第6話 望まぬ再会

速度スピード強化バフ〉の効果もあり、あっという間にイザベルの側まで到達するレクシア。

 大剣を盾に落ちてくる矢を弾き、イザベルをまたいで茂みとの間に立つ。


 モルクはその少し手前、レクシアも後衛もフォローできる位置で一旦止まる。

 茂みに注意しつつも、イザベルを観察。怪我をしてから時間は経っているらしく、出血は止まっている。しかし、青白い皮膚には血の色をした見慣れない紋様が浮かんでいた。


「〈呪詛カース〉だ! 厄介だな」


「〈呪詛カース〉なら、癒術士ヒーラーの出番だろ、ナプラ」


「すぐには無理」


 モルクの後ろまで来たエミールにナプラが首を振る。


「じゃあ、せめて〈治癒ヒール〉を」

「待て!」


 〈治癒ヒール〉より先に〈還魂ターン・アンデッド〉だ、とモルクが言おうとしたところで、枯れ草をかき分けて出てくる人影。


「アレックス!」


 レクシアは、自分の正面に出てきた者の名を呼ぶ。

 右手に剣を、左手にナイフを構えた彼は、レクシアの呼びかけには答えない。

 答えられない。


「アレック……ス?」


 喉が大きく切り裂かれ、ありえない角度で曲がった首がぶらぶらと揺れている。

 これで生きているわけがない。

 だが、動いている。

 右手の剣で、レクシアを切りつける。


「レクシア、守れ!」


 モルクの𠮟咤で、なんとかレクシアは大剣を持ち上げた。


「ゾンビだ! 〈還魂ターン・アンデッド〉を!」


 現れたのは、アレックスだったゾンビだけではない。もう一人、盾と斧を構えた山精族ドワーフ、たしか名前はドレモアだったか。彼もフェロウリングのメンバーだ。今はもうドレモアだったゾンビだが。

 そして、ゴーレム。マカン村で見たのと同型の人型と、猟犬のような四つ足型。


不死者アンデッドだけじゃなかったのか?」


「分からん、が気配はそうだ」


 モルクの〈不死者感知センス・アンデッド〉は、これらのゴーレムからも弱い不死者アンデッドの気配を感じ取っていた。命の無いゴーレムが、ゾンビになったりするわけもないのだが。


「レクシア、ゴーレムを潰せ! ゾンビはナプラに任せろ」


「むぅ」


 モルクの指示にナプラは不満げな音を立てる、がすぐに〈還魂ターン・アンデッド〉の詠唱を開始した。


「そう言われてもよぉ」


 言い訳するレクシア。

 無理もない。アレックス・ゾンビは生前に劣らぬ剣さばきで連続的にレクシアを攻め立てる。二刀流の得意とする、とにかく手数を増やすやり方だ。

 レクシアは大剣を盾にしのいでいるが、攻撃に回るスキがつかめない。

 キンキンと金属の打ち合う音が響く。


 そこに無粋にも横入りするゴーレムたち。胸甲の上からとはいえ剣で腹を叩かれたレクシアがうめく。


 モルクも、ドレモア・ゾンビと猟犬ゴーレムを足止めするだけで手がいっぱいだ。特に、ドレモア・ゾンビはできるだけ〈還魂ターン・アンデッド〉したい。

 猟犬ゴーレムの噛みつきをかわして頭に剣を叩きこもうとしたが、寸前で振る向きを変える。

 オレンジの光をまとった刃が、ナプラを狙う矢を叩き落とした。

 まだ枯れた草むらに隠れたままの弓使いがいるらしい。

 矢じりには、どこかで見たような粘液が塗られている。


 ナプラの〈還魂ターン・アンデッド〉にはまだ時間がかかる。

 それを知ってか、エミールが詠唱を開始する。


「イフリートの爪、冥府のかがり火……」


「馬鹿ッ!」


 エミールの意図を、その判断ミスを悟るモルク。

 しかし、止めるのは間に合わない。


「〈炎の槍ファイア・ジャベリン〉!」


 〈炎の矢ファイア・アロー〉より圧倒的に大きな炎。エミール本人と同じぐらい大きな炎が、自らよじれて細い棒を形作る。槍の形になった熱量は、レクシアの肩越しにアレックス・ゾンビをうがった。


 解放された炎はすぐにアレックス・ゾンビの全身に回った。

 かろうじて残っていた組織が焼けこげ千切れ、アレックスの頭が地に落ちる。


「アレックス……」


 レクシアが弱々しく名を呼ぶと、アレックス・ゾンビは動きを止め、そのままゆっくり後ろに倒れていった。



 アレックス・ゾンビを燃やしていた炎は、そのまま周囲の枯れ草に燃え移る。

 乾いた枯れ草に、炎があっという間に燃え広がる。


「あ……」


 ようやく、エミールはモルクに罵られた理由を理解したらしい。


「呆けてないで、火を消せ!」


 炎が少しでも広がる前に消火しないと、周囲全部が火の海になりかねない。

 モルク自身も、慌てて〈水噴射ウォータースプラッシュ〉を唱える。本来は細く絞った水流をぶつける魔術だが、あえて絞りを甘くして広範囲に撒き散らす。

 もうもうと煙が上がり、火の勢いが衰える。黒煙の向こうに逃げていく小さな人影が見えた。


 一方でドレモア・ゾンビと猟犬ゴーレムはこの隙にとモルクに襲いかかる。

 1体目の猟犬ゴーレムの牙は避けたが、2体目が足首に喰らいつく。

 動きが止まったモルクに、ドレモア・ゾンビの斧が迫る。

 その瞬間。


「屍を操る悪霊よ、去れ。〈還魂ターン・アンデッド〉」


 ナプラの詠唱が完了し、青く澄んだ光がドレモア・ゾンビを包みこんだ。力を失った斧が、ただの死体に戻った手から滑り落ちる。


「助かった!」


 モルクはまだ自分に噛み付いている猟犬ゴーレムの頭を剣で砕く。

 続いてもう一体、と思ったら残りの猟犬ゴーレムは何故か動きを止めて地面に座り込んでいた。


 レクシアの方を見ると、最後の人型ゴーレムをぶった斬ったところ。なんとか当面の敵は倒せたらしい。


 モルクは一息つきたかったが、流石に一言言わないといけない。


「エミール、ちょっと」


 エミールがバツの悪そうな顔でモルクをみた瞬間、2人の間を一本の矢が走った。


★。*†*。☆。*†*。★。*†*。☆。*†*。★。*†*。☆。*†*。★。*†*。☆

「こんにちは、クロエです!」


不死者アンデッドかと思ったらゴーレムもいて、一緒に襲いかかってくるというのはなんか不思議ですね。まあゾンビからすると、ゴールドは食べても美味しくないかもですけど……」


「そして、やっと倒せたと思ったら、いきなり矢を射かけられちゃいましたよ!?」


「次話 第2章第7話『森精族エルフの怒り』です。 ……まあ、そりゃ怒りますよね」

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