第31話 決戦前に

「最後の休憩だ! これが終わり次第、作戦は最終段階に移行する。エネルギー補給にしても軽食などに抑えておくように!」


 荒野の奥へ進むこと数時間、隊列は数日前に少年が大きなタイタンと戦ったところまで進んでいた。

 幾度の戦いを経ても死者、さらには重傷者も出ておらず騎士団の想定からすれば非常に順調と言えるものだった。


「フィーリーは何も持ってきてないんだな」


 少年はウエストポーチから携帯食を取り出しながら聞いてみた。


「財産だってほとんど無いもん、一応体裁を整えるために槍は持たしてくれてるけど。あぁー出発前に刺しときゃ良かったかも」


「帰ってから刺せばいい」


 少年はどう考えても気まずくなるような質問をしてしまった事を後悔しながらも、前向きになるように返答していく。


「えー、そんなの無理だよー。ジャイアントタイタンって、普通の奴の三倍以上大きいんでしょー? 凪払われてお仕舞いだよー」


 これが元の性格なのか奴隷の身分故なのかは判断がつかないが、死ぬこと前提なのは自身の使命からしても気が悪い。何でも良いから生きる理由をつけさせようと、丸い携帯食をフィーリーの口に突っ込んだ。


「むごっ、何するのさ。……んー美味しいねこれ、特に塩っぽいところが」


「塩っぽいか……それが携帯食の悪いところなんだけどな」


 ちょっとばかし薬草もねじ込んであるし体に良いようにはしているが、唯一除けなかったのは保存のための塩。本来ならばもう少し食材の風味を感じ取れるものなのに、これのせいで台無しだった。


このくらい数時間なら保存用じゃなくても良かったな……」


 多少なりとも腹が満たされた事によってフィーリーが最後の晩餐! などとキャッキャッしているのを見ていると、近づいてくる影が二人、実績のある魔法使いということでVIP待遇なミュンジョーとヲンヌだった。


「大事な決戦前だと言うのにそのみすぼらしい食事……実にいい判断です」 

 

「そりゃどうも。そっちこそ決戦前なのに俺らのところなんかに来る暇あるのか? 主力だろ?」


 唯でさえ見ることの少ない魔法使いの中で、卓越した技術を持つミュンジョーは今回の作戦でも重要視されていた。

  

「結局は遠くから燃やすだけだもの。なら前衛の足止めとして、騎士なんかより貴方の方がよっぽど信頼できるんだから来て当然でしょ。ってヲンヌが……でしょう?」


「はい。いざとなったら貴方が頼りです。だからこうして挨拶に……とまあ、いざとならなくても一人で活躍しそうですが」


 自分の実力を信頼し、ある程度頼られていることに少年はニヤつくような喜びを感じていた。


「それは困るわね、今回ばかりは全力で私も行くの。貴方が何かする前に燃やしつくしてしまう程にね。だから、よく見てなさい。…………やっぱり、挨拶なんかしに来なくても良かったわ」


 その言葉を最後に気分が変わったようでミュンジョーは簡易テントの方へと戻っていった。

 

「では、私も。……あ、分かっているとは思いますが、ジャイアントタイタンは強敵です。色々用意しているようですが、お気をつけて」


「ああ、ありがとう」


 別れの言葉を続ける前にヲンヌは、スタスタと同じ道を進んでいった。


「完全に私空気だったなー。貴族は奴隷の姿を見えないって話、やっぱり本当なのかな」


 二人の後ろ姿を眺めながら、確かに存在が消えていたフィーリーが言った。


「ま、それも天に行くから関係無いか。……さっきのやつ、もう一個貰っていい? おぉ、ありがと」 


 そこらの岩にでも、くくりつけてやろうかと思いながら食べる姿を見ていると、衝突に何かを思い付いたような顔をするフィーリー。


「もしかしてだけど、奴隷は地獄に行くとか無いよね? そうだったら流石にショックだよー」 

 

「……もうそれ食うなよ」


 ここまで死を考えている者が、生きるための糧を頬張るなど、なんて可笑しなことなんだ、少年は呆れるように目の前の女を見つめてしまった。

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