第23話 我慢も楽じゃない

柏村くんが出て行った後、部屋はなんとも言えない空気になっていた。


「あ、あいつ……あんなに、」


さっきまで意気揚々と彼の事を責め立てていた

海野陽が、不満そうにブツブツと独り言を呟いている。



そこに集まる私と美波以外の十数人は、柏村くんの容姿が衝撃的だったみたいだ。


そうなってしまうのは分かる。私も横顔だったけど、久々にはっきりと彼の顔を見た。


成長しても変わらない中性的でとても整った顔。

私を褒めてほしいくらいだ、彼の顔を間近で見て、悶絶せずに平静を装えたのだから。



クラスメイト達は彼の容姿についての事で一杯一杯だったが、そんな中一人が口を開いた。


「やっぱ春、めちゃくちゃ顔良いじゃん!」


高山学人、クラスの中で私達を除き彼に友好的に接している人間。その友好的な態度には嘘はない。何度も調べたから、彼が傷つかない様に。



「は、はぁ!?あんなの整形だろ整形!」


馬鹿にした手前認めれない、いや認めたくない

事実を高山学人によってハッキリと突き付けられ、また海野陽が喚いている。



私も本当ならこいつを殺したい、彼への侮辱は積み重なっている。


最初から彼を守れたら良かった。でも、彼の為にも今は学校での立場は確保しなければならない。


生徒会は無理だった、がある限りは私は入れない。アレは無駄に独占欲が強い、


なら次はクラスや学校全体での評価だ、教師陣も生徒達も認める自分を作らなければならない。


「雅ちゃん、あれ殺したいんだけど。」


同意見だが、この国は殺しに寛容ではない。人を一人消すのにも準備がいる。


それに……


「きっと彼はそんな事を望まないわ。」



そう、それが一番大切な事だ。彼を慕っているから彼が望んで無くても障害を消す、それは彼の為にはならない。


「……そっかぁ、そうだよね。春優しいもん」

「ええ、」


美波、この学校に入学したその日にあっちから

コンタクトがあった。


ただ『あなたも?』と聞かれただけ、それだけで全部察せたし、その時同時に春に助けられた者が集まるグループに入れられた。



自分と同じ気持ちの人は沢山いて、自分の中の彼が誇らしく思えたのと自分と同じ気持ちの人がいると知って嫌だった。



でも誰を選ぶかなんて、私が決める事じゃない。

彼が複数人を選ぶ事があっても文句なんてない。


その中に私が入れて、それが一番なら良いなと思う。



だから控えめに言って他の女は鬱陶しいにも程がある。自分の行動は全て彼の為に、だとか言って彼の了承も得ずに勝手に動いている。


烏滸おこがましいのだその思い込みが、意地汚い欲がみてとれる。



……待っててね、貴方にはまだこの気持ちも何も伝えれないけど、終わらせたらすぐ行くから、、、





「えぇ〜!?春くんついに素顔見せちゃったの?」

「そんな、別に活動者とかじゃないんだから。」


俺が打ち上げで顔を見せた事を話し、大袈裟にリアクションをするのは碧ちゃん。


……なんでいんの?


「ね、ねぇ碧ちゃん。」

「うん、なに?」

「なんでここいるの?」


一番聞きたい事をやっと聞けた。


「そんなの偶々に決まってるじゃん!」


晴れやかに笑ってそう答える碧には嘘は言ってない様に見えた。そっか、偶々かぁ、


「そっかぁ、何してたの?」

「う〜ん、普通にショッピングかなぁ。」


その割には手荷物が少ないというか、無い。


「何も買わなかったの?」

「うん!ほしいの無くて。」


ショッピングって事は服とかだろうか?

服、そういえば碧ちゃんの私服も似合ってるな。


白いワンピースは碧ちゃんの黒藍色の髪を際立たせ、この暗い夜でも輝いて見える。

気合いが入ってる気がする、デート帰りかな?


「似合ってるね、その服」

「ほんと?」

「うん、」

「嬉しい、とっても!」


やっぱり碧は笑ってる顔が一番だな。……殆どの人がそうか。


「あっ!そうだ春くん。」

「どした碧ちゃん、」


何かを大事な事でも思い出したのかな?


「海野陽だっけ?そいつ、どうしてほしい?」


あれ、さっきまでの笑顔どこ行った?少し前まで俺に向かって微笑んでいた碧はもういなく、別人の様に冷たい目をしていた。


最近はよくこの目を見る。でも、いつもと違う何かが混じっている気もした。


「あ、碧ちゃんは関係ないし、何もしな──」

「なんで?」


怖い、今までに感じた事のない恐怖だ。碧は今何を思っているのかは俺にはわからない、きっと俺に悪い感情を向けているわけじゃないんだろう。

……でも、


「春くんが馬鹿にされたんだよ?一歩間違えれば、、、ううん、もういじめみたいなもの。」

「あ、碧ちゃ──」

「はるくん、私に貴方を救わせて?貴方が私にそうしたように、」


俺の声は届かない、この前とは違った。俺に夏樹と一緒に寄り添い、過去を癒してくれた碧じゃない。



「……碧ちゃん、何もしなくても俺は大丈夫、、」

「それ、本当?」

「うん、俺は別に傷ついたなんて思ってないよ」



なんだか必死になってしまう。今、この碧ちゃんを止めないと、取り返しのつかない事が起きそうだから。


「ほんとのほんと?」

「ほんとのほんとだよ」

「……」


碧はジッと俺を見つめている。まだ疑われてるのか?



「ふ〜ん、じゃあいいや。私何もしない!」


ほっ、いつもの碧だ。同時にいつも思うけど切り替えが凄いな。


「春くんって我慢しがちだし、優しいからあいつらの為に、嘘ついてるのかと思っちゃった!」

「ははっ、」


今は笑って誤魔化そう、そして碧は怒らせない様にしよう。

……たぶん、次はないから。




うざい、鬱陶しい、気色悪い。


春くんには見られていないだろうか、話を聞くたびに憎悪が込み上げてきて、どんどん歪んでいくこの顔が。



海野陽、やっぱりいらないなぁ。


今の学校に来て初めにとして挙がった人間だ。


でも春くんに許可も取らず何かしようとは思わない、それで春くんに嫌われたら私は壊れてしまう。春がどうしたいかが一番なんだ。


「海野陽だっけ、そいつ、どうして欲しい?」


そう言ったら春くんは関係ないって言った。私に、、、


「なんで?」


気づいたら春くんに聞き返していた。ごめんね、今の私は少し怖かったんだろう。春くんは少し震えている、だって怖かったの貴方に関係ないなんて言われて、築いてきた今までが崩れそうで。



春くんはどこまでも優しい人だ、念を押して聞いても大丈夫だと言ってる。

やられたのは自分なのに相手の事を考えている。


今回はいい、春くんは嘘をついていない。無理をしている時は顔に現れるから、


私なんて他と比べたら優しい方だ、まだ何もしないのだから。きっとここにがいたら、海野陽は本当に死んでいるかもしれない。



……でも次はない、次は春くんの優しさだって無視する。これ以上ゴミに彼の慈悲が向けられるのは耐えられない。




────────────

次回はドキドキのテスト返却!

そして、クラスでの春の扱いが?




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