第3話 クロエ来訪
昼ご飯の時間より少し早く。依頼を一通りさばき終わったモルクは、
人のいなくなったホールを眺めていると、そっとドアを開けて顔をのぞかせる丸眼鏡の少女が。
「おやクロエちゃん、いらっしゃい」
「モルクさん。まだ居たんですね。良かったぁ」
クロエは小走りでカウンターまでやってくる。笑顔だけれど、ちょっと心配そうな顔。
「レクシアたちが、昨日の今日で依頼を受けたって聞いて」
「俺のことを心配してくれた、と?」
冗談めかして問うたモルクだったが、クロエは真剣に首を縦に振る。
「はい。しかも、裏依頼でしょ? 状況をちょっと調べてきました」
「それはありがたい」
ジョークが通じなかったのは残念だが、調査をしてくれたのは助かる。そんなクロエをねぎらうために、黒茶を一杯。
「で、依頼した行商人を見つけて聞いてみたんですけど、ゴブリンとオーガが一緒に行動してたらしいって。北の魔王の影響ですかね?」
「どうだろうな。 魔王はまだウワサの段階だし」
北方の辺境で複数種類のモンスターが集団になって村を襲ってる、というのは確認された事実。別の支部の話だけど、冒険者ギルド内では重要情報として共有されている。
モンスターはたいてい同じ種で集団を作るもの。でも、
「このシャイアの街とウワサされてる辺りとは結構離れてるからなぁ。それに、はぐれオーガがゴブリン部族の用心棒に収まるぐらいなら、珍しくもない」
ゴブリンもオーガも、人間と同じようにそこそこ頭は良いし、社会を形成している。だから、用心棒契約のようなことも成り立つわけだ。
モルクの説明を聞いても、クロエさんはまだ不安げな顔を崩さない。
「そうだと良いんですけど……」
「仮に魔王の配下だとしても、オーガぐらいなら、レクシアだけでも楽勝だろう。昨日決闘した身として断言できるね」
負けさせたモルクが言うと説得力に欠けるが、レクシアは決して弱くはない。援護無しの1対1でも、ただのオーガには負けないだろう。
そしてゴブリンは最下級のアイアンランクでも戦える相手だ。よほど数が多くない限り、フロマス
「それより、マカン村だってのが問題なんだよなぁ」
「マカン村だと、何が問題なんですか? 私は行ったことが無いんで良く分からないですけど」
黒茶のマグを吹いて冷ますクロエに、モルクは壁に張った地図を指して見せる。
「あの村、このデイル王国とミュール帝国の間にあるだろ? それをいいことに、どっちにも税を払ってないらしいんだよ」
「そんなこと、できるんですか?」
「どっちの使者が来ても、『向こうの国に属してるから』で言い逃れてるらしい。魔王戦役以降、デイル王国とミュール帝国は仲がいいから侵攻しようとも思わないし」
あとは、単純に規模が小さいのも味方しているだろう。どちらの国にとっても「問題を起こしてまで取る価値は無い」と思われて放置されているともいえる
「税金払わないのはメリットでしょうけど……」
「その代わり、何かあった時、どっちの領主も助けはしない。飢饉とかモンスターとかね」
ちゃんとした領主の下についていれば、飢饉のときには他所から食料を運んでくれる。モンスターが出れば討伐兵を出すか領主から冒険者ギルドに依頼をするかなど、それなりの対応をしてくれるものだ。
そうした緊急時の備えと考えれば、どちらかの国に属して税金を払っておくことも無駄ではないのだが。
「怖くないんですかね」
「それより目先の金の方が大事なんだと思うよ。何年か前、マカン村の村長がこのギルドに依頼に来た事があってね」
割とイヤな記憶になるので、モルクは黒茶を一口。
薄めに入れたので苦みは弱め。溶かした砂糖の甘みを味わってから話を再開。
「依頼の内容は覚えてないけど、依頼書作り終わって後はサインだけってところで仲介料を値切られたのは覚えてる。『減額しなきゃ、テアンの街のギルドで依頼するぞ』って」
「それで、どうしたんです?」
「『どうぞそうして下さい。この書きかけの依頼書はオマケで差し上げますね。向こうで書く手間が省けますから』って言ったら、罵詈雑言を吐いて帰っていきましたとさ」
しみじみとうなずくクロエ。しかし、話はまだ終わりじゃないのだ、残念なことに。
「で、追っ払った後にテアンのギルドに連絡したら、向こうでもおんなじ事を前にやらかして出入禁止にしてるって」
「うわぁ……」
可愛い顔が面白いぐらい歪む。完全に呆れたリアクションだ。テアンからの返信を見たとき、モルクと支部長も同じ顔をした。
「そういうかなりのケ……経済観念が発達しすぎた人なんだよ。だから、今回ギルド通さずに依頼しようとしてきたのは、依頼料を後から値切る気なんじゃないかなと」
「そんな事されたら、たぶんレクシアが怒ってケンカになっちゃいますね」
「そうしたら、俺はレクシアを止めなきゃな。でも、途中でうっかり手が滑ってレクシアを離しちゃう気がする」
「うっかり、じゃないでしょ、それ」
黒茶を飲み込み、クスクス笑うクロエ。
今度はちゃんとウケたので、モルクも笑みを浮かべる。
「本当にはやらないけどね。でも、フロマス勇士団も誰かを交渉役で育てないとな」
「エミールがいいと思いますよ。なんだかんだで真面目だし」
モルクもそう考えてはいた。というより、レクシアとナプラが向いていなさすぎる。
だが、そうしていくと結局あらゆる雑用でエミールが第一候補になってしまう。
「だと思うけど、役割が1人に集中しすぎるとな。あ、役割といえば、彼らが朝に誘いに来た時には食料買ってなかったんだけど、その辺もクロエちゃんが全部やってた?」
「そうです。すみません……。一応、朝にエミールがどこで買うのか聞きに来たから、ソイバさんのお店を教えときました」
「クロエちゃんが謝ることじゃないけど……店を聞くところからか」
初歩の初歩からということを知って、モルクはげんなりする。
食料準備は誰担当、交渉は誰担当、というぐあいにパーティー内で役割が固定化されるのは良くあることだ。その方が、段々上手くなっていくし。
でも、フロマス勇士団ではこれまであまりにもクロエに役割を偏らせてしまっていた。アイアンランクの頃からずっと。
「そういうところも鍛え直さないとな。わざわざギルド通さない依頼を選んで嫌がらせ、なんて考えてられないぐらい忙しくしてやろう」
今回の依頼をこなす中で、彼らに何ができないかを確認していこう、とモルクは心に決める。それを一つ残らず出来るようにしないと、クロエからの鍛え直してほしいという要望に応えたとは言えない。
でも、クロエさんはちょっと浮かない表情で何か言いたそうだ。
「どうした?」
「えっと……今回の依頼に関しては、確かに嫌がらせの面はあると思うけど、それが全部でもないと思います。私たちは、フロマスだから」
それがどういう意味か聞き返す前に、玄関の扉が叩かれた。
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「クロエです! 私の出番、楽しんでもらえましたか?」
「まあ、主にお話してるだけだから地味っちゃ地味ですね。非戦闘員の哀しさ……」
「なお、本文中で時々飲んでる
「次話、第1章第4話『マカンの村へ』 読んでくださいね!」
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