慣れよ 地獄に
第14話 6-1
三好三人衆だが石山本願寺が味方してくれたおかけで野田福島城を織田信長と足利義昭の攻撃から守り抜いたのである。三好三人衆と組む篠原長房も拠点の阿波(徳島)から2万の大軍を率いて畿内に上陸すると信長、義昭に付いた勢力を摂津(大阪)から掃討。長房は畿内の安全確保と石山本願寺との協力も確認すると三好三人衆と共に信長と対峙する朝倉義景と比叡山延暦寺を救援するため近江滋賀に向かって軍を進める事にしたのである。長房と協力関係になった石山本願寺も援軍を出す事になったのである。
長房だが三好三人衆、石山本願寺の戦力で京街道を東に進み近江滋賀の比叡山の南の大津や円城寺周辺に展開する信長を朝倉義景、延暦寺と共同で叩こうとしたのである。同時に南近江の六角義賢にも援軍を送り朝倉義景、延暦寺と歩調を合わせる北近江の浅井長政と義賢で尾張美濃へ後退する信長を足止めし殲滅しようと考えたのである。
義賢は信長に攻め込まれ拠点の南近江や観音寺城を奪われ今は甲賀と国境が近い石部城を拠点に信長の荷駄(補給)への遊撃(ゲリラ戦)を行うなど反撃しながら所領を取り返す機会を狙っており今回の作戦に一番乗り気であった。
今回石山本願寺だが2千強の支援部隊を用意したのである。長房や三好三人衆の2万と動きを合わせる主力の本隊は顕如の右腕と称され武力だけでなく政治力も優れる下間頼簾が大将として選ばれ他に雑賀衆や根来衆の門徒宗を中心とした部隊も2千強が援軍としてやって来たのである。
義賢と行動する別動隊は義賢が2千弱の精鋭で遊撃戦を主に行っているとの情報から百名にも満たないが少数精鋭の特別部隊が編成されたのである。この部隊は越前方面の門徒衆を管轄する下間頼照の腹心の杉浦玄任が大将に抜擢され大役を任された杉浦は周囲の迷惑も感じず喜び勇んでいた。
部隊配分だが頼廉の本隊には長房や三好三人衆の主戦力や雑賀衆と根来衆と共に戦前を張れる実戦経験豊富な六地蔵の清澄と悠然、六花仙のろく、おふう、冬を投入。修行を終えたばかりの新入りで初陣ばかりの男子女子も戦に耐えれると判断された平助、こずえ、清兵衛、お静、お凛は雑賀衆のおいちの部隊に配置。戦はまだ難しいと判断された松丸、ひなた、庄助、たま、弥吉、まえこらは後方の荷駄(補給)業務の担当になったのである。四国の出身の新兵衛とみずなだが四国阿波の出身の長房の配慮で長房配下での行動となった。
精鋭揃いの別動隊は六地蔵の筆頭の心眼、阿形、吽形、六花仙の筆頭の弥生、マリア、石山本願寺でも実戦経験のある僧兵や傭兵を中心に新入りたちも腕有りと見込まれた太郎兵衛、奈阿、倉蔵、京香、一郎、千代目、小次郎、お菊らが配置されたのである。
長房、三好三人衆、石山本願寺、雑賀衆、根来衆の戦力2万5千に朝倉義景、浅井長政、比叡山延暦寺、六角義賢の合計3万弱を加えて戦力では信長の戦力3万に対して圧倒的に長房らが有利で万全の戦いを行えるはずであった。
ただ実際の戦況は常に移り気で想定通りに行かないのも長房も承知であったが。
1570年10月の暮れに長房、三好三人衆と石山本願寺、雑賀衆、根来衆の連合軍は陸路、京街道を粛々と東に進んだのである。別働隊は船を使い淀川、瀬田川を上り山城の宇治田原周辺で顕如の要請を受けて集まった京香の地元の伊賀の門徒衆、支援に来た甲賀の門徒衆と合流し陸路で近江の六角義賢の現在の拠点の石部城に進んだのである。
しかしここで予定外が起きたのである。石部城に入る直前に義賢が石部城から三雲城に撤収したとの知らせが入ったのである。
