インターミッション2 『ロミアンのシャイア訪問記』

第1話 冒険者ギルド

 幼馴染のナプラを文字通り引きずりつつ、ロミアンは冒険者ギルドの扉を叩いた。

 大きな扉は内側からスッと開かれ、ウッドゴーレムがお辞儀しながら中に入るよううながす。


 ホールに入ったロミアンに、視線が注がれた。たむろしている冒険者たちからのものだ。

 シャイアの街の住人はほとんどが汎人族ヒュム。ついで兎人族ベビット角鬼族ウルクが多いが森精族エルフはほとんど見ない。

 ギルドまでくる道行でも、ロミアンを見て好奇の視線を向ける人が多かった。その後、ナプラを見て何故か視線が緩むのだが。

 冒険者たちも同じで、ロミアンに一瞬視線は集まったが、引きずったナプラを見てすぐ解散する。


 森の中では受けない対応に居心地悪さを感じるロミアンだったが、唯一残った視線に気づいた。


「おはようございます、モルクさん!」


 挨拶をしながらナプラを引きずって奥のカウンターに向かうロミアン。


「元気がいいな、ロミアン君は」


「……うるさいだけ」


 耳をふさぐナプラに、ロミアンは言い返す。


「挨拶は大事だぞ」


「その通りだが、街ではもう少し近づいてから挨拶した方がいい」


 そう言いながら、モルクはカウンターの向こうで身体を起こした。長椅子に寝そべったままだったのだ。


「身体の方は大丈夫ですか?」


「ああ。ロンド様の治療のおかげで、本当は普通に仕事できるぐらいだよ。ただ、支部長が妙に心配してね」


 先日の藍の目のゴーストとの戦いで、モルクは腹部を曲刀で貫かれ、治癒禁止の呪いを受けとボロボロになっていた。

 治療を受けたとはいえ、数日で職務に復帰しているのはおかしくないかとロミアンは思う。

 森精族エルフなら半月は休む。ナプラなら、2か月ぐらいか。


「しかし、ナプラの扱いはさすがだね」


「50年はやってますから」


 ナプラとロミアンは元々同郷の幼なじみだ。たった50年かと思われるかもしれないが、二人ともやっと100歳を超えたばかりの若者だから十分長いと言えるだろう。


「それで、何の用だい?」


「それはもう、イサト・マカン、でしたっけ? それの捜索です。それが我々の任務でしょう!」


 ロミアンとしては、ロンド大公直々の任務なのだから手を抜くなどということは考えられない。しかし、ナプラはそうした意識が全くなく、ロミアンの足に背を預けて座り込む。


「……私たちが動くのは危険。宿でダラダラしてるのが正解」


「そういうわけにいくか!」


「ダラダラはともかく、状況として森精族エルフだけで動くとイサトが森精の災厄エルブズベインを出してきた時に危険な事は分かるね?」


「それはそうなのですが……」


 モルクの言うことは正しい。しかし、その理屈だと実際に森精の災厄エルブズベインを探すのは他の人に任せて、任務完了まで宿の中に閉じ込められることになってしまう。

 しょげるロミアンを慰めるように、モルクは微笑む。


「分かるね、と言いながら俺の方があんまり分かってないんだけどな。森精の災厄エルブズベインがヤバいから奪還しなきゃいけないことと森精族エルフが触っちゃいけないことまでは知ってるんだが、具体的に森精族エルフ森精の災厄エルブズベインの種に触れるとどうなるんだ?」


