廃教会のダンジョンはチート家庭菜園!?島の厄災のほのぼの冒険譚
テンユウ
第一章・メシア教会の初陣
プロローグ 廃教会のクリームシチュー
プロローグ 廃教会のクリームシチュー
剣の
様々な異種族が、それぞれの法に従いながら暮らす、ごく平凡な異世界――勇者も魔王も存在するが、そこに生きる人々の日々は驚くほど普通だ。
そんな平凡な世界の、とある教会から物語は始まる。
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ローマン大陸、死海地方北部。
掃きだめと呼ばれるソドム古都のはずれに、誰が祀られていたのかすら分からぬ小さな廃教会があった。
崩れた石壁と穴だらけの天井。そこを住処とし、肩を寄せ合って生きる八人の孤児たち。
人族換算で10~14歳位の集まりに見える少年、少女の物語。
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その朝、廃教会の食堂に大きく笑う声が響いた。
「フハハハ!これより恒例の儀式を始める! 皆の者、席につけ!」
角を生やした褐色肌の少年が、胸を張って宣言した。
忌み嫌われし“エルフ族の悪魔付き”――サタン。
この孤児院のまとめ役であり、そして自称「未来の神」。
「うむ、よろしい! 荒野の壁神パリー・ダゴン・下ガード!
我らを厄災から守りし大いなる守護に感謝を!
そして未来の神となるサタンに、それ以上の礼拝を!!」
「「ははーっ! ロング・リヴ・サタン!! ロング・リヴ・サタン!!」」
今日も廃教会はうるさいくらい元気だ。
サタンは満足げにうなずき、威厳?たっぷりにその尻尾を振りながら言った。
「よし! 俺の偉大なる教え、その1からだ!」
「わかったわよサタン。“ごはんは一日三食、好き嫌いをしないこと”よね」
少女――特徴の無い人族のシルエットのリリスが食器を並べながら答える。
「ダハハ、2つ!
“挨拶は忘れず、食事に感謝! 手洗いうがいも忘れるな!”」
シルエットから竜人族の少年がニヤニヤと笑い、その手を合わせて祈りの姿勢を取る。
「ええ、ええ、3つ、“筋肉つけたきゃ肉を食え! 体力つけたきゃ野菜を食え!”」
眼鏡の翼あるシルエットの少女が頑張ってサタンの口調を真似3つ目を答える。
「4つ、“よく食べ、働き、しっかり眠る!” ウム大事なことだな!!」
小柄な獣人族、─黄金の毛並みの狼の少年、18(人族で14)にもなるのに背丈のせいで【魔族・コボルド】扱いされる事を気にするクレイオスが尻尾をバタバタと振り、スプーンを2本も構えて席に座る。
ちなみにこの世界には人間と魔族がいて、【人間・○○族】、【魔族・○○】が正式名称だ!!○○族は漢字の組み合わせ、魔族はカタカナでモンスターぽく命名してるが例外もある。
「やれやれ」
はねたシチューが黒髪の少年のほおにかかる。
「やれやれ」
そしてやれやれと笑った。
「よろしい!! 今日の朝ごはんは奮発した!」
サタンはドンと鍋を掲げる。
「小麦と乳が手に入った! よって――野菜たっぷりクリームシチューだ! 残さず食えよ!」
「「いただきまーす!」」
子供たちの歓声が廃教会いっぱいに広がる。
その香りだけで幸せになれるほど、温かく、貧しく、そして賑やかな朝だった。
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「ガハハッ! 食え食え、今日は特別だぞ!」
クレイオスはスプーンを左右の手に一本ずつ持ち、獣のような勢いで食べ始めた。
「んまっ……! あっつ……! でも、んまぁ~~い!」
黄金の尻尾が椅子ごと揺れるほどブンブン振られる。
少し離れた席で、人族の小柄な――この中だと小柄に見える――黒髪の少年アダムが慎ましくシチューに口を付けた。
「ほぉ──旨い、今日のは特に……、」
アダムの目が一瞬輝いたが、その目の光はゆっくりと失われ、地味さが加速する。
「乳は貴重品だからね。盗られずに運べて助かったわ」
少女――リリスが大変だったと笑顔で話す。
「なあ皆、冒険者になろうぜ」
