第25話 第五階層:焼きの極致鮭、そして伝説へ!?
階段を下りきった瞬間、空気が変わった。
白い湯気が立ち込め、焦げた香ばしい匂いが漂う。
そして、そこにいた。
玉座に、焼き鮭が座っていた。
両手に箸。
目は真っ赤に燃え、脂がきらめく。
体長は5メートルを超え、圧倒的なオーラを放っている。
「我こそは……焼かれし王、
その声と同時に床が震え、岩盤が裂けた。
鮭皇が立ち上がると、脂が滴り、湯気が爆発的に弾ける。
「いや、湯気の爆発ってなに?」
「脂の気迫、ってやつね」周東さんが真顔で返す。
ツッコミが間に合わない。
もう、これは焼きの領域を超えた何かだ。
「行くぞ、人間ども!鮭・舞い身崩し!」
巨大な箸を振るうたび、空気が裂け、斬撃が走る。
瑠散の杖がかろうじて受け止めたが、衝撃で手がしびれる。
「クッ……! こんなの反則級だろ!」
「まだ慌てないの。焼きには、焦らしが必要よ。」
周東さんが静かに立ち上がった。
炎のような瞳で鮭皇を見据える。
「育児も、料理も、ダンジョンも。どれも、焼きが命よ。」
その瞬間、彼女の背後から三人の娘たちが現れた。
キタ、ミナ、ニシ火の三姉妹が手を取り合う。
「ママ、私たちもやる!」
「焦げすぎないように気をつけて!」
「オッケー、ミディアムレアでいこう!」
合言葉は「家族で焼け」。
召喚されたのは、炎をまとった魔法
その炎が、台所ごと紅蓮に染め上げた。
「今だ、瑠散くん!」
「了解ッ!」
瑠散の杖が光をまとい、周東一家の炎と共鳴する。
火と光、調理と魔法が融合した。
「
決めゼリフが変わった。
轟音とともに、巨大な光の弁当箱が出現した。
中には、ふっくら白飯、香ばしい焼き鮭、そして湯気の立つ味噌汁。
「な、なんだこの神々しい弁当は……!」
「愛と炭水化物の融合体よ!」
弁当箱がパカッと開き、光の奔流が鮭皇を包み込む。
圧倒的な焼きの波動が空間を満たした。
「ぬおおおおお……塩加減……完璧……!」
鮭皇の身体がほのかに輝き、湯気と共に消えていく。
最後に残ったのは、香ばしい香りと、ほんの一切れの紅鮭の身。
それはまるで、感謝の証のようだった。
静寂が訪れたあと、床がゆっくりと開き、階段が現れた。
その先には、まばゆい光に満ちた空間。
「……台所、だ。」
最深部にあったのは、黄金の包丁、水晶のまな板、氷の精霊が守る冷蔵庫。
まさに、料理人の聖域だった。
「これが、千田界の厨房の間。」
周東さんが誇らしげに微笑む。
「ここからが本当のダンジョン生活よ、瑠散くん。」
少年は、辺りを見渡して呟いた。
「ダンジョンの最深部が、まさか台所とはな。」
「千田さんの家だもの。最終的には全部、台所に通じるのよ。」
周東さんの答えに、みんなが納得した。
確かに、千田さんらしい。
三姉妹たちは早速、新しい調理器具に興味津々だった。
「わー!このお鍋、魔法で自動的にかき混ぜてくれるよ!」
「このオーブン、温度が魔法で調整できる!」
「ママ、これでもっと美味しいお料理作れるね!」
そう言って笑う周東さんの姿に、なぜか少し胸が熱くなった。
そのとき、階段の上から、明るい声が響いた。
「おーい! みんなー! 地下、気に入った? 今度からここで一緒に料理しましょうねー!」
顔を出したのは、千田さんだった。
この全ての元凶であり、すべての台所の支配者。
「千田さん!? そこから出入りできたんですか!?」
「うん、食器棚の裏のショートカット使えばすぐよ?」
瑠散は頭を抱えた。
ここまでの死闘が、一瞬で台所の裏ルートでスキップできたとは。
「……まぁ、いいか。」
湯気の向こうで、三姉妹が魔法オーブンの温度を調整し、
周東さんが味噌汁の味を確かめている。
その光景は、どこか家庭の夕暮れみたいに温かかった。
「この世界、ほんとにヘンだな。でも、悪くない。」
瑠散は笑い、スプーンを取った。
次なる試練は、お弁当ダンジョンである。
だが、今はただ、焼きたての幸福を噛みしめる時間だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます