第4話 小さな成果と、口の軽い人

翌朝。

村の子どもが一人、昨日より元気に走っていた。母親が頭を下げる。


「昨日、煮た水をもらえたので……本当に助かりました」


「そうか。なら最初に来たかいがあったな」


実際はまだ井戸は完全にはきれいじゃない。

でも「やってる」「順番がある」と見えるだけで、人は回復方向に気持ちが傾く。


その様子を、通りの端で見ていた女がいた。

腰に布を巻いた、いかにも噂好きそうな村女だ。


「あんたが決めたのかい? 昨日の順番」


「そうだ」


「へえ……。あたし、隣村に親戚がいるんだけどさ。あんたが来たって言っといていい?」


「いいが、まだ何も終わってないぞ」


「“祈りの準備を決めた”ってだけでも言っとくよ。向こう、最近薬で揉めてるから」


(……広がるのが早い)


これはこれでいい。

「勝手にやってる貴族」じゃなく、「助けてくれた貴族」として噂が出れば、前の人生とは逆向きに広がる。


(この調子で進めておいて、上から来たときに“もう村が受け入れてます”って言えば通しやすい)


アーヴィンがそう計算したそのときだった。

村の入り口で馬のいななきがした。



【見せて広げる】


・小さく出た成果をその場で拾って「効いた」をすぐ共有した

・噂を止めずにむしろ流して、“やってくれる側の貴族”にイメージを寄せた

・「まだ終わってない」と自分で言って、期待値を上げすぎないようにした


→ 実績は大きく、約束は小さく見せると、次のお願いが通しやすくなる。

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