謹慎中 ねんね、こっち。(耐えるの、やめて?)


 くー、くー。


 静かな部屋に、規則正しい寝息が響く。

 午後二時。カーテンの隙間から差し込む気怠い光が、空気中の埃をきらきらと照らす。

 ベッドを占領して、タオルケットを体に巻きつけながら、きゅうと縮こまって無防備に寝ているのは――国民的JKで、学校の女王様で、現在謹慎中のレナさんだ。

 長身を折り畳み、両手を頬に添えて、静かに横になっている。

 まるで童話のお姫様のような寝顔。派手なネイルに、揺れるイアリング。外見は間違いなく最強ギャルなのに、今は迷い込んだ小動物みたいに背中を丸めている。


「……可愛すぎます」


 音を立てないように、ベッドの縁に近づいた。

 さっきまであんなに喋って、笑って、他愛ないことでじゃれ合っていたのに。ふとした瞬間、電池が切れたみたいに、レナさんはすぅと夢の中へ落ちていった。

 本当なら隣に寄り添いたい。

 同じタオルケットに包まって、一緒に午後のまどろみを共有できたら、どんなにいいか。

 けれど――ぼくの部屋のシングルベッドは、彼女ひとりを受け止めるので精一杯だ。

 彼女の長い手足が収まった、今の形がいい。ただでさえ脚を畳まないと収まらない。レナさんには、快く眠ってほしいから。

 だから、ぼくは床にいる。

 触れられない中で、いちばん近い場所。

 同じ目線で、彼女の寝顔を覗き込む。


「レナさん。わかっていますか?」


 起こさないように、小声で囁く。

 起こしたくない。触れたくない。なのに、ずっと見ていたい。

 守りたいって気持ちが、いちばん欲張りだ。

 そっと呼吸した時、ふわり、と鼻腔をくすぐる香りを感じた。

 甘いバニラの中に、少しだけ爽やかなシトラスが混じる。

 それが、ぼくの部屋特有の、紙とインクの匂いとも混ざり合って……何だか、ぼくの生活そのものが、彼女色に染め替えられていくみたいで。

 たまらなく、胸がギュッとなる。


「今、どんな夢見ているんですか……」


 返事の代わりか、レナさんは、頬のそばのお手々を、力なくぐーぱーさせた。


「……んぅ……」


 安心しきった吐息。指先だけが、迷子みたいに宙を探って、ぼくのほうへ寄る。まるで温もりを求めているみたいに。

 けれどその手は、マットレスの上にぽふっと垂れる。その拍子に、黒い糸がさらりと揺れた。

 レナさんの、腰まで流れる、濡れ羽色の長髪。

 今はただの絹糸になって、シーツや、枕の上に、美しく広がっている。午後の光を吸って、艶を散らす。その光景は、さっきまでぼくを散々からかった、ぷくくな女王様とは別人だ。

 魔法をかけられて、百年もの眠りについた、いばら姫みたい。

 ほんのり桜色の唇は、何かをおねだりするように、むにゃむにゃと少しだけ開いて、また閉じた。


「こんな顔、ぼくにしか見せないでくださいよ」


 誰に言うでもなく、本音がこぼれ落ちる。

 レナさんが初めてこの部屋に襲来してから、もう何日になるだろう。気づけばカレンダーに印をつけることをやめていた。

 あの衝撃的な朝から、彼女は当然のように、毎日ここへ帰ってくるようになった。

 これ以上の幸せなんて、ないはずなのに。それを当たり前みたいに受け入れている自分が、少しだけ怖い。

 ぼくはきっと、もう、彼女がいなくなる未来に耐えられないから。


 くー、くー。

 寝息のたびに、華奢な肩が上下する。

 遠くで車の走る音。カーテンが微かに揺れる。午後の光がレナさんの頬を撫でた。

 横向きの姿勢。タオルケットの下で、二つの巨大ボリュームすぎる果実が、重たげに傾れている。

 乳房の先が、タオルで覆えないほど張っている。ニットのロゴ模様がはみ出て、パンパンに引き伸ばされている。横になってもなお、重力と、二の腕に押し潰された形のほうが、彼女の顔よりも高く、分厚く、そびえ立つ。

