地雷系なあの子を家につれこんだら甘々すぎて爆発しました

おりの

Ch.1 出会い。あるいは、起爆。

ep.1 地雷原の街

 東京・新宿の夜は、こわい。


「ねー。今すれちがったオッサン、めっちゃテカってなかった? キモくない?」

「わかるー。キモかったー」

「でしょー。てか聞いてよ。こないだアタシ声かけられてさー。そいつがー」

「えー。キモー」


 すぐ前を歩く女の子ふたりの会話だ。

 あんまりな内容なのに、周りのひとの耳に入ることを厭わない、大きな声である。


 もっとも周囲の目をはばかる必要なんて、の少女たちにはないのだろう。


「えっなにこれカワイー! ヤバ!」

「でしょー! ガチャガチャでさー」


 ふわっと揺れるツインテールに、ふりふりのブラウス、ミニスカート。

 ちらと素肌をのぞかせるレースソックスに、足先までこだわった厚底のローファー。

 そして、身につけた小さなバッグにいたるまで、パフェのように全身をかざり付けた、たくさんのリボン、フリル、アクセサリー。


 完成された様式美。カワイイの権化。


 ……いわゆる、地雷系と呼ばれるやつだ。



「てかさー、次の◯◯くんのライブ! どうする? 全枠とる?」

「それなー。でも金なさすぎて死ぬー」

「えー。またあのパパ使えばいいじゃん」

「それなー。でもなー」


(……見てるぶんには、いいんだけどなぁ)


 すぐ後ろ、残業帰りの疲れたサラリーマン、種木たねぎは困ったように頭をかいた。


 打刻直後に上司からの呼び出し。悲しみのサービス残業から脱け出したあと、せっかくだから美味いもんでも食べよう、なんて新宿に寄ってみたのが間違いだった。


 目当ての店はなんと臨時休業。そのまま夕飯を食いっぱぐれ、慣れない街を歩くうちに夜も遅くなってしまった。終電も近い。とっとと駅に戻りたいところなのだが。


「えっマジ? 顔つよつよじゃん」

「でしょー。推したくなっちゃう」


 バッグにぶら下がった沢山のキャラクターグッズを揺らしつつ、前をいく少女たちはのろまな足取りで、行く手をさえぎるように、狭い歩道をふさいでしまっている。


 強引にでも追い越してしまおうと、種木が心を決めたときだった。



 ──ぽとん。



 落ちた。


 地雷系女子のバッグについていたキャラクターマスコットがひとつ、地面に落ちた。

 だが、少女たちは気づく様子もなく、おしゃべりをしながら先に行ってしまう。


「やっぱイケメンじゃないとムリだよねー」

「それなー」

「でしょー。タイプなブサイクより、ぜったいタイプじゃないイケメンのほうがいいし」

「ほんとそれー」


 会話の内容にうろたえる。しかし。


(……人は、見かけによらないはずだ)


 種木は、置き去りにされたキャラクターマスコットを拾い──勇気をふりしぼった。


「あの! コレ、落としましたけど」


 ふたりの地雷女子がふりかえる。

 そして。



 「………………」

 「………………」



 目が合ったのは、ほんの一秒くらいだったろう。

 地雷系な少女たちは、種木の手から可愛らしいキャラグッズをふんだくり──


 そのまま、行ってしまった。



「ヤバ! 今のメガネ、めっちゃウチらのこと見てこなかった? こわいんだけど!」

「それな! めっちゃ見てきた!」

「てか声かけるならイケメンにしろよなー」

「ほんとそれ!」


 「「キャハハハハハハ」」



 新宿の夜は……つらい。


 帰ろう。ぼう然として路上に立っていた種木が、そろりと動き出そうとしたときだ。



 「ダッサ」



 その声は、横からした。

 いや、正しくは、斜め下からだった。


 地べたにすわった、派手な赤い髪の少女。


「マジでダサすぎでしょ。ウケるんだけど」


 容赦のない追い討ち。

 傷心していた種木もさすがにイラつき、つま先を向けて、地べたの少女に目を向ける。


 ひと目見て、美少女だと思った。


 ぱちっとした大きな瞳に、目が吸い込まれそうな白い肌。黒いマスクに半分かくれた、あざとく決まった病みかわメイク。

 おなじ黒をベースにした服はやはりフリフリ。ミニスカのしたは大胆にのぞく素肌。

 そして、赤のインナーカラーがはえる髪の毛の結いかたも、やっぱり──カワイイの王道、ツインテール。


 つまり。


(……こいつも、同類か)


 とつぜんケンカを売ってきた地雷系女子は、スカートの中が見えそうで見えない、こっちを挑発するような角度ですわっていて。


「や。だってさー、マジでありえなくない?」


 つづけて、言った。



、おにーさんにありがとうも言わずに行っちゃったんだよ。ダサすぎでしょ。なんか言い返してやりゃーよかったのに」



 種木は、まばたきした。


(なんだ。俺のことじゃなかったのか)

(やっぱり、人は見かけによらない……)


 胸にささっていたトゲが、ようやく、すっと抜けてくれた気がして……



「ちょっとー、聞こえてるー? 

 冴えないメガネのおにーさーん」


「前言撤回! やっぱり見かけどおりに失礼なやつだ!! コイツっ!!」

 


 ……この時、冴えないアラサーメガネ、種木孝太郎はまだ知らない。


 ある秋の夜、新宿のまちで出会った地雷系な美少女──その名も、赤坂あかさか秋乃 あきの


 彼女によって、種木のたいせつな◯◯が、こっぱみじんに爆発してしまうことを──







 

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