謹慎中 ねんね、こっち。(耐えるの、やめて?)
◆
くー、くー。
静かな部屋に、規則正しい寝息が響く。
午後二時。カーテンの隙間から差し込む気怠い光が、空気中の埃をきらきらと照らす。
ベッドを占領して、タオルケットを体に巻きつけながら、きゅうと縮こまって無防備に寝ているのは――国民的JKで、学校の女王様で、現在謹慎中のレナさんだ。
長身を折り畳み、両手を頬に添えて、静かに横になっている。
まるで童話のお姫様のような寝顔。派手なネイルに、揺れるイアリング。外見は間違いなく最強ギャルなのに、今は迷い込んだ小動物みたいに背中を丸めている。
「……可愛すぎます」
音を立てないように、ベッドの縁に近づいた。
さっきまであんなに喋って、笑って、他愛ないことでじゃれ合っていたのに。ふとした瞬間、電池が切れたみたいに、レナさんはすぅと夢の中へ落ちていった。
本当なら隣に寄り添いたい。
同じタオルケットに包まって、一緒に午後のまどろみを共有できたら、どんなにいいか。
けれど――ぼくの部屋のシングルベッドは、彼女ひとりを受け止めるので精一杯だ。
彼女の長い手足が収まった、今の形がいい。ただでさえ脚を畳まないと収まらない。レナさんには、快く眠ってほしいから。
だから、ぼくは床にいる。
触れられない中で、いちばん近い場所。
同じ目線で、彼女の寝顔を覗き込む。
「レナさん。わかっていますか?」
起こさないように、小声で囁く。
起こしたくない。触れたくない。なのに、ずっと見ていたい。
守りたいって気持ちが、いちばん欲張りだ。
そっと呼吸した時、ふわり、と鼻腔をくすぐる香りを感じた。
甘いバニラの中に、少しだけ爽やかなシトラスが混じる。
それが、ぼくの部屋特有の、紙とインクの匂いとも混ざり合って……何だか、ぼくの生活そのものが、彼女色に染め替えられていくみたいで。
たまらなく、胸がギュッとなる。
「今、どんな夢見ているんですか……」
返事の代わりか、レナさんは、頬のそばのお手々を、力なくぐーぱーさせた。
「……んぅ……」
安心しきった吐息。指先だけが、迷子みたいに宙を探って、ぼくのほうへ寄る。まるで温もりを求めているみたいに。
けれどその手は、マットレスの上にぽふっと垂れる。その拍子に、黒い糸がさらりと揺れた。
レナさんの、腰まで流れる、濡れ羽色の長髪。
今はただの絹糸になって、シーツや、枕の上に、美しく広がっている。午後の光を吸って、艶を散らす。その光景は、さっきまでぼくを散々からかった、ぷくくな女王様とは別人だ。
魔法をかけられて、百年もの眠りについた、いばら姫みたい。
ほんのり桜色の唇は、何かをおねだりするように、むにゃむにゃと少しだけ開いて、また閉じた。
「こんな顔、ぼくにしか見せないでくださいよ」
誰に言うでもなく、本音がこぼれ落ちる。
レナさんが初めてこの部屋に襲来してから、もう何日になるだろう。気づけばカレンダーに印をつけることをやめていた。
あの衝撃的な朝から、彼女は当然のように、毎日ここへ帰ってくるようになった。
これ以上の幸せなんて、ないはずなのに。それを当たり前みたいに受け入れている自分が、少しだけ怖い。
ぼくはきっと、もう、彼女がいなくなる未来に耐えられないから。
くー、くー。
寝息のたびに、華奢な肩が上下する。
遠くで車の走る音。カーテンが微かに揺れる。午後の光がレナさんの頬を撫でた。
横向きの姿勢。タオルケットの下で、二つの巨大ボリュームすぎる果実が、重たげに傾れている。
乳房の先が、タオルで覆えないほど張っている。ニットのロゴ模様がはみ出て、パンパンに引き伸ばされている。横になってもなお、重力と、二の腕に押し潰された形のほうが、彼女の顔よりも高く、分厚く、そびえ立つ。
美しすぎるお姫様の、アンバランスな肉体。
「……ぅー」
寝苦しかったのか。
甘い唸り声を上げて、脚を折り畳んだまま、コロンと身を翻し、仰向けになった。
ああ、レナさん。
そんな目で見ちゃいけない、ってわかっているのに。
ごろん。だぷん、とろぉり……。
タオルケットの下で、形を変える。
仰向けになったことで、暴力的な質量が、脇の方へとなだらかに流れ落ちる。二の腕に寄り添うように沈んで、下敷きにして、完全に埋め尽くして――。
とろとろおっぱいは、それでも、流れきらない。
決壊してもなお、圧倒的な膨らみは全く失われていない。面積が広がった分、むしろ存在感を増している。脇乳が接地してもなお、胸の中央が離れていない。
ぽよぽよと、細い肩幅よりも広がった、どたぷんな丸みを淫らに保つ。タオルケット越しに、柔らかく波打ち続ける。
「……ぅぅー……」
仰向けのほうが、かえって寝苦しそうなのは、重さのせいなのか。
(……だめだ、ほんとにだめだ)
喉が、からからに乾く。
行き場のない熱が腹の底に溜まって、息を吸うたびに広がっていく。
ここでぼくが負けたら終わりだ。
レナさんは、ぼくを信じて寝ている。
触れない、って。手を出さない、って。
その当然が、どれだけ尊いことか、分かっているはずなのに。
あまりの巨大さと、見るだけでわかる重たさ。
行き場を失った、柔い輪郭が、彼女の首元の方へてろんと溢れた。
「……ん……」
顎の下に触れそうになって、レナさんが眉を寄せる。
折り畳まれた脚の膝の輪郭が、乳房の下のほうに触れた。
その拍子に、肉の波紋が広がり、いちばん柔らかいところが、ふっと口元に寄る。
まずい。ダメだ。見てはいけないのに、目が離せない。
「……タカキぃ……」
寂しげな寝言。そして。
「……どこ?」
ぼくの鼓膜と、体の芯を、震わせる。
夢の中でも、ぼくを探してくれているのだろうか。
上乳が波のように押し寄せて、桜色の唇に触れんばかりに迫ったまま、レナさんが「んぅっ」と、身じろぎをした。
無意識に持ち上がった膝が、たわわな下乳を、グイ、と押し上げた。
ダメ押しとばかりに、肉の波がさらにせり上がり、ついに口元を埋め尽くす。
「……んぅ……はぷ……」
自分の胸に窒息させられそうになって、レナさんが苦しげに呻いた。
首を上げて、ぷはっと息継ぎ。
一瞬、視界が真っ白になって、時間が止まった。
レナさんは、両手を握って、気持ちよさそうに口をもぐもぐさせるばかりだ。
華奢な背が浮いている。マットレスと背中の間に隙間がある。身体は浮くほど細い。ここだけは、溺れるほど重たく沈み込む。
無防備で、凶暴。
その矛盾に、ぼくの頭の中が焼ける。
「タカキの……えっち」
寝言みたいに、笑うみたいに。なのに、言葉だけは妙に正確で。
長い睫毛が――ほんの一度だけ、かすかに揺れた気がした。
「レナさん、起きて、る……?」
「ぎゅぅ、してぇ……っ」
甘ったるい、砂糖菓子を溶かしたような声。
寝ているのか、起きているのか。
とろん、と半開きになった潤んだ瞳が、ぼくを捉えた気がした。
カサリ、と衣擦れの音をさせて、両腕を、ぼくのほうに差し出す。
「……ねんね……こっち……♡」
肩口で留まるタオルケット。
無表情な学校の女王の面影はどこにもない。
抱きしめられる前提の、無防備すぎる姿。
家に誰もいない二人きりの午後。
ぼくのベッドで、ぼくの匂いに包まれて、安心して眠っていた、レナさん。
でも。その信頼こそが、今、ぼくの理性を一番深く、鋭く、削り取っていく。
(抱きたい)
その腕の中に飛び込んで、抱き締めて、頬を寄せて――それだけで止まれる自信が、ない。
喉が渇く。指先が熱い。心臓がうるさい。
守りたいのに。壊したいみたいな欲が混じる。そんなの。
(……行きたいよ、レナさん)
触らない。
触れない。触れたら、もっと欲しくなる。欲しくなったら、止まれない。
だから、立ち上がらない。
呼吸を、整える。
目を逸らす。大事な人の名前を唱える。レナさん、レナさん。落ち着け、落ち着け。
――抱き締めるだけ。それだけなら、許される?
本能的に身を乗り出した、そのとき。
……あ。
待ちくたびれたのか。差し出されていた両腕が、ぱたり、とベッドに落ちた。
タオルケットがずるりと滑り落ちる。
白い肩と、鎖骨のラインが、露わになった。
最強ギャルによく似合う、ロゴ入りニット。
「……風邪、引くよ」
音を立てないように、立ち上がる。
柔肌には指一本触れないように、慎重にタオルケットの端だけを摘んで、肩まで引き上げた。
ふわり、と甘いバニラの匂いが、舞い上がった。
近い。近すぎる。匂いだけで、足がすくむ。けど。
「……んー……」
レナさんが満足そうに、タオルケットを引き上げて、顔にうずめた。
唇だけは外に出したまま、はぷはぷ、むにゃむにゃ。しばらくすると、コロリと、ぼくのほうへ寝返りを打った。また長い手足を折り畳み、背中を丸める。
ベビーピンクの花弁を、心地よさそうに擦り合わせる。
この安らかな寝息を守れるなら、ぼくは何だってできる気がした。
たとえ、ぼく自身の欲望を殺すことでも。
でも、だからだろうか。その瞬間まで気づかなかった。
背を向けて、その直後、やっぱりレナさんを見たくなって。
振り返ったその一瞬。
レナさんが、タオルケットの隙間から――ぱっちりと、目を開いていることに。
「え?」
二度見するように、注目すると。
……くー、くー。
次に見た時は、彼女はまた、規則正しい寝息を立てていた。
長い睫毛は閉じられ、あどけない寝顔に戻っている。
「……見間違い、かな」
そう呟いて、名残惜しさを振り切るように背中を向けた。
一歩、離れようとしたその瞬間。
くい、と。
腰のあたりで、布が引かれる感触。
気のせいじゃない。明らかに抵抗がかかった。
「……え?」
驚いて振り返る。
タオルケットの隙間から、白くて細い腕が、這い出ている。
そしてその指は、タオルじゃなく、ぼくのシャツの裾を、逃がさないみたいに摘まんでいた。
(……レナさん?)
心臓が、落下した。
規則正しい寝息は、そのまま。
長い睫毛も、閉じたまま。
けれど、ぼくを捕まえた指先が、もう一度、くい、と布を引く。
まるで、「耐えるの、やめて?」って――眠ったふりで命令してくるみたいに。
(あとがき)
彼女が堕ちるまで、あと80日。
👉 続きが気になったらブクマ。
(ここがレナさんの帰る場所です)
👉 無言の命令にゾクッとしたら★/ハート。
👉 一言感想「悪い子なレナさんへのお仕置き」募集します!
(例「こちょこちょの刑」「耳元で愛を囁き続ける」「わからせる(意味深)」)
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