 美しすぎるお姫様の、アンバランスな肉体。


「……ぅー」


 寝苦しかったのか。

 甘い唸り声を上げて、脚を折り畳んだまま、コロンと身を翻し、仰向けになった。

 ああ、レナさん。

 そんな目で見ちゃいけない、ってわかっているのに。


 ごろん。だぷん、とろぉり……。

 タオルケットの下で、形を変える。

 仰向けになったことで、暴力的な質量が、脇の方へとなだらかに流れ落ちる。二の腕に寄り添うように沈んで、下敷きにして、完全に埋め尽くして――。

 とろとろおっぱいは、それでも、流れきらない。

 決壊してもなお、圧倒的な膨らみは全く失われていない。面積が広がった分、むしろ存在感を増している。脇乳が接地してもなお、胸の中央が離れていない。

 ぽよぽよと、細い肩幅よりも広がった、どたぷんな丸みを淫らに保つ。タオルケット越しに、柔らかく波打ち続ける。


「……ぅぅー……」


 仰向けのほうが、かえって寝苦しそうなのは、重さのせいなのか。


(……だめだ、ほんとにだめだ)


 喉が、からからに乾く。

 行き場のない熱が腹の底に溜まって、息を吸うたびに広がっていく。

 ここでぼくが負けたら終わりだ。

 レナさんは、ぼくを信じて寝ている。

 触れない、って。手を出さない、って。

 その当然が、どれだけ尊いことか、分かっているはずなのに。

 あまりの巨大さと、見るだけでわかる重たさ。

 行き場を失った、柔い輪郭が、彼女の首元の方へてろんと溢れた。


「……ん……」


 顎の下に触れそうになって、レナさんが眉を寄せる。

 折り畳まれた脚の膝の輪郭が、乳房の下のほうに触れた。

 その拍子に、肉の波紋が広がり、いちばん柔らかいところが、ふっと口元に寄る。

 まずい。ダメだ。見てはいけないのに、目が離せない。


「……タカキぃ……」


 寂しげな寝言。そして。


「……どこ?」


 ぼくの鼓膜と、体の芯を、震わせる。

 夢の中でも、ぼくを探してくれているのだろうか。

 上乳が波のように押し寄せて、桜色の唇に触れんばかりに迫ったまま、レナさんが「んぅっ」と、身じろぎをした。

 無意識に持ち上がった膝が、たわわな下乳を、グイ、と押し上げた。


 ダメ押しとばかりに、肉の波がさらにせり上がり、ついに口元を埋め尽くす。


「……んぅ……はぷ……」


 自分の胸に窒息させられそうになって、レナさんが苦しげに呻いた。

 首を上げて、ぷはっと息継ぎ。


 一瞬、視界が真っ白になって、時間が止まった。


 レナさんは、両手を握って、気持ちよさそうに口をもぐもぐさせるばかりだ。

 華奢な背が浮いている。マットレスと背中の間に隙間がある。身体は浮くほど細い。ここだけは、溺れるほど重たく沈み込む。

 無防備で、凶暴。

 その矛盾に、ぼくの頭の中が焼ける。


「タカキの……えっち」


 寝言みたいに、笑うみたいに。なのに、言葉だけは妙に正確で。

 長い睫毛が――ほんの一度だけ、かすかに揺れた気がした。


「レナさん、起きて、る……?」

「ぎゅぅ、してぇ……っ」


 甘ったるい、砂糖菓子を溶かしたような声。

 寝ているのか、起きているのか。

 とろん、と半開きになった潤んだ瞳が、ぼくを捉えた気がした。

 カサリ、と衣擦れの音をさせて、両腕を、ぼくのほうに差し出す。


「……ねんね……こっち……♡」


 肩口で留まるタオルケット。

 無表情な学校の女王の面影はどこにもない。

 抱きしめられる前提の、無防備すぎる姿。

 家に誰もいない二人きりの午後。

 ぼくのベッドで、ぼくの匂いに包まれて、安心して眠っていた、レナさん。

 

