第33話 フェルトハエリアと不壊の剣

「発射!!」


「グガァァ!!」


 タイタンの悲鳴と耳をつんざくような激突音。

 カタパルトに飛ばされた岩は見当違いな方向に、二発あるバリスタのうち一つは巨大な岩の棍棒によって防がれたが、もう一つは見事命中したようだ。右肩辺りから出血しているのが見える。


「先に行ってるっ!!」


 少年は周囲に軽く声だけ掛けて、即座にジャイアントタイタンの元へと走り抜けていく。


 (このペースなら丁度行けるな)


 事前に伝えられていた魔法使いが魔法を当てられる射程。その目印となる二つの岩がすぐ先にある。肩の傷を気にすることもなく迫ってくる巨体に恐怖してしまう少年だったが、打ち合う頃には放たれるであろう魔法を信じて突き進む。

 



「ふんっ、あのガキ勇敢だな……魔法使い! 魔法を当てられるならば、すぐに放て!!」


 そんな隊長の指揮を、他より少し高い石の上にて聞いていたのはヲンヌとミュンジョーだった。

 

「そう言われてますが、ミュンジョー? 使わないのですか? 魔法。貴女なら射出系はもう届くのでは?」


「ヲンヌの言いたい事は分かるけれどまだ駄目なのよ。あのタイタンの皮膚……ああもう! 説明してたらタイミングを逃してしまう! ちょっと待ってなさい」


 ヲンヌの言った通り、私の魔法ならここから発射させてもスピード乗せていけばタイタンの元へは届く。でも、それではダメ。火力が低くなってしまう。


 タイタンの皮膚は物理的な頑丈性もそうだけど、魔法的にも少しだけ耐性があるように見える。


「火よ……」


 だから、ひ弱な魔法なんて放っても意味は無い。場所は固定して威力を高めなきゃ。


「局地の領域にて熱く舞い踊れ!」


 場所は、彼とタイタンが丁度ぶつかるあの辺り。彼がいることで数秒くらいは動きを止めるだろうしね。

 最低でも片腕ぐらいはこれで再起不能にして見せる!


「ファルトハエリア!!」

 




「ギイィィグゥ!」


 (いよいよかっ!!)


 ついにジャイアントタイタンが棍棒を持った腕を振り上げる。目の前の少年を、射程圏内と認識したようだ。

 少年もここが正念場だと、この攻撃に対してスライディングかステップを踏むか、とにかくどうやって避けるかを限界まで考え続けた。


「ガァッー!」


 しかしその必要は無かった。少年の背後から追い越すように飛来する数色の魔法、騎士団所属の魔法使いが放った物だろう。それらは一切外れる事もなく、ジャイアントタイタンに命中し、その巨体を仰け反らせる。


「よしっ!」


 魔法というのはやはり凄い。想像していた以上の成果にその事実を再度認識した。


 (後は突き刺すだけ!!)


 後はこの剣を突きさえすれば、少年が頭に描いていた作戦はひとまず成功する。それを成し遂げるために、踏み込みを掛けたその瞬間、軍の隊長にも負けない大声量が戦場に響き渡る。


「ファルトハエリア!!」


「ググガァァァ……!」


 突然、タイタンの右肩辺りに2.3mの火勢いよくが立ち上がった。


「あっつっ!!」


 ジャイアントタイタンの特殊能力かと疑うほどの熱風が少年を襲う。それにより、踏み込んだ事によって放たれるハズの突きは無く、赤い火の粉だけが降りしきっていた。

 

(これがミュンジョーのなのか?!)


 未だに頭上で続く炎の渦に驚きながらも、これはチャンスでしか無いと、もう一度踏み込んだ。


「ぜぇぁやぁ!!」


 タイタンの皮膚は丈夫であるというのはミュンジョーも少年も同意見。ミュンジョーの魔法同様に、とにかく威力と貫通力をあげるために全て動作を丁寧に行って技を決めた。


「グガァ!」


 衝突に自分の肩に現れた炎も凄いが、体の一部分に深く突き刺さっている物も煩わしい。ジャイアントタイタンは足元を払うようにしてその原因を対処しにいった。 


 

 少年の体よりも大きい手のひらは、壁のように迫っていくが、ある物によってそれは防がれる。


「うおっと! 成功だな……さすが不壊!」


 ある物、それは突き刺さった少年愛用の長剣。訓練していた時から永遠と使っていた物だが、傷一つとしてついていない。


 それが、少女が特別製と言った理由の一つ。どのような事があっても壊れない、不壊の性質だった。


「では、遠慮無く攻撃させて貰うぞ」


 わざわざコレを倒しに来たのは、活躍してより良い報酬身分を貰うため、ここで止まる訳にはいかなかった。

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