可愛くて最強な魔女嫁が落ちてきた――アーサーとユカの千年の邂逅
udg
1:落下する火球と女の子
「これは仕組まれた罠だ。俺と君が逢った途端に恋に堕ちて夢中になってしまう、巧妙かつ絶望的な罠だ!」
「ふーん、アーサーはボクに夢中なんだね」
「隊長は前世でどんな徳を積んだのか」
「すみません、あまりに情熱的なプロポーズに思わず涙が」
――――――――これはたぶん、世界の危機だ。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
その日、カチョウ帝国国境の都市ウドガの夜は喧噪に包まれた。
「うおっ、あ、あれは何だ!?」
「流星だ!」
「山が燃えるぞ!!」
街の北に広がるアラコ大森林。
強力な魔物が棲息し、人類が立ち入ることのない鬱蒼とした森の奥地に向かって火球のようなものが落ちるのが目撃され、次の瞬間に城門の櫓にいた兵士が転げ落ちるほどの衝撃。鳴り響いた轟音で子どもは目を覚まし、犬は喜び庭駆け回り、猫は丸くなるこたつがないのでその辺でニャーニャー鳴いた。
「仕方ない…、夜が明けたら視察に行く」
「隊長、流星は不吉と亀卜にあらわれました。本気ですか!?」
「当然だぞタドワ。我々は辺境警備隊、占いがどうであれ、民の暮らしを守らねばならない」
辺境警備隊の隊長である俺、アーサーは、落下地点を遠目に確認しながら部下に指示を出す。
アラコ大森林は中心に山脈があり、一応は国境とされている。今もうっすら赤みを帯びて見える落下地点は、間違いなくこちら側だ。
意外にも大規模な火災が起きているようには見えないので、ウドガの被害は警備隊宿舎の物干し竿が倒れて隊員のパンツが汚れた程度で済みそうだ。
あの火球が流星ならば不吉なのは常識だが、魔物のように襲ってくるわけでもない。
それでも我々警備隊が現地を確認して、安全であると伝えない限り、人々の不安は消えないだろう。
「マンスケ、ガラ、タドワ、マノカ。俺と合わせて五人で朝四時出発だ。荷物は最低限、襲われた時は逃げる」
「おおっ、遂に隊長に選ばれたっす! やっぱ僕ってエリートっす!」
「くだらないこと言ってる間があったら準備しろ、ガラバカ。マノカは探知の魔道具のチェックを頼む」
「了解だ隊長。隊長と一緒ならば、たとえ悪鬼羅刹であろうと探知してみせようぞ」
「間違っても、そんなもん探知するな」
ウドガの辺境警備隊はたった五十名。ただし領主の指示を受けない皇帝直轄の兵士隊で、アラコ大森林の魔物だけでなく、隣国ヒノト帝国との小競合いにも対応するため、精鋭が揃っている。
しかし大森林の魔物のなかには、体長10mを超える異形の存在がいる。そんな相手に出くわせば、俺以外は一撃であの世行きだ。
選んだ四人の幹部は、自分一人なら逃げ出せる実力がある。マノカは魔物の位置を探知する魔道具を使える。俺自身の探知能力と合わせて、なるべく危険を避けて、そして最悪の事態になったら犠牲を最低限にとどめる人選だ。
「これも前世に何かやらかした因縁でありましょうや」
「またタドワの妄想が始まったっす」
「どんな悪業のせいでガラガラバカと出遭ってしまったのか」
「災難がガラガラバカバカで済んだと考えればいい」
「隊長までなんてひどいこと言うんすか! バカは一回っす!」
「ツッコむところ、それかよ」
明日が人生最後の日かも知れないのに…と思う。
まぁ、そんなことでしんみりしていたら、こいつらが笑う日なんて永遠に来ないか。
仮眠をとり、空がわずかに白みかけた頃、五人の決死隊はアラコ大森林に向けて出発した。
大森林はまったく人が立ち入らないわけではない。森の中の川での漁業、木を切り出す林業、また猪や兎など狩りも行われる。
