第12話 火葬の導き

 エミールを狙った青い光線は、間に入ったモルクに当たり、吸い込まれるように消える。


「〈呪詛カース〉だな……」


 かすれた声で呟きつつ、エミールの上に倒れ込むモルク。これは呪いのせいではない。単純に、怪我で血を流しすぎて力が入らないだけだ。


「ナプラちゃん!」


「〈解呪リムーブ・カース〉?」


「ちゃう! まずは〈治癒ヒール〉や!」


 ロミアンがモルクを引き起こしてくれた。まだ腹に曲刀が刺さったままなので、横向きに置かれる。

 リエルの指示で、2人揃っての〈治癒ヒール〉。まずは腹から治すのか、傷口の近くに触れ──


「がああぁぁっ!」


 激痛!

 気絶仕掛けていた意識が、いきなり現実に引き戻される。傷が癒えたような感じは全くない。


『ギャハハハハ! ざまぁみろだ!』


 上空の藍色の巨大な目が奇妙に反響する笑い声をあげる。


「口がないのにおしゃべりだな」


『俺の〈呪詛カース〉で、〈治癒ヒール〉を痛みとして受け取る身体にしてやった! そのまま死ねっ!」


 藍色の目──透けているからゴーストだろう──はゾンビに取り憑いていた時とは打って変わって饒舌に勝ち誇る。


「お前、アホだろ」


『なにぃ!』


 藍の目のゴーストが乗ってきたので、リエルに目配せをしつつ話を続けるモルク。


「怪我してないエミールに〈治癒ヒール〉阻害の呪いをかけても、効果発揮する前に〈解呪リムーブ・カース〉されるだけだろ」


『俺の開発した最強最悪の呪いだぞ! 貴様は実際死にかけてるだろうが!』


「それは、俺が動いちまったからで、お前の手柄じゃねぇよ」


 痛みをこらえつつ、小馬鹿にする笑みまで作って見せる。

 藍の目の呪いが実際に冒険の最中にかけられると厄介なのは事実だ。だが、戦闘中に無傷の攻術士メイジに使っても戦況を変えられない。


「せっかくの最強最悪の呪いも、使うヤツの脳みそが悪いとな。ああゴーストだから無いか、脳みそ」


『うるさいッ! 〈造傷ウーンズ〉でトドメを刺してやる!』


 逆上した藍の目の周りに青い光弾が2,3浮かぶ。〈治癒ヒール〉を逆転させた、屍術ネクロマンシーの基本攻撃魔術だ。


 モルク目指して飛ぶ光弾の前に、レクシアが立ちふさがる。

 光弾が当たったところで角鬼族の硬い肌がはじけ、血がしたたる。


「痛ぅ……でも耐えられないレベルじゃねぇな!」


「助かる」


 モルクの言葉に、レクシアは大剣をしまって親指を立てて答える。届かないし、届いても幽霊を切れるわけではない。だから、彼女は珍しく守る方に専念する。

 攻撃するのは術士の役目だ。ナプラとリエルの〈還魂ターン・アンデッド〉が飛んだ。


『ぐあぁァッ!』


 一抱えはあった巨大な眼球は、青い光にさいなまれて両手で抱えきれるぐらいまで小さくなる。

 しかし、消え去るには至らない。


『くっそ、でももう当たらねぇッ!』


 小さくなった代わりに速度が上がったと言いたいのか、高速でジグザグに飛び回りながら〈造傷ウーンズ〉の光弾を乱射する。

 ゴーストに通じる武器を持たないレクシアとロミアンが光弾を身体で受け止め、ナプラとリエルが〈還魂ターン・アンデッド〉で攻撃する。

 しかし、確かに藍の目の動きは早まっていて、〈還魂ターン・アンデッド〉が当たらない。


 そんな中、術士の一人は呪文を唱えもせずにうなだれていた。

 

「モルク……モルクさん、ごめん。おれはまた……」


「何謝ってんだよ」


 気に病んで反省するのも悪いことじゃない。だが、今することでもない。

 だから、モルクは空を舞う敵を示す。


「あいつ、飛んでるんだぞ。


「そうか、そうだな!」


 エミールは〈炎の矢ファイア・アロー〉を打つ。かすりこそしたが、藍の目を倒すには至らない。


 その時間で、モルクは〈修理リペア〉の術を自分に使う。本来は壊れた物であるとか、ゴーレムの修理だとかに使う魔術。しかし、生物に使ってもわずかながら回復の効果がある。

 呪いを覚悟していたが、緑の光が染み渡るとモルクの痛みはわずかにマシになった。


「やってみるもんだな。実戦で役に立ったのは初めてだ」


 呪いは〈治癒ヒール〉を痛みに変えはしても、〈修理リペア〉までは考慮していなかったらしい。

 体力に余裕ができたモルクはエミールに問う。


「エミール、炎系はどこまで使える?」


「最上位まで全部だ」


 〈炎の矢ファイア・アロー〉の合間にこたえるエミール。


「よし、二人の〈還魂ターン・アンデッド〉の2拍後に合わせろ」


「そんなの!」


 エミールは反論しようとするが、リエルは理解を示す。ナプラの腕を取り、タイミングを合わせて〈還魂ターン・アンデッド〉の詠唱を始める。


「やるんだよ」


「……っ」


 エミールは頭を振ると、小さなナイフを取り出して自らの長い髪を一筋切る。


還魂ターン・アンデッド〉の光線が2本同時に飛ぶ。


『のろまどもめ、当たんねぇよ!』


「そうかな?」


 勝ち誇る藍の目に、モルクの指から放たれた緑の光弾が向かう。

 〈還魂ターン・アンデッド〉を避けた直後の藍の目では、それをかわし切れなかった。

 しかし……


『はっ、痛くねぇぜ!』


 そう、痛くないはずだ。攻撃用の魔術ではないのだから。

 しかし、藍の目にほんの1点緑色の染みがつく。

 そこで、エミールの呪文が完成した。


「見届けよ、我と汝の葬送を。〈火葬クリミネイション〉!!」


 エミールの握った髪が燃え上がり、そこから飛んだ小さな火花がすっと藍の目に近づいていく。


『遅い遅いっ!』


 ぐるぐると飛び回り、その軌跡から逃れる藍の目。


 しかし、火花はパチパチと燃えながら的確に藍の目を――その目についた緑の印を追って飛び続ける。


『なっ、なんでだよッ! なんで追ってくるんだ!!』


 藍の目はぐちゃぐちゃな軌道で飛び回るが、火花は着実に迫っていく。

 〈導きのターゲット〉。モルクが使った汎術ウィザード・スキルの効果は、「次の魔術が必ず当たるようにすること」だ。

 

 悪あがきもむなしく、ついに火花が緑の印に到達する。

 その瞬間、大きな炎が藍の目を包んだ。

 燃え上がり、炎が消えた後には灰すら残らない。


「よし……もういないだろうな」


 周囲を軽く確認し、モルクは今度こそ意識を手放した。


 


★。*†*。☆。*†*。★。*†*。☆。*†*。★。*†*。☆。*†*。★。*†*。☆


「あけましておめでとうございます、クロエです!」


「モルクさん、お疲れさまでした。エミールも、最後に見せ場があってよかったね」

「いやしかし、しぶとかったですね。藍の目のゴースト。なんだか付きまとわれていた私も、これで一安心です」

「次話 第2章第13話『断れない依頼』です。 モルクさん、大丈夫かな……?」

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