やがて、その音楽隊が奏でる恐ろしき不協和音が……我ら農耕民の大地に響き渡ると、下劣なる魔王は苛烈なる
――シフェトルサ道管区軍政官の宮廷に於いて狩猟隊長を務めていた我が祖父は、停戦交渉と銘打った暗殺計画に参加。饗宴の席で魔王の杯にシシリ花の毒が盛られたが……歴戦練磨の魔王にとっては、子供の戯れに過ぎなかった。毒が齎した微かな匂いの変化を、魔王は感じ取ったのである。
魔王は
祖父の仲間達は……待ち受ける拷問と処刑の苦痛を思って身が竦み、眼前の怒り狂う猛獣を前にして、身動き一つ取れなかった。だが我が祖父は――勇者アクェルは違う。勇者は守衛の直剣を奪うと、食卓を駆け上がり、乾坤一擲の思いで……
……魔王は討たれた。終わらせたのだ。世界を襲った悲劇を、梟雄なる魔王の征服劇を。全てを終演に導いた。我が祖父は英雄と讃えられた。
――その後、窮鼠が猫を噛むが如く守衛達を斬り伏せ、混乱の中で魔王の居城を脱した勇者アクェルは、畏れ多くも※聖上の御前に於いて――魔王旧領の一つルトゥエサの軍管区長官に任ずられ、更に所領における専制的権限を与えられた信託徴税官と成る。
その後……魔王亡き魔族軍は、玉座を巡る大内戦の末――その帝国が始まった時と同じように急速な凋落へ至り、その魔王旧領の一部は――聖上御自ら采配を振るわれた北伐親征で以って、帝国に吸収されたのだった。
(※聖上 … この世界に於いてはラドノルサ皇帝の敬称。ラドノルサ皇帝を構成する諸称号の一つ「神々の両腕に抱かれし神聖王」に由来する。)
…
……そうして…祖父が手に入れた称号を、今、孫が継承する。
私は
これと言った野心は無いが、所領を廃れさせるつもりは無い。
私は、我が祖父より受け継げし土地を……守り続ける。勇者アクェルの征服地を。
…
◇ ― 〝ホルセナ〟(ホルーセーネ)
第1章の主人公。ルトゥエサ地域における統治を委託されたアクェラシュ家――その若き当主。都市神ラドンの信徒でもある。
自信の臆病な性質を隠すかのように、驕り高ぶったような態度をよく見せるが、ある人物との出逢いを経て――その性格は次第に変わってゆく……。
◇ ― 〝ラドン〟(ラードーン)
古都ラドンの都市神にしてラドノルサ帝国の国家神、そしてラドノルサ系多神教の最高神が一柱。(そもそも「ラドノルサ(ラドノールース)」とは「ラドン神に属するもの」を意味する。)
帝都カハルの都市神カハラン(カハーラーン)とは義理の親子関係だったが、後に逆転した。また、都市神カハランとは前述の親子関係のみならず、恋愛関係でもあり、カハランとラドンの子が初代ラドノルサ皇帝…という建前である。サラッとBLが発生したが、ラドノルサ文化圏・カハロルサ文化圏において同性愛は認められているので……全く問題はない。
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