そのため別動隊は石部城から数キロ東にある三雲城に入ったのである。三雲城だが元々義賢の家臣の三雲氏の城だが信長の重臣の佐久間信盛に攻められ降伏落城し城は破壊破棄されたのである。石垣は残っていたが土塀や建物は破壊されたままの廃墟同然でみずぼらしい急いで作られた小屋がいくつか建ち並び義賢はそこに潜んでいたのである。しかも義賢だが石山本願寺の別動隊が到着すると怒り出したのである。
「なんでこんな少ないんじゃ!もっと援軍を送ってくれ!この好機を生かさねば信長は倒せんぞ!」
義賢の兵力は当初の情報よりもかなり少なく5百まで減っていたのである。聞けば義賢は美濃尾張から信長が布陣する近江大津へ送られる信長の荷駄を奪うなどしていたが10月半ばに新たに信長の依頼を受けて三河から信長救援と義賢打倒にやって来た徳川家康の軍に大敗したのである。義賢は家康に石部城を奪われ息子の義治が籠る野洲川を隔てた対岸の菩提寺城との連携も苦慮する事態になっていた。
事前の情報では義賢には兵が2千ほど居ると聞いていたのでこの予想外の少なさに逆に杉浦玄任、心眼、弥生らは面食らったのであるが。
「すぐに兵を送って欲しい!千じゃ!千で良い!軍資金も兵糧も全然足りん!」
「すぐに連絡を!近江の門徒衆(一向宗)も顕如様から遣わされた我らに喜んで集まってくれるでしょう!」
まくしたてる義賢に杉浦は媚びるように返したのである。
義賢が当主の六角氏だが今は落ちぶれているが源氏の名門佐々木氏の血筋で近江守護を務めていた。杉浦の上司の下間頼照の下間氏も源氏の系統だが六角氏の方が格は上で杉浦が媚びたのはそのためである。
ただ六角の兵たちは信長、家康との戦に連敗した影響で消沈し義賢を見限り織田や徳川に投降してそこで再度兵として活動している者も多いと言う。末端の兵にとっても生き残るためには仕方ない事でもあるが。
義賢を撃破した家康率いる三河衆は2千程度で石部城の城下の宿場町の西の外れの弁財天山に野洲川を堀に見立てて陣取っていると言う。
杉浦だが早速軍議を開いたのである。
「六角殿の援軍の要請ですがさすがに今からでは無理です」
心眼が言うと
「分かっておる。俺に良い考えがある。石部城下の宿場町に門徒衆(一向宗)の寺が何軒かある。そこに行って協力してもらおう」
「徳川家康公率いる三河衆は精強です。(織田信長が朝倉義景、浅井長政連合と戦って朝倉浅井を撃破した)姉川の戦いでも地力を見せて信長公は家康公ら三河衆を絶賛したとか。三河衆に敗れ石部城から逃げた六角には協力などしないと思います」
心眼が厳しく言うと杉浦は舌打ちし少し考えた後、
「弥生!お前の配下に問題起こした奴が居たな」
「はい」
「そいつらに行かせて石部城の宿場の門徒衆の雰囲気を探らせて協力を頼め。世の中は厳しいって分からせる勉強にもなる」
杉浦だが新入りに家康の配下になった石部城下の門前町に偵察と協力の依頼に行かすように命じたのである。
「危険過ぎますのでお断りします」
しかし弥生は即答で断ったのである。
「子供だから逆に徳川も気にせんわ!行かせろ!軍艦としての命だ!」
弥生の拒否に杉浦は怒ったが
「それはいくら何でも!」
「いきなりそのような任務は新入りには無理過ぎる!」
心眼やその配下の阿形と吽形も危険と反対したが
「石山本願寺の軍艦としての命じゃ!」
杉浦だが以前より馬が合わない弥生との不仲もあってちょっと感情的になって引かなかったのである。
「分かりました。軍艦様の命ならば従います。でも何かありましたらあなたに責任を取って頂きますよ?」
弥生だが渋々納得し鋭い目で杉浦を睨むと
「フン!当たり前だ!さっさと行かせろ!」
杉浦も弥生に返す言葉で返し刺々しい軍議は終わったのである。