街の魔術師や錬金術師の依頼で、石や薬草を採りに行く護衛をやらされたこともあった。
ただし、それが可能なのは大森林の入口に限られる。
山道が途切れる地点に注意喚起の看板があり、そこから先は辺境警備隊でも生きて帰れる保証はない。
雑談混じりに歩いていた我々も、気がつけば無口になる。
火球落下地点は、我々のような精鋭であっても、看板から少なくとも三時間は奥に進んだ先だ。魔物に出くわせば、現地調査は困難になるだろう。
しかし。
「マノカ、魔物らしき影は?」
「ありませぬ! 鼠一匹もおりませぬぞ」
あり得ないことだ。
既に麓の村をたって半日近い。過去にも決死隊を組んで分け入ったことはあったが、その時は注意喚起の看板の先に一時間も進めば、確実に魔物に囲まれていた。
「魔物もカキューンって驚いて逃げたんじゃないですか? 隊長」
「いや、我らが隊長に驚いたに相違あるまい」
「鬼のように怖いっすからねぇ」
「お前ら油断するなよ、……マノカの推測はあり得なくもないが」
昨夜の火球の落下は、光も音も衝撃も尋常ではなかった。動物が姿を消したのはたぶん驚いて逃げたからだろう。
ただ、魔物は衝撃を感じれば、むしろそちらへ向かう習性がある。そもそも、あれは生物とは違って、ただ襲いかかるしか能のない者たちだ。
もちろん、火球は要するに岩だ。魔物は土砂崩れにも反応するのだろうか――――。
「隊長!」
「ああ」
マノカの叫びと同時に俺も気づいた。
探知のギリギリに引っかかった何かに。
「何かはいる。全員、いざとなったら逃げるからな」
「戦わないっすか?」
「この人数は逃げる前提だ。ガラバカも忘れるな」
「バカバカ言うなっす」
「バカだろ」
「前世もきっとバカ」
「いやむしろ餓鬼の類に相違あるまい」
決して野生の動物ではなく、かといって魔物なのかも首を傾げるような謎の反応。
きっとそこが、昨夜の火球が落ちた場所なのだろう。
最初に探知してから、道のない森の中を進んで約三十分。
焦げた臭いを感じながら進んでいると、いきなり目の前が開けた。
我々が数人がかりでようやく抱えられるような大樹がなぎ倒され、周囲は焼け焦げている。そしてその少し先には、巨大なくぼ地が出来ていた。
「なんて大きさだ」
「町に落ちたら全滅でしたね」
「ああ、言っては何だがここで良かった」
くぼ地の深さは城の櫓から下に降りるくらいあって、水が溜まれば巨大なため池になりそうだ。こんな穴を作るような火球が俺たちの詰所に落ちていたら、全員死んだことすら気づかぬまま跡形もなく消し飛んだだろう。
冷や汗をかきながら縁に荷物を降ろし、マンスケたち三人を見張りで残す。
穴の中で魔物に襲われれば、逃げ出すことは難しい。俺たちが仆れても、副長たち三人が町に情報を持ち帰れば良いのだ。
「悪いなガラ、貧乏くじを引かせて」
「何言ってるっす、隊長に選ばれた男っすよ? 英雄じゃないっすか」
小柄で身軽に動けるガラを連れて、穴の中心へ向かう。
焦げ臭さはなくなり、削られた赤土と岩が混じったゆるやかな斜面をただ歩くだけだ。
何らかの存在は、もちろん今も探知している。どんどん自分だちは今近づいている。
しかし、どういうわけか、最初に探知した気配と今のそれに違いがない。普通は近づくほど気配が濃厚になるはずだから、想像を絶する何かがあるのは確かだ。
俺たちは果たして、それを見届けて町に伝えることができるだろうか―――――。
「え?」
「た、隊長、これは……」
そうして愕然とした。
下りきった穴の中心にあったのは、流星の名残りの焦げた岩ではない。
白いシャツとチェック柄の長いスカート姿で、大の字に寝転んでいびきをかく女だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます