第34話:新しい目標
トレーニングを終えた後のクールダウン。
並んでストレッチをしながら、梓がふと尋ねてきた。
「そういえば優斗さん。コンテストも終わって少し落ち着きましたけど、次の目標って何か考えてますか?」
その問いに俺は少し考える。
コンテスト入賞という大きな目標を達成し、梓と付き合うことにもなった。正直、少し燃え尽きたような感覚があったのは事実だ。
「次の目標、か……」
漠然と来年の大会ではもっと上の順位を、とは思っていた。
でも、それはどこかこれまでと同じ道の延長線上にある目標な気がする。
「もちろん、来年の大会では、今度こそ優勝したい。それは絶対だ」
俺は前腕を伸ばしながら、そう答えた。
「はい。私もそのつもりでサポートします」
梓は力強く頷いてくれる。
「でもな……」
俺は言葉を続けた。
「それだけじゃないんだ」
俺は身体を起こし、梓の方を向いた。
「俺、いつか梓みたいになりたいんだよ」
「え、私みたいに?」
きょとんとする梓に、俺は自分の想いをゆっくりと言葉にしていく。
「梓は俺の人生を変えてくれた。トレーニングの知識だけじゃなくて、目標に向かうことの素晴らしさとか、自分を信じることの大切さとか、色んなことを教えてくれた」
絶望のどん底にいた俺を、光の中へと導いてくれた太陽のような存在。それが、俺にとっての橘梓だ。
「だから、俺もいつか誰かの人生を変えるきっかけを作れるような、そんな人間になりたいんだ。昔の俺みたいに、自分に自信がなくて悩んでる人の背中をそっと押してあげられるような」
それは、トレーニングを続ける中でぼんやりと、しかし確実に俺の中に芽生えていた新しい夢だった。
ただ自分の身体を鍛えるだけじゃない。その先にある誰かとの関わり。
俺の言葉を梓は真剣な眼差しで、黙って聞いてくれていた。
やがて、彼女の顔に満開の花のような笑顔が咲いた。
「……すっごく、素敵な目標ですね」
その声は心からの喜びと、尊敬の色を帯びていた。
「優斗さんなら、きっとなれます。絶対に」
梓は俺の手をそっと握った。
「その夢、私も一緒に応援させてください」
俺たちの前には、まだ無限の可能性が広がっている。
肉体を鍛えるという目標。そして、誰かの心を支えるという、新しい目標。
その道のりは決して楽なものではないだろう。
けれど、この人が隣にいてくれるなら。
「ああ。二人で、一緒に目指そう」
俺は梓の手を強く握り返した。
二人ならどんな高い壁だってきっと乗り越えていける。
俺たちはお互いの顔を見て、強く頷き合った。
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