 でも。その信頼こそが、今、ぼくの理性を一番深く、鋭く、削り取っていく。


(抱きたい)


 その腕の中に飛び込んで、抱き締めて、頬を寄せて――それだけで止まれる自信が、ない。

 喉が渇く。指先が熱い。心臓がうるさい。

 守りたいのに。壊したいみたいな欲が混じる。そんなの。


(……行きたいよ、レナさん)


 触らない。

 触れない。触れたら、もっと欲しくなる。欲しくなったら、止まれない。

 だから、立ち上がらない。

 呼吸を、整える。

 目を逸らす。大事な人の名前を唱える。レナさん、レナさん。落ち着け、落ち着け。


 ――抱き締めるだけ。それだけなら、許される?

 本能的に身を乗り出した、そのとき。


 ……あ。

 待ちくたびれたのか。差し出されていた両腕が、ぱたり、とベッドに落ちた。

 タオルケットがずるりと滑り落ちる。

 白い肩と、鎖骨のラインが、露わになった。

 最強ギャルによく似合う、ロゴ入りニット。


「……風邪、引くよ」


 音を立てないように、立ち上がる。

 柔肌には指一本触れないように、慎重にタオルケットの端だけを摘んで、肩まで引き上げた。

 ふわり、と甘いバニラの匂いが、舞い上がった。

 近い。近すぎる。匂いだけで、足がすくむ。けど。


「……んー……」


 レナさんが満足そうに、タオルケットを引き上げて、顔にうずめた。

 唇だけは外に出したまま、はぷはぷ、むにゃむにゃ。しばらくすると、コロリと、ぼくのほうへ寝返りを打った。また長い手足を折り畳み、背中を丸める。

 ベビーピンクの花弁を、心地よさそうに擦り合わせる。


 この安らかな寝息を守れるなら、ぼくは何だってできる気がした。

 たとえ、ぼく自身の欲望を殺すことでも。

 でも、だからだろうか。その瞬間まで気づかなかった。

 背を向けて、その直後、やっぱりレナさんを見たくなって。

 振り返ったその一瞬。


 レナさんが、タオルケットの隙間から――ぱっちりと、目を開いていることに。


「え?」


 二度見するように、注目すると。


 ……くー、くー。


 次に見た時は、彼女はまた、規則正しい寝息を立てていた。

 長い睫毛は閉じられ、あどけない寝顔に戻っている。


「……見間違い、かな」


 そう呟いて、名残惜しさを振り切るように背中を向けた。

 一歩、離れようとしたその瞬間。


 くい、と。


 腰のあたりで、布が引かれる感触。

 気のせいじゃない。明らかに抵抗がかかった。


「……え?」


 驚いて振り返る。

 タオルケットの隙間から、白くて細い腕が、這い出ている。

 そしてその指は、タオルじゃなく、ぼくのシャツの裾を、逃がさないみたいに摘まんでいた。


(……レナさん?)


 心臓が、落下した。


 規則正しい寝息は、そのまま。

 長い睫毛も、閉じたまま。

 けれど、ぼくを捕まえた指先が、もう一度、くい、と布を引く。


 まるで、「耐えるの、やめて?」って――眠ったふりで命令してくるみたいに。









(あとがき)


彼女が堕ちるまで、あと80日。


👉 続きが気になったらブクマ。

(ここがレナさんの帰る場所です)

👉 無言の命令にゾクッとしたら★/ハート。

👉 一言感想「悪い子なレナさんへのお仕置き」募集します!

(例「こちょこちょの刑」「耳元で愛を囁き続ける」「わからせる(意味深)」)


 

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