杉浦が言っていた問題を起こす奴とは太郎兵衛と倉蔵である。石山本願寺の中でも修行の最中から彼らは問題ばかり起こすと有名だった。心眼も修行の最中に確かに手を焼いてはいたが。それで杉浦は世間知らずで生意気な太郎兵衛と倉蔵への 躾(しつけ) 気取りの軽い考えで今回の策を実行したのであるが。
「弥生さん!すんません。あたしの地元の伊賀衆と甲賀衆が危ないので代わりに行くって言うてくれてるんですが?」
京香が弥生に進言すると奈阿がすぐに返答したのである。
「京香、あたしも太郎兵衛と倉蔵と一緒に行く事にしたよ。この時間に男2人だと怪しまれそうやしね。女子が居れば飲み食いや遊びか何かって言い訳ができるからね。それにこれは確かに太郎兵衛と倉蔵への良い躾も一理あるしあたしも太郎兵衛も三河衆だからさ。万が一にも捕らえられても実家(実寺)の名前を出したらそう簡単に同じ三河衆の徳川様だって手を出さないはずさ」
「なるほどやね」
京香は奈阿に納得し
「奈阿が行くならあたしも行こうかいな。一応あたし倉蔵の相手やし」
軽く言ったが
「おやめよ。変な傭兵に当たったら手を出されちゃうかもよ」
「奈阿だったら返り討ちに出来ても京香じゃ無理だよ」
「お嬢さん。傭兵は獣(けだもの)が多いからワシらも反対ですよ」
「そやけど奈阿の言う三河衆同士は一理あるし奈阿だけじゃ太郎兵衛と倉蔵ともめたりせんかいなってね」
千代目と一郎、京香の地元の伊賀衆も京香が太郎兵衛らに同行するのに反対したが奈阿と仲良しだった京香は奈阿と一緒に行く事にしたのである。また男2人だけでこの時間の行動では怪しまれるのもあり結局つがいを組む京香と奈阿も女子友達のように演出するためでもあった。
太郎兵衛と倉蔵は杉浦から任務を言い渡され石部宿の一向宗の寺に渡す密書も受け取ると
「はん。六地蔵筆頭候補として結果を出したるわ」
「本願寺から俺らが来たって分かったらみんな喜んで味方するって」
太郎兵衛と倉蔵は自信過剰に軽く言った。
「おぬしらの年齢は何でも自分が一番と勘違いしやすい。そんな態度じゃ怪我するぞ」
心眼が厳しく忠告し
「他人の話を聞けない思いやれない人は上に立てないわよ。世の中は甘くないわよ」
弥生も杉浦を一瞬睨んでから倉蔵と太郎兵衛に厳しい口調で言った。弥生の言い方に杉浦はいらっとしていたが。
「お前ら。いい加減にせいよ。大人の話は聞けや。ほんまに取り返しがつかんなるぞ」
金閣も続いたが太郎兵衛と倉蔵には馬耳東風であった。
「お菊みたいなでもできるなら俺たちでもできるさ」
太郎兵衛は今回の戦のために新たに支給された真新しい太刀を叩きながら言った(秀吉の刀狩り以前は庶民も護衛のために帯刀する事があった)。倉蔵もうなずいていた。お菊はこの2人が嫌いだったので口を尖らせながら黙っていたが。
「奈阿、京香。危なくなったら逃げるか隠れなさい。絶対に戦ってはダメよ」
「ご心配なく!いざとなったら三河衆と名乗りますのでね!」
「無理はしませんわ!行って参ります!」
奈阿と京香だが元気に弥生に返した。
こうして地元の町衆に見せるため普段着で帯刀だけして4人は出かけたのである。
「あの子たち大丈夫かしら」
弥生は心配そうに見送った。
「あの年頃は自意識過剰が多いからこの世が分からないから下手したらあの世行きだね。かわいそうに。ま、杉浦に責任を全部被らせりゃいいんだよ」
弥生にマリアが返したが
「そうも行かないでしょ?何かあったら親子さんになんて弁解する気?」
弥生はマリアを睨んだのである。
「進むは極楽、退くは地獄だからね。あと自業自得とか諸行無常とか言う言葉もあったかなぁ」
マリアは弥生に構わず呟いた。
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