「現実見ろよw」と推し活を馬鹿にされていた貧乏女子大生の私が、スキル【無限推し活】に目覚めて、無名の地下アイドルを国民的スターにした件 ~私を捨てた友人たちは、今ごろ週刊誌を見て後悔しているらしい~
人とAI [AI本文利用(99%)]
第1話 私のセカイは、画面の中だけ
「いらっしゃいませー」
深夜二時。コンビニの自動ドアが開くたび、気の抜けた声が喉から絞り出される。もう何回繰り返したか分からない。足はコンクリートみたいに固まって、瞼は鉛みたいに重い。
(うぅ、眠い……。あと三時間……いや、まだ三時間もあるのか……)
レジカウンターに寄りかかりながら、心の中で呻く。私、小鳥遊紬(たかなしつむぎ)。どこにでもいる、ごく普通の女子大生。……ただし、貧乏で、寝不足で、常に疲労困憊というオプション付きの。
「ピッ、ピッ。合計で、872円になりまーす」
「Tポイントカードはお持ちですかー」
「袋はご利用になりますかー」
機械的に言葉を紡ぎながら、内心では白目を剥いていた。学費と生活費のため、深夜のコンビニと、昼間のファミレスのバイトを掛け持ちする毎日。友達がサークルや飲み会で青春を謳歌している間、私はずっと働いている。
(これが現実……。でも、頑張らないと)
カシャン、と小銭がトレーに投げられ、私はそれを素早くレジに打ち込む。お釣りを渡すと、酔っ払ったサラリーマンは千鳥足で去っていった。ふぅ、と小さなため息が漏れる。
この地獄のような毎日で、私に唯一残された光。それが――。
バイトが終わり、始発の電車に揺られてボロアパートに帰り着く。シャワーを浴びる気力もなく、ベッドに倒れ込むと、私は震える手でお守りを取り出した。ううん、お守りじゃなくてスマートフォン。
慣れた手つきで動画アプリを開き、お気に入りリストの最上段にあるサムネイルをタップする。
『【奇跡の歌声】Sky-Blue ライブ切り抜き』
画面が明るくなり、イヤホンからイントロが流れ出した瞬間、さっきまでの疲労が嘘みたいに霧散していく。
『――行くぜっ!』
画面の中。小さなライブハウスのステージで、青いペンライトの海に照らされながら、彼が叫ぶ。
私の“推し”、アオイさん。
売れない地下アイドルグループ『Sky-Blue』のセンター。キラキラした王子様みたいなルックスなのに、どこか不器用で、でも誰よりもひたむきに歌って、踊る人。
「……かっこいい」
思わず声が漏れる。
汗で張り付いた前髪。苦しそうに、でも楽しそうに歪められる表情。少しだけ掠れた、魂を削るような歌声。そのすべてが、私のすり減った心を潤していく。
大学の講義は、正直言って半分以上意識が飛んでいた。教授が何を言っているのか、右の耳から左の耳へと素通りしていく。ノートを取る指も、だんだんミミズが這ったような文字になっていく。
(やばい、落単したら学費が……。でも、もう限界……)
必死にカフェインで意識を繋ぎ止め、なんとか一日を乗り切る。へとへとになってアパートのドアを開けた私の夕食は、スーパーの見切り品コーナーで手に入れた30円引きのパン。それをミネラルウォーターで胃に流し込む。
贅沢なんてできない。服もずっと同じものを着回してるし、コスメなんてドラッグストアの安いやつだけ。私のお金と時間は、すべて生きるためと、ほんの少しの『推し活』のためにある。
壁に貼った、雑誌の切り抜きのアオイさんと目が合う。彼は満面の笑みで、こちらに手を振っていた。
「アオイさんが頑張ってるんだから、私も頑張らないと……」
自分に言い聞かせ、再びスマホを手に取る。充電は残り15%。でも、これだけは見ないと一日が終わらない。
イヤホンを耳に差し込む。
再生ボタンを押す。
その瞬間、私の六畳一間の薄暗い部屋は、光り輝くライブ会場に変わる。ここだけが私のセカイ。誰にも邪魔されない、私とアオイさんだけの空間。
彼の歌声が、疲れた身体に染み渡る。
「今日も、お疲れ様」って、言ってくれているみたいで。
(ああ、やっぱりアオイさんは最高だ……。このために生きてる……)
ぼんやりと画面を眺めていると、不意にスマホがぶるりと震えた。画面の上部に、メッセージアプリの通知が表示される。
送り主は、大学の同じテニスサークルに所属している、真理亜(まりあ)からだった。
『紬ー! 明日の講義の後、サークルの皆で駅前の新しいカフェ行くんだけど、一緒に行かない?』
その一文を読んだ瞬間、さっきまでアオイさんからもらっていた温かいエネルギーが、急速に冷えていくのを感じた。
キラキラした友人たち。ハイブランドのバッグ。流行りのスイーツ。恋バナ。
そのどれもが、今の私には眩しすぎて、息が詰まる。
どうしよう。バイトがあるからって断ろうか。でも、最近ずっと断ってばっかりだし……。
返信できないまま、ただスマホの画面を見つめる。画面の中では、アオイさんが最高の笑顔で歌い続けていた。
その笑顔とは対照的に、私の心には、どんよりとした重い雲が垂れ込めていく。私のセカイに、少しずつ亀裂が入っていくような、嫌な予感がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます