第18話 味方

 魔力の暴走により包帯は燃え、小さな2本のつのきばあらわになる。


 必死に隠してきたはずの秘密が、一瞬にしてバレてしまったのだ。


「鬼よ」


「鬼だ」


「幸せ結びさんが、鬼をやとっていたなんて」


 炎は燃え続け、建物を次々に壊し、人々は熱さに痛みをうったえる。私自身さえも、この熱さにえられそうにない。


「共に来い」


 黒鬼は、鋭い爪の手を差し出す。


「私は、鬼だけど、鬼じゃ、ない……っ」


 私が、私から大切なものを奪った鬼族と同胞なわけがない。鬼である事実は変えられないけれど、人間と共に歩みたい気持ちに嘘は1ミリだってないわ。


「ほう? 人間側とは。だが、周りをよく見てみろ」


 炎に焼かれ苦しむ人々の悲鳴、私を冷酷れいこくな瞳で睨みつける鬼狩りたち。


「新人ちゃん、おばさんたちを、ずっとだましてたのね」


 いつだったか、夫が梅マヨが好きなのよと言って5つも買ってくれた50代くらいのおばさんまで、私を見る瞳は冷たかった。


「人間はお前を受け入れてはいないようだが?」


 黒鬼の言葉が凶器となり、ぐさっと、不安定な心に突き刺さって抜けない。


 刺さったところから、傷は広がっていき、やがて痛みは魔力をさらに暴走させてしまうことに。


「鬼は出て行け!」


「私たちの家を燃やすなんて」


「夫の重度の火傷やげどをどうしてくれるのよ⁈」

 

 誰ひとり、味方なんていない。


はな、ちゃんに、指一本だって、触れさせない……っ」


 突き飛ばされ気絶していた霜月しもつきくんが、背中の痛みに顔をゆがめながらも、ゆっくりと身体を起こし、黒鬼を睨みつけた。


 赤鬼はゲラゲラ嘲笑わらいながら、炎で燃える建物を金棒かなぼうで破壊していく。そして、人々をさらに苦しめていくのだ。


「鬼とか、そんなん、知ったことか。華ちゃんは、あったかくて、優しい、俺の、大切な友達ひとだ。傷つけんなら、誰であれ、許さないからな」


「はっ! 笑わせてくれる。どう許さないと言うのだ? 立っているのもやっとの状態で」


「俺は、いいや、俺だけじゃない。幸せ結びのおじさんとおばさんだって、華ちゃんの味方だ。何があったって守るよ」

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