「私も直接見聞きした世代ではないんですが……」


 ロミアンは以前語り部から聞かされた内容を思い出そうと斜め上に視線を向ける。すると、足元から助け船が出た。


森精の災厄エルブズベインは、魔王が吸血鬼ヴァンパイアと寄生植物を融合させて作った植物兵器」


 すらすらと、何かを読み上げるかの如く説明したのはナプラだった。興味なさげに見えて、話はちゃんと聞いているらしい。


「ナプラ、知ってるなら最初から話してほしいんだが……」


「ナプラは、記憶力がすごいんですよ。本とかで読んだことは忘れないんです。まだ50歳だったころに語り部の長が欲しがったぐらいで。でも……」


「めどい」


 この性格が、全てである。


「後でムアンの実をやるから」


 好物で懐柔しようとしたロミアンだが、ナプラは首を横に振る。


「森の外に生のムアンはない」


「そうなのか?」


「産地に行けば生でも食えるが、もっと南の方だな。干したのならこの辺にも出回ってるよ」


「干したのは、歯にくっつくから嫌い」


 汎人族ヒュムもムアンの実は栽培していると聞いた覚えがあったから頼ったのだが、失敗したらしい。

 頭を抱えるロミアンに、モルクが助言。


「今のナプラのお気に入りは、トゥックロビンだそうだ」


「トゥックロビン?」


「ベリー&ナッツとショコラのダブルで手を打つ」


「よくわからんが、そのトゥックロビンのベリーなんたらをやるから」


 知らない固有名詞ばかりだが、安請け合い。

 ナプラはそれならばと宙に浮かぶ透明な本を読むかのように話し始める。


森精の災厄エルブズベインは黒ずんだクルミのような種の状態で休眠。森精族エルフやその血縁者が触れると発芽し、短時間で触れた者を食い尽くして成体になる。成体の状態では他の植物を食らってさらに肥大出来るようになるほか、別の森精族エルフを見つけたら種を飛ばして増えることもできる」


森精族エルフと森を食い尽くし、置き換わるわけか。どうすれば倒せる?」


「物理攻撃でも、魔術でもいい。特に火が効果的。でも成体は森精族エルフの熟達した武技士ファイターでも苦労するほど強いし、倒したつもりでもこぼれた種から時間差で発芽する危険が残る。灰の森の時も、最初の森精の災厄エルブズベインを剣で倒して終息したと思われていた。しかし、回収しそこねた種に触れた者がいたため再発。根絶のために森そのものを焼く決断となった」


「なるほど。そりゃあれだけ警戒するわけだ」


 ロミアンとしても知識はあったが、改めて聞かされると恐ろしい。ナプラとロミアンだけでいる時に種を投げつけられたら、2体の成体の森精の災厄エルブズベインが街中で暴れる羽目になりかねない。

 モルクは改めてロミアンの方に向き直る。


森精族エルフだけだと、危険というのは間違いなさそうだな。でもずっと宿にこもっていたくない気持ちも分かる。ロイド様への報告もしにくいだろうしな」


「そう、そうなんですよ!」


「だから、直接イサトを見つけようと探すんじゃなく、イサトの情報を聞いてきてもらえないだろうか。俺も直接会ったことはあるけど断片的な情報しかなくてね。イサトを知っている人物に会って、話を聞いてきてくれると助かる。イサトがどういう人物かが分かれば、次に何をしてくるかも予想できるかもしれない」


「なるほど!」


「……めどい。私は宿で寝てる」


 のっそりと立ち上がるナプラに向けて、モルクがつぶやく。


「行かないと、トゥックロビンが食えないぞ」


「やむなし。よし行こう、ロミアン」


 急にシャキッと立ち上がり、入ってきた時とは逆にロミアンを引きずろうとするナプラ。

 ロミアンとしてもこんなナプラは初めて見るが、やる気に水を差したりはしない。

 去っていく二人に、モルクが後ろから言葉をかける。


「まずはイザベルに会いに行くといいだろう。女神の教会にいるはずだ」



★。*†*。☆。*†*。★。*†*。☆。*†*。★。*†*。☆。*†*。★。*†*。☆


「あけましておめでとうございます、クロエです!」


「面倒くさがりなナプラちゃんも、美味しいスイーツは好きなんですよね。私も時々使ってました。まあ、トゥックロビンは冒険に持っていけないので、クッキーとかですけど」


「さて、イザベルさんに会いに行くことになったロミアン&ナプラ。イザベルさんは元々イサトと同じパーティーでしたからね。そのパーティー、フェロウリングは壊滅しちゃいましたけど……」


「インターミッション2 第2話『女神の教会』 読んでくださいね!」

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