珍しく静かにしていたサタンが口を開いた。
「なんだサタン、藪から棒に、冒険者など他の街の話であろうこの死海地方には無縁の話だ」
本を片付け食器を並べる少女、有翼族のヘルメスが窘める。
「ダハハ、よいでは無いか、よいでは無いか、ダンジョンのお宝など金の匂いがプンプンするではないか、何よりゴミを漁るより健全であろうよ」
竜人族のシルエットの少年が笑い、皮肉交じりに肯定する。
「ええ、ええそうね、でもダンジョンはゴミ漁りより危険じゃない?友達が増えるのは良いことだけど、小さなお墓が増えるのは寂しいよ」
大きな人形を抱えたシルエットの少女が悲観する。
「なら俺は勇者になる。だってこの本みたいに誰かの前を進むのが勇者って奴なら、俺はお前らの勇者になりたい」
クレイオスが犬歯を見せ交戦的に笑う。
そして食べながら本を読むなとアダムとクレイオスはリリスに怒られる。
「やれやれ、で、どうして急に冒険者なんだ?」
アダムが尋ねるとサタンはにやっと笑い、指を立てた。
「決まってるだろ。夢を叶えるには食い物がいる! 肉! 野菜! 果物!たいていの夢は食って強くなれば挑めるのだ、ああだからこそ中庭の家庭菜園――1番実りの良い今が行動のチャンスなのだ!!」
「つまり食べ物に余裕がある今何かしたいと言う事ね」
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「まああの中庭で育てられる程度で何とかなるわけないよな……」
食事の後、アダムが食器を洗いながら呟く。
「おいどうした暗い顔をして」
食べ終わった食器を持ったサタンが降りて来た。
「サタンか、いや他の奴らの前で嘘をつかせて悪かったな」
サタンは頭を下げるようとするアダムの肩をがっしりと掴む。
「何を言うか、俺は嘘などついたつもりは無い、中庭に緑が増えたことで虫も取りやすくなったし、地下のネズミをおびき寄せる事も出来る。ちょっと小麦の在庫がなくなったぐらいでクヨクヨするな!!」
「…なあ、サタン」
「ん?」
「お前、本当に冒険者真似事をするつもりか?」
「無論だ、俺が稼げるようになれば美味しい物を皆で食べられる」
アダムは舌打ちをした、心底楽しそう言うから、こちらから何と声をかければいいのか分からなくなったのだ。
「ここにまともなギルドが無いのは知ってるだろ」
アダムの言葉ももっともだ、こんな掃きだめでまともな仕事に付けるはずもなく、盗賊まがいの犯罪ギルドもどきしかないのだ。
「ああそうだな、だが仕方ないんだ、」
サタンの声がいつもより小さくなる。能天気なこいつにも人並に心配とか不安とかそういう感情があったのかと内心安堵したのは内緒だ。
「カッコ悪いだろうがそこは我慢だ!!」
アダムがサタンに蹴りを放った、人の心配を何だと思っているのだろうか?
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「サタン! たいへんだ!」
息を切らした孤児が食堂に飛び込んでくる。
「おやつにリンゴを取りに行ったんだけど……
なんていうか、中庭の様子が……おかしいんだ!」
言い終わる前にどさりと孤児が倒れる。
「へへへ、この下級戦士キャロット様が相手だガキども」
「クッ、この僕が!!油断した」
悔しそうに足蹴にされる背丈の低い少年のシルエットが蹴り飛ばされる。
それは肩パットを付けた巨大なニンジンだった。市場で見る細長い白い根菜とは似ても似つかないオレンジ色に輝く丸々とした異形のニンジン。
一瞬そのカラフルなオレンジ色に毒の根かと逡巡するも──
「聞こえる、食材の声が、あれは食べられる」
リリスの声に子どもたちは顔を見合わせる。
「「シチューの具が自分から来やがった!!」」
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崩れた廃教会の中庭。
昨日まで普通の畑だった、はずの場所。
彼らの物語は、そこで動き出す。
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