第10話昼休み シルビア目線
「凄いね、寮に住んでいるのにこんなに作ってくれたの?」
色とりどりで、いろんな種類のおかずが敷き詰められた弁当箱に、アルファード様は目を丸くしながら感嘆の声を上げた。
その眼差しには、本気で感動しているのが滲んでいて、心でガッツポーズを作った。
当たり前よ。食べ物にうるさいこの私についている、召使いヴィッツが作ったのよ。
彼は王宮付きの料理人だった過去がある。
失敗する訳ないじゃない。
王都にある屋敷で朝作ってもらって、持ってきて貰った。
「大した事ありませんわ」
わざとらしく、けれど恥じらう乙女を演じるように、私は俯きながら控えめな声で答えた。
「でも、これだけ作ろうと思ったらとても早起きしないといけないだろう?明日からはもう少し少なくていいからね」
「えっ!?作ろうと思ったら!?」
思わず素っ頓狂な声が出てしまって、私は慌てて口元を押さえた。
しまった。
素が出た。
何で、お弁当作りが朝早くと知っているの?
アルファード様は不思議そうに私を見つめたが、すぐに微笑んだ。
「な、なんでもありませんわ。アルファード様の為のお弁当作りなら、早起きも幸せです。だって、今の嬉しそうなお顔を見れるなんて頑張ったかいがありますわぁ」
「そうか、やっぱりシルビアは私の運命の人だ。そんなふうに私の事を一番に思ってくれるんだね」
目を細め、熱のこもった視線を私に注いでくる。
胸が高鳴った。
私の演技に酔ってくれている。 良かった、ごまかせた。 カレンたら、もしかして伯爵令嬢のくせに自分でお弁当作ってたの!?
お弁当なんてお金のない平民に近い貴族が作るものだ。
召使いを雇えない、貧乏人がするもんなのよ。
私は、違うわ。
上級貴族ではないけれど、凄く資産家でもないけれど、ある程度裕福な家だ。 カレンも同じような家なのに、お弁当作り?
それも、誰が作っても一緒なのに、そんなつまんない事してどれだけアルファード様を繋ぎとめようとしてるのよ。あさましい考えだわ。
「嬉しいです。私も、まさかこんな日が来るなんて思っていませんでした。ずっと遠くでアルファード様見ていて、ああ、私ならこうするのに、カレンたら、もう少し考えてあげて、と思っていたんです。全部夢物語だと自分に言い聞かせていたんです。だって、アルファード様の側にはいつだってカレンが我がもの顔でいたから・・・。まだ、夢みたいです・・・」
「幼い時からずっといたからね。周りにはそんなふうに見えたのかもしれないな。だが、今は君がいる。嬉しいよ。そんなに私を見てくれていたのか。シルビア・・・もっと早く気づけばよかった」
「いいえ。今からでも充分です。今ここにアルファード様いることがまだ現実だと思えないんです。ああ、幸せすぎて、抱きつきたいくらいですう」
「シ、シルビア!なんて事を言うんだ!」
顔を真っ赤にしてうろたえるアルファード様。ちらちらと私を見ながらも、どこか嬉しそうだった。
前から思っていたが、カレンとは全く何もなかったのだろう。
おかげで扱いやすい。
「・・・も、申し訳ございません。だってえ、アルファード様がとても好きなんで、つい思ってしまったんです」
私は少し首を傾け、得意の甘える声で、アルファード様を上目遣いで見つめた。
「た、食べよう!せ、せっかく作ってくれたんだ!」 アルファード様は照れ隠しのように声を上げ、慌ててお弁当に手をつけた。
なんて、可愛らしいのかしら。
カレンのおかげだわ。こんなに単純な人にしてくれて、お礼言っとかないとね。だって、たったあんな事で私を好きになってくれたんだもの。
アルファード様は少し食べたが、それ以上箸が進まなくなった。もっと食べてよ、私が食べずらいじゃない。
「嫌いな物がありましたかぁ?」
早く食べてよ、私が食べれないじゃない!
「いや・・・野菜が好きじゃなくて・・・。カレンは色々工夫して作ってきてくれてたから、こんな形のままの野菜は嫌いなんだ」
はあ!?子供か!?
「そうなんですね。でも、私も工夫は得意です。次はアルファード様が食べれるようにしてきますね。でも、野菜が嫌いなんて子供みたい。うふふ。可愛いですね、アルファード様ったらあ」
「そんな事言われた事ないよ。いつもカレンは好き嫌いは、良くないわ、と言って、叱ってくるんだ。でも、シルビアも子供みたいだね。こぼしてるよ」
スカートの上に落ちた野菜を見て、可笑しそうに笑うアルファード様。
「・・・ごめんなさい。私口が小さいから・・・入りきらなくてえ」
「そ、そうだね。可愛い唇してるからね」
恥ずかしそうに頬を染めながらも、ちらちらと私の唇を見てくる。
「あーん、アルファード様にそんな事言われたらドキドキしちゃいますう。もう、アルファード様たらあ」 私は肘で軽くつついて、わざとらしく甘えてみせた。アルファード様はびくんと震えた。
「シルビア・・・。なんて可愛い事をするんだ」
男の、熱い眼差しで私を見つめてくる。
「だってえ、アルファード様が素敵すぎるからですぅ」 「シルビア・・・。なんて愛しい人なんだ・・・」
ぐっと肩を掴まれた。このまま、口付けが来る!?学園中に噂が広まれば、私は確実な婚約者!! カレンもだけど、他の女が諦めてくれるわ。
「・・・シ、シルビア肩に白い物が落ちていた。私はもうお腹1杯だから、ご馳走様するよ」
急に我に返ったように、恥ずかしそうにサッと離れた。
ちっ。まあいいわ。これからね。
「シルビアは?まだ食べる?」
「え!?」
その聞き方が、もう終わりだよね、という感じだった。お弁当はまだ半分以上残っている。それにアルファード様は本当にちょっとしか食べてない。私はこれ全部食べれるけど、
「そうですね。私ももう宜しいですわ」
アルファード様と別れてから食べよう。全然足りないわ。
「それでは片付けてもらおうか」
「え?」
近くにいたアルファード様の護衛の人が、当然のようにお弁当を持っていった。
「あ、あの?」
「綺麗に洗ってもらって返すよ。また明日のお弁当楽しみにしてる。どうなんふうに野菜を食べやすくリメイクするつもりなんだい?カレンは色々してくれて、野菜のポタージュが多かったな。それで、シルビアは野菜をどう変化させてくれるのかな?もう、頭の中では色々考えているんだろ?」
「へ!?」
ポタージュ??
そんなのカレンは作れるの??
野菜を色々リメイク?
リメイク、て何?
「・・・炒めるとか・・・?」
「それだったら、野菜のままじゃないか。シルビアは、誤魔化すのが上手いな。楽しみにして、と言う事だね」
優しく微笑んでくれた。
「そ、そうなんです!アルファード様、楽しみにしといてくださいね」
「嬉しいな。そろそろ戻ろうか」
「はい」
私達はそれぞれの教室に戻った。結局お弁当はどこかに持っていかれたようで、帰ってこなかった。
何よ!こんなじゃ足りないわ!!それに、手作り弁当なんて聞いてないわ!
絶対自分で作ってるわけがない!! あの女、アルファード様の野菜嫌いにつけこんで、そんな嘘までついてたんだ。
カレンがアルファード様を好きだったのは知ってる。でも、アルファード様にとったらその程度だったのよ。 これから週末は王宮で教育が始まるわ。もっとアルファード様に近づいてやるわ!
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