【悲報】AI物語 ~俺の書いた小説が、俺が書いたものではなかったら~

小宮めだか

第1話 絶望

 俺、月影諒太つきかげりょうたは無造作に伸びきった髪を何度も搔きむしった。

 そういえば何か月も、家から出ていない。

 床屋に行ったのはいつだったか、それすら曖昧だ。


「くそっ!ふざけんな。こいつも!こいつも!俺以下の文章で書籍化だと!編集者はどこに目を付けてんだよ!」


 鬼のような眼差しで、食い入るように見ているノートPCの画面。

 KOMIYAノベルズと呼ばれるWeb作品の著名な投稿サイト。

 その幻想小説大賞の受賞ページだ。

 もちろん受賞者の名前の中に、彼のペンネームである、『月影ワタル』の文字はどこにも見当たらない。

 ギラギラした目は、それこそ百度はそのページを往復したかもしれない。


「俺の作品が……こんな、どうしようもない悪役令嬢ものに負けるなんて!なんだ、この判で押されたようなテンプレ作品の羅列は!」


 俺は目の前のパソコンの蓋を大きく閉じようとして思いとどまる。

 先月新調したばかりの高級パソコンをおいそれと壊すわけにもいかない。

 大事な執筆道具。

 中には自分が心血を注いだ設定資料が山ほど保存してある。


 もう一度自分の作品に目を通す。

 10万字を超えるファンタジー系の大作だ。

 特にWeb小説において、つかみは大事。

 始めの2000文字に、とにかく時間をかけた。

 何度も練り直した。


 プロットラインは完璧!

 キャラは独自性がある!

 オチも秀逸!

 ……そのはずだった。


 何度見てもブックマーク数は増えていかない。PVも伸び悩んでいた。

 それでも編集者の目線で見れば、誰かの目には留まるはず。そう信じて書き綴っていた。それなのに、結果は無残な物であったわけで。


 四千三百六十八の作品中……五百六十二位。

 何度も確かめた。

 ……五百六十二位だ。


 目を擦り付けても、順位は変わらなかった。

 奇跡は当たり前だが、簡単には起こらなかったわけだ。


『魔王学園の落ちこぼれだった俺が、卒業試験で『世界を救え』とか無茶振りされた件 〜どうせなら伝説のパーティ(美少女オンリー)を再結成して、世界のついでに俺の評価も救ってみせる!』


「今、改めてタイトルを見てみると、長いし無理がある」


 落ち着きを取り戻し、冷静に自分の作品を俯瞰して見れるようになってきている。

 テンプレを強引に組み合わせた感が満載だ。どうしてあの時の俺はこれを最高だと思ったのか。

 短いタイトルは読まれないで流されるものだと思っていた。

 自分が悪役令嬢もののテンプレを否定しながら、結局書き始めたものは、どこにでもあるテンプレものだったという事実。


「なんで俺は、美少女オンリーなんて恥ずかしくなるようなカッコ書きを入れたんだ? 今すぐ3か月前に戻って、自分自身を正座させて8時間くらい説教をしたい」


 スマホを開き、Xのアプリをタップ。

 投稿しようと打ち込みかけて、動く指が止まり、そっと×ボタンを押した。

 自分の目線がフォロワー数の上に止まる。


 フォロー五百四十三。

 フォロワー八十五。

 

 自分が投稿する時には、必ずお知らせのポストをしていた。

 いいねやリポストが数件つくものの、それが実際のPVに反映されているようには感じたことは無かった。

 もちろん感想が付いたことはない。当たり前だがレビューなど貰ったこともない。

 自分が膨大にリポストしたポスト群を、死んだような目つきで眺めると、そっとXのページを閉じる。


 くやしさや作品が認められなかったという挫折感。

 自分の作品ページに、ほとんど読者が訪れないという孤独感。

 感想が書かれない、いいねが押されない絶望感。


 いったいどこに向えばいいのか。

 答えはもちろんWord画面の中には存在しない。


 ……確かにパソコンの中や、俺の頭の中には答えは存在しない。


 その時、目に留まったのは、自分の文章の校正のみに使っていたひとつのサイト名。

 そのサイト名は、Chat-JOKERといった。

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