第2話「歩けるようになった俺と、この世界の不思議」

#第2話「歩けるようになった俺と、この世界の不思議」


 俺は一歳になった。

 少しだけど、なんとか歩けるようになった。

 ふらふらしながら廊下を歩くたび、母さんが「すごいね、レオン! あなたは天才よ」と笑ってくれる。

 母さんに褒められると気分が良い。頑張って更に歩く俺。その度に褒めてもらえるからまた頑張って歩いてしまう。

 どうやら俺は褒められて伸びるタイプなのかな。歩くだけで褒められるのは本当に嬉しい。まだまだ頑張っちゃうよ。

――ああ、異世界ライフ、悪くない。


 なにより嬉しいのは、母さんがとにかく美人なこと。美人の母さんに褒められるなんて最高だよ。

 しかも、そんな美人の母さんのおっぱいに顔を埋めても誰にも怒られない。むしろ頭をなでてもらえる。

 ああ、これが……天国ってやつか。性欲とかはまるでないけど、前世で童貞だった俺としては夢の一つが叶った気分だ。

 ずっとこうしていたい、もう死んでもいいかもしれない……嫌、駄目だ。さすがにまだ早い。


 そして、父さんと母さんが仲良くしているのを見ると、正直ちょっとというか……かなり羨ましい。

 ときどき母さんの気を引こうとして、父さんの話を遮ったりしてみるけど――まぁ、さすがに全然勝てない。さえぎったところでものの数分だ。悔しい。

 俺は所詮、一歳児。ライバルとしては荷が重すぎる。


 でも言葉も少しずつしゃべれるようになったんだ。

「おかあさん」と呼ぶと、母さんは涙ぐむほど喜んでくれる。


 本当は「おとうさん」も言えるけど、こっちは意地を張って言わない。男としてのプライドだ、やはりリア充を簡単に喜ばすのは嫌だ。


 そして二歳年上の姉「イリス」。

 この子が本当に俺のことをよく構ってくれる。

「れおん、あーそーぼ!」と、抱っこしてくるたびに全力でしがみついてくる。


「ねえさん、ねえさん」というとニコッと微笑んでくれる。

 正直、姉さんの抱っこは安定感ゼロで怖い。でも嬉しい。ああ、こんな幸せな幼少期が俺の人生に訪れるなんて。本当に嬉しい。



 あと、先日は凄い驚いたんだ。

 この世の中はいろいろな魔法や魔道具があるらしいことを知ったのだ。俺はまだ魔法を使えないけど才能がある人は小さい頃から使えるらしい。できれば俺も魔法を使いたいんだが、どうやったら使えるのだろう?さすがに一歳から始めるのはまだ早いのだろうか、その辺りがまだよく分からない。ちんぷんかんぷん。

 まずは魔力を測って、魔力があれば使えるということだが魔力測定は三歳になってからとのこと。

 できればその前に魔法を使えるようになりたいな。そうすれば無双できそうじゃん。若い天才魔法使いなんてのにも憧れる。


 ちなみに何故、魔法の存在を知ったかと言うとイリス姉さんが三歳になり魔力測定を受けるという話になったからだ。王都に行って測ってきたらしい。結果は――高い魔力量と判明。かなりの才能ありだ。

 周囲の大人たちは「将来は立派な魔法使いになるぞ」と褒めていた。ちょっと羨ましいけど、誇らしい気もする。

 俺も三歳になったら魔力測定ができるらしい。それが今の一番の楽しみだ。神様、当然俺には転生特典あるよな?無かったらギャン泣きするぞ!


 さらに姉は最近、剣術も始めたようだ。

 父さんに頼み込んで教わっているらしく毎日、よろよろしながらも木の剣を振り回している。

 どうやら父さんらが魔物退治していることを知り、自分も早く魔物退治がしたいと言って頑張り始めたらしい。なんて家族想いのいい姉なんだ。野蛮なことはノーサンキューな俺とは大違いだ。なので魔物退治は宜しくお願いします。


 そして、父さんいわく「イリスは剣の天才だ!」とのこと。

……親バカなのか、本物なのか。その辺はまだ判断できない。本当に剣の天才ならば、剣も魔法もできる万能型。とてつもないことだ。この田舎の辺境伯を引き上げてくれる存在になるかもしれないな。俺は魔法はともかく剣は怖い。だから姉さんには頑張ってもらいたい。

 でも俺は男だから継がないと駄目なのかな?できれば姉さんが継いで俺はニート生活を送りたい。前世サラリーマンの俺には戦うのも政治も厳しいからね。



 そんなある日、俺はよろよろと歩いていたときに一冊の本を見つけた。床に落ちてたんだ。

 その表紙には見慣れない模様。中を開くと図解入りの何かが描かれていた。ページを何枚かめくって分かった。どうやらこれは――魔道具の本らしい。


 文字はさっぱり読めない。でもなぜか“構造”が分かる気がした。何でだろう?

……ああ、そうか分かった、これは電気回路と同じなんだ。


 これ、前世で扱っていた回路図とかなり似ている。もしかして、この世界の魔道具って電気回路みたいな仕組みで動いてるのかな?


 そう考えた瞬間、背中がゾクッとした。

 おそらくだけど、この世界にも俺と同じような転生者が過去にいたのだろう。そして魔道具を開発した。その魔道具には基盤が付いている。回路を基板に刻みそこに魔力(前世の回路では電気)を流す――そんな仕組みのようだ。


 仕事の記憶がフラッシュバックしてきて、ちょっと気分が悪くなった。

 ……俺は働きたくないんだよな。

 でも、これはこれで面白い。好奇心には勝てず、気がつけば夢中で眺めていた。なるほど、いろいろな魔道具がある。照明やコンロ、冷蔵庫など。

 そう言えば家の照明も魔道具か?他にも空調も魔道具で調整しているかもしれない。冷蔵庫のようなものを実際にものを見たが魔道具で間違いないだろう。おおお、凄い、この世の中は魔道具の世界だ、これはかなり興味深い。

 本にある魔道具はその他にもいろいろあった。おそらくうちは貧乏だから最低限のものしかないのだろうな。できれば他のも実際に見てみたいがこればっかりは仕方がない。


 俺が何度かその本を見ていたら、母さんやお手伝いさんが騒ぎ出した。


「あらあら、レオンはもう本を読んでいるの? あなたは天才ね!」と母さんが言えば


「まだ一歳なのに! 本を読むなんて凄いです!」とお手伝いさんも相づちを打つように返事する。


 いやいや、そんな大げさな。俺はただ眺めているだけなんだが。悪い気はしないけど、褒めすぎだと思うぞ。まあそれが母親というものかもしれないけどね。

 俺も一緒になって手を叩いて喜ぶ。すると、みんな更ににっこりだ。こんなことでも喜んでもらえる、ああ幸せ。このまま歳は取らなくてもいいかもしれない。


 そんなふうにして、毎日は穏やかに過ぎていった。お金のない貧乏辺境伯っぽいけど、そんなことが気にならないぐらい家族が優しくて、笑顔がある。

 前世のブラック企業の頃とは雲泥の差だ。

 異世界ばんざい――今は本気でそう思っている。

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